再会?

今日もこの時間が来た・・・・


クラスメイトと別れた後廊下を歩き、旧校舎へと向かう。

目的は部員が一人しかいない美術部。


「ゆっくん・・・今日もいるかな・・・」


廊下を歩きながらボソッと呟く言葉を聞くものなどこの旧校舎にはいない。

私の歩く速度は美術室に近づくにつれ早くなって行く。


教室の前についた私は深呼吸をする。


いつも通りに話そう・・・

”漫画で見たあの後輩キャラ”の真似をすれば今日だって・・・


私はいつもの様に教室の扉を勢いよく開けた。


「せんぱーい、今日もボッチ先輩の為に遊びに来てあげましたよぉ~」


これ本当に可愛いのかな?

昔の友達とは言え、一応ゆっくん年上だし・・・先輩だし・・・

どっちかと言えば、部員が一人しかいない部活にほぼ毎日顔を出している私の方がボッチだし・・・


でも今更普通に話せって言われてもそれはそれで話し方わからないし・・・


そもそもあの時、ゆっくんが気付いていてくれたらこんなキャラ作りしなくて済んだのに・・・


* * * *


中学三年の夏・・・母が再婚した。


なんでも、新しいお父さんが仕事で私の地元に来ていた時に母と知り合ったらしい。


顔は普通の四十代前半のおじさん顔、見るからに優しそうで穏やかな表情は王手電機会社の社長と言う肩書で女遊びをしているのでは?と警戒していた私の不安を取り除いた。


正直私としても母にはあんな勝手な・・・って顔も知らないけど・・・父親の事を忘れられる人と再婚して欲しいと願っていた。

願ってはいたが・・・・


「ごめんな朱莉ちゃん、俺の都合で引っ越しさせちゃって」

「いいよ、お父さんだけ離れ離れじゃお母さんが悲しむから」


中学卒業と同時に父の会社のある都会に引っ越すことになった。


でも・・・


今日から高校生だ。

地元の友人と離れた事は残念だったが、女子高生と言う響きに憧れがあった。


(意外と派手な髪形の子っていないんだね・・・)


『都会の学校で浮かないように』と母のアドバイスを元に髪色を金色に染めてはみたものの、思ったより多い元の黒髪と同じ色の新入生が同じ正門をくぐり、新入生歓迎会が行われる体育館に向かった。


「うぃ!金髪のあんた!」

「え?」


体育館に向かう途中、私に話しかける声に振り返るとそこには・・・・


「よかったらウチと一緒に行かね?」


本物のギャルがいた。


私の様に派手な髪の毛なだけではなく、とんでもなく短いスカートに第一ボタンとネクタイを緩めた着こなし。

男子の視線を絶賛集めている最中の女の 子・・・・


「君、ウチと同じ一年っしょ?」

「う、うん・・・・」


私の人見知りが発動し、ぎこちない返事になってしまったがギャルは止まらない。

桃色の髪の毛を揺らしたギャルが話を続けた。


「なんかあんた話しやすそうだし、一緒にどうよ?」

「あっ、ウチ【三上詩織みかみしおり】ね、よろしく」


い、勢いがすごい・・・本物のギャルのコミュニケーション能力凄っ!

都会の高校生ってこんな感じなのかな?

まぁでも、せっかく話かけてきてくれたし、友達は欲しいから・・・・


「うん・・・よろしく三上さん」

「私は、川崎・・・・じゃなくて、日高朱莉」


そうだった・・・・今日から私はになるんだ・・・


「詩織で良いって、ウチも朱莉って呼ぶから」

「う、うんよろしくね」


私は握手を交わし、目的の体育館に向かった。




「それでは運動部最後、サッカー部の部活紹介です!」


視界の放送部が部活紹介の進行を続け、運動部の部活紹介が終った。


「やばっ!あの右端の先輩ちょーイケメンだったくない!?」

「やっぱサッカー部はレベル高いわぁ!」


私の真横でテンションが上がりっぱなしな詩織はほぼ全ての部活紹介で、同じ言葉を吐いていた。


正直私、運動って嫌いだし、したい部活も今の所無いしなぁ・・・・

中学同様、帰宅部かな・・・・


「それでは次、美術部お願いします!」

「はい!」


舞台裏から聞こえた声は男性の声一つだった。

舞台裏から数枚の額縁に入った絵を抱え一人の男の子が姿を現し・・・・・・え?


「ゆっくん・・・・・」


「ん?朱莉、あの先輩の事しってんの?」

「あっ・・・・どうだろ?多分そっくりさんか何かだと思うんだけど・・・」


似てる・・・あの日出会った彼に・・・・


「えー美術部部長・・・・って俺しかいないけどー」


顔も髪型も、十年前の彼がそのまま成長した様な感じ・・・・名前は・・・

水野ー


「美術部部長の水野幸也です」


やっぱり、ゆっくんだ!!


信じられない・・・・ずっと頭の中から離れることがなかった彼が、同じ高校にいる・・・・

あの頃は住んでいる所も・・・・私は彼の名前しか知らなかったのに、今目の前にあの時の彼がいる。


「と言う事で、文化祭には部員一人一作品の展示をする以外には特に部の方針や決まりもないので絵を書いた事がない人でも、気軽に美術室に足を運んでみてください!」


私が昔を思い出している間に美術部の部活説明は終わり、ゆっくんはまた舞台裏に戻ってしまった。


「それで?朱莉の知り合いだった?」

「うん・・・・びっくりしたよ。十年ぶりに見たから」

「十年!?凄いね、もう恋愛映画じゃん!」

「そ、そんなんじゃないよ!」


そんなんじゃ・・・・・多分ないとは思っていたんだけど・・・

空想の存在と言うか何というか。

確かにあの思い出は本物だったけど、二度と会えない人だと思っていたから・・・

ずっと想っていた気持ちが今、表に出てきそうになっている。


「羨ましいなぁ、ウチも早く彼氏欲しいわ~」

「まだ付き合ってないから!」

・・・ね。ニシシ!」


恥ずかしさを誤魔化す様にそう言ったが、詩織に揚げ足を取られ揶揄われてしまった。


「それで?朱理は美術部にするの?ウチは帰宅部一択だけど」

「うーん・・・絵は嫌いじゃないし、その・・・先輩もいるから」

「へぇー結果聞かせてよね」

「う、うん・・・」


私は放課後直ぐに美術室へ向かった。


後書き

読んでいただきありがとうございました。

後1.2話ほど朱理視点の回想が続きますが、お付き合い頂けると幸いです。

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