目が覚めてもニートだった俺は箱庭でナンバーワンを目指す

たんぽぽあおい

現実ってなんでこうも・・・

「はぁ・・・」

 短い溜息をつきながらベッドに横たわった。これで何時間連続になるのかな・・・俺はふとスマホの時計を眺めた。


 俺の名前は中沢秋人。37歳の男だ。人生順風満帆とは言えないが何とか楽しく生きている。いや、実際のところ最低だ。学生時代の友人はみんな結婚して家庭を持っていくなか、俺の世界は目の前のPCの中にしかない。そう、もう今のご時世すたれてしまったMMOオンライン「シールズウェイカー(SW)」だけが俺の全てだ。SWはサービス開始から13年近く経過した老舗のMMOだがプレイヤーはほとんどいなくなってしまい、どんな収益があっていまだにサービスが続いているのか不思議なゲームである。


 サービス開始当初はギルドでチャットを楽しんだり、レイドボスをみんなで倒したり陣地戦(要塞)の攻防やミニゲームがあってすごく盛り上がった。また、有名ゲームとのコラボがあって俺も少なくない金額を投資した良い思い出もある。しかし、今ではどうだろう・・・。リズミカルにコンボをつなげて楽しんだゲームが、今ではワンクリック放置するだけのゲームになってしまった。今加入しているギルドもここ2年ほどで結成されたもので、ゲームの知識面でもプレイヤースキル面でも俺を満足させられる奴はいない。


 そんなクソゲーになり下がったMMOなのに、なぜ俺が継続しているか?それは簡単だ。俺にはそれ以外の世界がないのだ。13年前は本当に楽しかった。一緒にSWをするリア友もいたし、ギルドメンバーで一緒に狩りにもいった・・・。今はチームでの狩りはとても効率が悪く、ひたすらソロで狩場を走り回るぐらいしかやることがなくなってしまった。


 「はぁ・・・。」

 もう何度目ともわからないため息をついて、俺はギルドメンバーに挨拶をしてログアウトすることにした。ギルドメンバーは何か挨拶していたようだが、この週末のゴールデンタイムにほとんどログインをしないクソギルド、俺は仲間だとも思っていない。こいつらは本当の仲間じゃないのだ。本当の仲間はすでに引退してしまったが、思い出の中の彼らだけが本当の仲間だ。


「たまには酒でも飲むか・・・。」

 時計を見ると深夜2時を回っていた。俺は何時間ぶりになるかわからないぐらい久しぶりに自室のドアを開いた。ドアの前にはお袋が作ってくれたであろうご飯が冷めて干からびかけていた・・・。


 空腹を思い出してお盆に手を伸ばしたが、お盆の上にメモが載っていることに気づいた。『ちょっとずつでも大丈夫だからお部屋を出ましょう。お母さんは秋人の味方です。』メモを見た瞬間、俺の中で何かが音を立ててブチ切れた。誰のせいで!誰のせいでこうなったと思っているんだ!!俺は!俺は!!!


 気づいたら2階の自室の窓から、お盆ごと庭へ向かって晩飯を投げ捨てていた。本当になんで親という生き物は、我々のことを理解しようとしない。何に苦しんでいるかも理解せずに、何が『味方』だ!ふざけるのも大概にしろ!

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