サンフランシスコに住むべらと、ゆかいでちょっぴりざんねんな仲間と、リトル・ゴーストの物語

九月ソナタ

1. スカンクのマリン

 この物語ものがたりの主人公は、べらという女の子です。

 べらはサンフランシスコに、5ひきの生きものと住んでいます。

 べらは仲間なかま動物どうぶつたちのことを「いっぴき」ではなく、「ひとり、ふたり」とかぞえます。では、そのひとりのスカンクのマリンのことから、ストーリーを始めますね。


 サンフランシスコのゴールデンゲート・ブリッジという赤いはしをわたると、そこはマリンカウンティという地区です。

 はしをこえた左がわに、緑色の丘が見えてきます。そこは「マリンヘッドランズ」と呼ばれ、そのずうっとおくで、スカンクのマリンが生まれました。

「きみはスカンクみたいだ」と言われて、よろこぶ人はいません。人間にんげん世界せかいでは、「スカンク」というのは、「いやなやつ」という意味なのですから。

 

 スカンクがどんなキャラなのかなんて、人はだれも知りません。でも、本当はいやなやつどころか、思いやりがあり、とてもかわいい動物なのです。

 スカンクがきらわれている主な理由りゆうは、あのくさいガスにあります。

 スカンクの専門家せんもんかに言わせると、あれはガスではなくて、水のようなシャワーで、5メートルもばすことができます。そのくさいにおいは2キロくらいにも及ぶそうです。


 でも、それはてきから自分をまもるために出したくさいシャワーで、スカンクがだれかにいじわるをしてやろうと思っているわけではないのです。

 スカンク自身は自分のにおいは感じないので、どんなひどいにおいの中にいても平気です。

 でも、マリンはそこがちがいました。くさいにおいに弱いのです。

 世の中には、いつも、例外れいがいがいます。

 

 マリンは生まれながらに、においにスーパーがつくほど感じやすいのです。それは人間だとすばらしい能力のうりょくなのですが、スカンクの世界せかいではマイナスです。

 マリンはそのくさいシャワーにはがまんできません。

 家族かぞくやフレンズがシャワーをばすと、そのたびにマリンはふらふらになり、たおれてしまうことがありました。

 自分のだしたにおいでも、気を失いました。

「こんなことをくり返していたら、死んでしまうわ」

 ママが看病かんびょうをしながら、泣きました。

「ぼくは生きたいでちゅ」

 マリンも目に大きななみだをためて言いました。


 マリンは生きていくためにはどうすればよいのか、ママとふたりで考えました。においに弱いスカンクは、先祖せんぞにはひとりもいなかったので、おじいさんスカンクにきいても、「こまった、こまった」と言うばかりです。

 マリンは一生けんめいに考えました。だれでも、生きるためには、自分で、一生けんめいに考えなくてはなりません。


 マリンがどんな時にくさいシャワーを出すかというと、てきがあらわれた時と、ストレスがある時です。

「ママ、ぼくはてきがいなくて、ストレスのない平和な場所に行けばいいんだと思いまちゅ。だから、そんな場所をさがちまちゅ」

 マリンはそういう結論けつろんを出しました。


「マリンはやさしくて、とてもおりこうなのに、くさいにおいにだけには弱いのよねえ。生きるには、それしかないわね」

 ママは泣きながら賛成さんせいして、送りだしました。


 それで、マリンはファミリーやフレンズと別れ、ひとりでヘッドランズのスラッカーヒルという丘にやってきたのでした。

 そこは風が強く、白いきりが冷とうこのドアをあけた時のように流れます。

 でも、はれた時には青い海、赤いはし、白いサンフランシスコの町が見えて、それは美しいところです。

「ここでちゅ」

 マリンは、ここがぼくのガンダーラだと思いました。ガンダーラとは天国というような意味です。

 そこではてきもいないので、マリンはくさいシャワーを出さなくてよいのです。だから、気をうしなうこともなくなり、おだやかに、くらしていたのです。


 もちろん、ファミリーやフレンズとのくらしはなつかしいです。

 ファミリーは今ごろ、何をしているかな、とか、フレンズとなかよくあそんだ時のことを思い出しました。

 ひとりのくらしはさみしいです。

 しんしんとした夜には、どうしてこんな身体に生まれたんだろうと泣いてしまうこともありました。でも、生きていくためには、この道しかないのは知っています。

 だから、考えても仕方のないことは考えないで、毎日の中に、小さなよろこびを見つけて、生きていくことにしたのです。


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