嘘告白
「例えば目とかは・・・・ほら、こんな風に瞳の中に光を描くと綺麗に見えるでしょ?」
俺は放課後の教室で風谷からいつもの様に絵の書き方のコツを教わっていた。
慣れた手つきでノートに書いたキャラクターの目は俺とは違い、瞳の中に光を入れる事で黒目と白目のバランスが取れ、自然な目になっていた。
「うわっ!すげぇ!!」
「確かにこの書き方だとリアリティ増したかも!」
「えへへ、でしょ?目一つでもいろんな書き方があるんだよ」
流石将来のイラストレーター!
分かりやすい手本を元に教えてくれるし。
教え方も分かりやすくて優しいしそれに・・・・
可愛いしなぁ~
俺が風谷の顔を見つめてそんな考え事をしていると何かを思い出したかのように風谷は問いかけてきた。
「あっ、水野君!部活いいの?」
「え?」
風谷は自身のスマホに電源を点け、俺に画面を向け・・・・って!?
「あっ、やべぇ!もう時間か!」
「ごめんな風谷さん、俺もう行くわ!」
「う、うん!」
俺は急いで荷物をまとめて教室を出た。
部員が俺一人とはいえ、流石に無断で休むわけにはいかない・・・・
偶然たまたま顧問が来た!なんて展開なれば、ただでさえ部員不足で危うい美術部が廃部に成り兼ねない!
取り合えず、今は即行動!・・・・っとそうだ。
俺は教室に戻り扉から顔を出した。
「あっ、そうそう」
「ん?」
「いつもありがとな!」
「うん、いってらっしゃい!」
俺のお礼の言葉に風谷は手を振り、笑顔で言葉を返してくれた。
「いってらっしゃいかぁ・・・」
俺はさっきの風谷の言葉を思い出し美術室にウキウキで向かっていた。
記憶に残る初恋のあの子の特徴にも似てるし、優しいし・・・・
あーあ、風谷に嘘告されたら即答でOKしちまうのになぁ。
なんでよりによってアイツが・・・はぁ。
憂鬱だ・・・・
事前に告白される事が分かっていても、実際に嘘告白されると思うといい気分しねぇな。
趣味の悪い遊びしやがって、絶対いつか酷い目に遭う・・・・いや遭え!
俺は今日も今日とて美術室にてスケッチブックに絵を描く。
昨日もアイツのせいで練習が進まなかったし、今日こそはアイツが来るまでに一割だけでも・・・・・・・まてよ?
アイツに普通に嫌いと伝えればもうここには来ないのでは?
嘘告白って事は当然女友達が監視に来るわけだ。
そこで逆に嫌いと言われ、恥を掻けばここに来れなくなるのでは?
アイツは間違いなくプライドが高いタイプ。
あいつが俺に生意気な態度を取れるのも今日まで・・・フフフ楽しみだぜ!
今まで半年間も俺の事を馬鹿にしてくれやがって!
おっ、考えたそばから来たな・・・・
廊下をと歩く音と共に上履きがキュッと擦れる音が聞こえ始めた。
美術室があるのは新校舎の隣に位置する旧校舎四階の端。
このフロアには美術室の他には倉庫と家庭科室、家庭科準備室だけ。
家庭科部は無い為この階で人が歩く音が聞こえればそれは九割近い確率で美術室に用がある人。
顧問の南先生はめったに美術部に顔を出さない。
つまり今この場に向かっているのはあの後輩、日高であると予想が付く。
それに今日の足音は一つじゃないしな。
さぁ俺・・・いつもの様に自然な感じで行けよ・・・
呼吸を整え終わると同時に美術室の扉が開いた。
「せんぱーい、今日も遊びにきて上げましたよ」
「へいへい、お前は毎日暇そうだな」
開口一番デカい声で美術室に入って来たと思えば俺の前まで歩きスケッチブックを取り上げる。
「アハハハ、まーた落書きしてるんですか?」
はぁ、コイツホント腹立つな・・・・
だぁーがぁ!今日は俺のターン!
へへへ、早く告白してきやがれこのビッチが!
