2匹の子猫を拾ったら、異世界で溺愛されました。
鹿目悠
第1話 子猫を拾った日
いつもの仕事の帰り道。
日も落ち、私と同じく家に帰る人がポツポツといる住宅街外れの道をひたすらに歩く。
週末ということもあり、この1週間の疲労が蓄積されていて体がかなり重い。昨晩、なんとなく観ていたアニメの負傷した戦士が体を引きずって歩いていたシーンを頭に思い浮かべながら、それよりはマシだなと思いなおした。いや、負傷した戦士よりもゾンビの方が合っているかもしれない。
そんなくだらないことを考える。
「甘いものが食べたい……そうだ、1週間を乗り切ったで賞の賞品に甘いものでも買っちゃおっかな」
ふと、1週間頑張った自分にご褒美を買うことを思いつき、コンビニに寄るために小さな公園を横切る。目当てのコンビニへは通常通りに道を歩けば少し遠回りになってしまうが、この公園を使うとかなりのショートカットになることに最近気づいた。街灯に虫が集っているのを避けながら、ゆっくりと公園を見渡してみる。
昼間であれば子供たちの楽しそうな声が聞こえてくるであろうこの場所は、今は薄暗いため少し寂れて見えた。
風に揺れて軋むブランコや破れたネットが掛けられた砂場、半分埋まったタイヤの遊具にベコベコにへこんだ滑り台。あとは低めの錆まくった鉄棒もある。
そういえば初めてこの公園を見たときは、たしかシーソーがあったはずだが…そこには何やら金属が埋まっているだけで、シーソーが撤去されてしまったことがわかる。
また、金属から等間隔に地面がえぐられているところを見ると、たくさんの子供があのシーソーを遊んでいたことも見て取れた。その様子に自分は遊んだことがないのにも関わらず、少し寂しさを感じてしまう。
それにしても、あのシーソーはどうやって撤去したんだろうか。大変だっただろうな。
なんて、疲れた頭でこれまたくだらないことを考えていると、そのえぐられた地面に白と黒の小さなボールが2個落ちていることに気づいた。
昼間の子供たちが遊んだ後に忘れていったものかな~なんて思いながらそのボールに近づけば、ボールが勝手に動きはじめて上部に突起が生まれた。
ぎょっとしてつい凝視していると、白いボールと目が合う。そして白いボールは何回か瞬きをした後、「にゃあ」と言って立ち上がり、転がるように一目散にこちらに走り寄ってきた。
それに気づいた黒いボールも後を追うようにこちらに転がってきて、2つは私の両足をよじよじとよじ登り始めた。
「わ!?え、ええ?なになになにっ!?」
「にゃっ!」
「うにゃっにゃにゃにゃ」
スキニージーンズに爪をひっかけてよじよじと登っていた2つ改め2匹は、いとも簡単に私の腰上まで到達してしまう。そして上着のポケットに頭から突っ込み、もごもごと方向を変えて最終的には顔だけを出す形で落ち着いた。今は右と左それぞれのポケットに、白と黒の子猫が顔だけ出している状態である。端から見れば、生きている猫とは思えないかもしれない。
「ちょ、ちょっと!君たち、知らない人間のポケットに入っちゃいけないって親に習わなかったの?!」
「うにゃうにゃ」
「にゃ~」
焦ってよくわからないことを口走ってしまう。それに対して左右の子猫は返事をするかのように鳴いたかと思うと、毛づくろいをし始めた。どうやらポケットの中が落ち着くようだ。
「いや、そんなところで落ち着かないで!それよりも君たち野良?親は?」
「うにゃ~!」
「んに?うにゃん」
「にゃ~ん」
親猫がいないか、他に子猫はいないかと公園を端から端まで確認するが見当たらず、どうやらこの2匹しかいないらしい。
私が話しかけると答えるように鳴いてくれるが、何を言っているか全くわからないし、そもそも私の声に反応しているだけで会話が成立しているわけではないだろう。
自分が犬とグッピーしか飼ったことがないために、猫がどんなもんなのか詳しく知らないのだ。これが子犬だったら幾分かマシだったんだけど…と両ポケットを見てみれば、白い方はキラキラした目を私に向けたまま「うにゃ!うにゃっにゃ!」と一生懸命話し?かけており、黒い方なんてスヤスヤし始めている。
子猫ってこんなに警戒心がないものなの?人懐っこいとしても、懐っこすぎるでしょ!と、つい頭を抱えてしまう。
ポケットから出してここに置いて行くのも気が引けるし、なんだかんだこの可愛い存在に既に情が沸いているのも事実だ。
……仕方ない、腹をくくって連れて帰るか。男は度胸、女も度胸!
「とりあえず土日に空いてる動物病院、探さなきゃ」
「にゃ?」
「ノミやダニの検査に、ワクチンに……柵とトイレと餌もいる。アパートは動物ダメだから引っ越しもしなきゃいけないでしょ。ええと、あとは何が必要?」
「うにゃにゃ」
「ああそうだ、名前か。名前…名前……白いからマシュマロ?黒い方は胡麻団子?……いや、もっと単純にシロとクロ…?」
「にゃう」
そんなこんなで、その日は甘いご褒美ではなく新しい家族を連れて家に帰ることにした。
だがしかし、まさかこの時の選択がこれからの人生を大きく変えるとは思いもしなかった私は、子猫たちの名前に頭を悩ませることしかできなかった。
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