エミリアの不思議な世界
京野 薫
銀の糸
ウトウトと惰眠をむさぼるわたし、エミリア・ローの目を覚ましてくれたのは、今日は静かな雨の音だったようです。
全然自慢になりませんが、魔法使いの里に居たときからとにかく寝つきがよくて、どこでも熟睡できるのが特技です。
まだ魔法使いの里に住んでたころドラゴンさんが数匹やってきて、皆さんてんやわんや大騒ぎで戦ってた事があったらしいのですが、私は木陰でスヤスヤお昼寝の真っ最中。
やっと目覚めた頃には、周囲の木や野原が見るも無残に真っ黒焦げ。
ポカンとしながら里に帰って、なにやら魔法の障壁をせっせと作っていた皆さんに
「ごきげんよう。お菓子を調達したのですが、よかったらいかがですか?」
と、言ったところ大目玉を食らってしまいました……とほ。
どうやら皆さんわたしを探していたようです。
「エミリア・ロー! あなたがいればもっと早く片付いたのに!」
と、師匠のカリン先生は悪魔も恐れる怒りっぷり。
でも、それなら余計に寝ててよかった……申し訳ないですが、戦いは好きではないのです。
……とは言えませんでしたが。
なので、今の生活は大好きです。
自然の音と、草木や日の光、月の光。
虫の音や動物の鳴き声。
頑張って張り巡らせた魔方陣によってモンスターさんも寄り付かないこの土地と小屋はまさにわたしの小さなお城と言えるでしょう。
平和大好き。
そんな事を思いながら外の雨をぼんやりと眺めていると、グルルとお腹の鳴る音が。
おっ、朝から元気ですね。わがお腹よ。
朝ごはんどうしようかな……
ぼんやりと考えてたけど、こんな静かな雨の日はキッチンでガチャガチャとうるさい音を立てる気にはなりません。
うん、今日はあなたでいこう。
わたしはベッドから降りて、入り口のドアを開けると軒先に出て、目の前でシトシト振り続ける雨を見ながら両手をゆっくりと空気を包み込むように動かしながら言葉を紡ぐ。
「我が目に映る万物よ。七つの鍵にて開く扉より、仮初めの姿を示せ」
詠唱が終わると共に、両手からわたしの顔ほどの淡い光が出てきて、それは目の前の雨粒を包みました。
そして、硬くて丸いドーム上になった光の中で、雨粒はチャリンと心地よい音を響かせると共に、なんとも甘い香りを漂わせました。
ああ、おいしそうな飴になりましたね……
雨だけに。
そんな事を考えて1人でクスクスと笑っていると、またお腹がギュルルと……
いけないいけない。
こう見えて、私も14歳の乙女。
何度もお腹を鳴らすのは、はしたないです。
ニンマリとしながら光のドームを手に取ると、弾む足取りでリビングに向かい、椅子に座るとテーブルに置いたドームをスプーンで軽く叩いて、パカンと割る。
すると、雨粒が銀色の玉だったり、銀の糸のようだったりと様々な顔を見せるおいしそうな飴になってました。
どんな形になるのか分からない、この不規則性がたまらなく好きです。
ビックリ箱みたいな喜びと言おうか……
この魔法。
簡単に言うと「自分の周囲の物体を、形はそのままに自らの望む物に変換できる」と言う物。
で、今回は目の前の雨粒を飴に変換したと言う訳なのです。
どうやらこれは魔法使いの里でも私しか出来ない事みたいで、才能あふれる魔法使いが揃う我が里でそれなら、恐らくは世界でもこんな事が出来る魔法使いは私だけなのでしょうか。
カリン先生初め、他の魔法使いの皆様は
「もっと修行して戦いや他の用途に使えるようにしろ! そうすればあなたは世界を手に入れられる」
と目の色変えて言ってきましたが、あいにく全く興味ないのです……そう言う事は。
わたしはただ、のんびりと美味しいものや綺麗なものに囲まれて暮らしたいだけ。
それではいただきます。
銀の玉を口に入れると、さわやかな甘さが口いっぱいに広がる。
ああ、まさに甘露……
次に銀の糸を口に入れて、ぽきりと折る。
こちらはぽきぽきと心地よい食感がさわやかな甘さを引き立たせてくれる。
これ……気に入ったかも知れません。
以前、ザアザア降りの雨を食べてみたときは、水っぽい甘さでいまいちだったのですが、シトシト降る雨ってこんなに美味しかったんだ!
ああ、カリン先生におすそ分けしたいな……
そんな事を考えながら、幸せに包まれた朝食を楽しむわたしでした。
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