「うっせなぁ、毎日言ってるが用事がないなら帰れよ」
「よ、用事がないわけじゃ・・・ないですけど・・・」
おいおい、こいつ凄いな。
雰囲気作りが女優並みじゃねぇか。
頬を赤らめチラチラとこちらを見てくる。
そしてついに・・・その時が来た。
「先輩って今・・・付き合っている人っていますか?」
「いない・・・けど・・・・」
俺も俺で視線をチラチラと泳がせてみる。
フハハハ!どうよこの俺の演技!
いかにも『おいおいもしかしてコイツ、俺の事好きなんじゃね?』と言う態度に見えるだろう。
「じゃ、じゃあ大丈夫ですね」
「何が?」
『フー』っと胸に手を当て深呼吸をした日高はついに・・・・
「先輩・・・好きです。私と付き合ってください」
来たー!!!本っ当に来た!!
「え・・・えっとそれは・・・・」
いかんいかん、告白なんてされた事がなかったから少し同様してしまった。
さぁ言え!俺っ!!
「実は俺も・・・・ずっとお前の事が・・・・」
言え!!!
「・・・嫌いだ」
「え?」
俺の言葉を聞き、日高は目を大きく見開いた・・・・
「なんだ、意外だったか?」
「当然だろ?こんな生意気で可愛げのない・・・・嘘告白までしてくる様な女なんて」
「どうしてそれを・・・」
「たまたま聞こえたんだよ・・・ったくくだらない事しやがって」
「あっ『盗み聞きとかキモい〜』とか言ってきても無駄だからな」
「嘘とは言えお前は見下していた男にフラれたって事実は変わらないからなぁ」
「そもそも、お前は俺の好きなタイプじゃないし」
教室の外に居たギャラリー達はこの予想外の状況を面白く思わなかったのか、一人ずつ帰って行った。
コイツは多分気付いていないんだろうな。
俺が教室外に意識を向けていると、日高は俺に問いかけてくる。
「じゃ、じゃあ先輩の好きな人ってどんな人なんですか?タイプは?」
「は?なんで俺がお前なんかに好きな人を・・・タイプを教えなくちゃいけないんだよ」
「なんですか?私には言えないようなタイプなんですか?ダッサ!」
チッ、わかりやすい挑発してきやがって・・・・
ムキになってか立て続けに質問をしてくる日高だが・・・・
「んまぁ、いいだろう教えてやる!」
「はい・・・」
俺は十年前のあの子を想像しながら言葉を発した。
「俺の好きな人って言うかタイプはやっぱり初恋の子だな」
「あーよく私に悔し紛れに言ってた先輩の妄想の子ですか?」
こいつに『先輩は幼少期ですら女の子と話したことがないんでしょうね』と煽られていた時に話していた初恋の女の子の話・・・・
こいつはいつも俺の妄想がキツイと馬鹿にしていたが、この記憶は確かに本物だった・・・・それに・・・
「はっ、妄想じゃないんだなぁこれが」
「・・・それって・・・どう言うー」
「俺のクラスに初恋のあの子と色々似ている子がいるからな!」
「は?」
風谷は絵も上手いし、どことなく記憶のあの子と特徴も似ている。
高一で知り合った仲だが、風谷があの子であって欲しいと願わなかった日はなかった。
「いやぁ、性格も良いし絵も上手いし・・・・可愛いし」
「もうぶっちゃけあの子が俺の初恋の相手なんじゃないかと思うわ」
「な、なに言って・・・・」
なぜか言葉の波に乗っていた俺は自分の気持ちをさらけ出していた。
「もういっその事今、”あの時の子”かどうか聞いてくるか!うん、そうしよう!」
「違っ・・・その人は・・・」
ホントはそんな勇気はないけど、こいつに言いたい事も言えたし、ボロが出る前に消えよう・・・
「そんじゃあなぁ~もうここには来るなよ」
俺はその言葉を伝え逃げるように教室を後に・・・・しようとしたのだが・・・・
「おい、何すんだ?離せよ」
日高は俺の腕を掴み離さない。
それはまるで俺が教室を出る事を引き留めている様だった。
「もし・・・・もしですよ・・・・」
日高は頬を赤らめながら言葉を続けた。
「先輩が十年前に会った女の子が・・・・私だって言ったらどうしますか?」
「は?」
日高の言葉に俺はその場に固まった・・・・
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