親ガチャ/しあわせシェアハウス

間野 ハルヒコ

親ガチャ/しあわせシェアハウス

 親ガチャ。


 子供が親を選べないことをソーシャルゲームのガチャにたとえた言葉だ。


 お姉ちゃんはよく「親ガチャに外れた」と言っていた。

 親が金持ちならよい教育を与えられ、可能性に恵まれて、できることが増える。


 人の能力は遺伝によるところが大きく、顔がいいのも太りにくいのも速く走れるのも頭がいいのも心が優しいのも、すべては生まれが関わっている。


 だからわたしたちは生まれながらに不利で、何をしてもダメで、生まれてきたことそのものが間違いだったのだと、そう言っていた。


 だからお前は間違ってると、包丁をわたしに向けて。



 








 焼けるような夏の日だった。


 蝉がうるさくて、頭の中に入ってるみたいで。

 日差しが強くて、空気が澄んでいたのを覚えている。


 空気は透き通ると音をさえぎる力が弱いのかなと考えて、やめた。わたしなんかが考えたってしかたないことだと思ったからだ。


 上野駅を降りて歩くとすぐ空気が雑多になる。

 アメ横は人まみれで異国みたいだった。


 強すぎる日差しはをすべてを焼き殺してしまいそう。


 道行く人がわたしに気づいてぎょっとする。

 気まずそうだ。気を使わせてしまって申し訳ないなぁと思う。


 わたしは顔に大きなガーゼと絆創膏が貼っている。

 それが人に気をつかわせてしまうのだ。


 すみません。

 と、心の中で謝る。


 それでも、大多数の人はわたしを無視して歩いてくれる。

 気が楽だった。


 人に紛れていると落ち着く。無視してもらえるから。自分が空気にでもなれたようで、この世から最初からいなかったような気になれて、落ち着く。


 でも、いつまでも空気ではいられない。

 そろそろ人間をしないと。


「あ、ああ。あの。こ、これください!!」


 露店に並ぶ旅行用の大きなスーツケースを指さしてわたしは叫んだ。叫んだつもりだ。


 店員さんは少しわたしにの顔に面食らってから耳に手を当てる「よく聞こえないからもう一度言って」と言っているようだ。


 今日のアメ横は人のたくさんでうるさい。おまけに蝉もうるさいので、わたしの声なんて届かないのだ。


 わたしがなんとか身振り手振りでわたわたとすると、店員さんが値札を見せてくれた。高いのか安いのかわからない。わたしは即決してスーツケースを買う。


 急がないと。

 急がないとお姉ちゃんが帰ってくる。


 わたしはお姉ちゃんにDVされていた。

 だから家出しようとしている。


 スーツケースを買ったことがバレれば、また殴られる。スーツケースだって捨てられてしまうだろう。この買い物をした時点でわたしはもう引き返せない。逃げるしか。


 このまま逃げ切るしかないのだ。


 すぐに家に引き返す。

 まとめておいた服と最低限の日用品。

 そして銀行の通帳とカードをスーツケースに詰めてすぐに家を出た。


 築何年かもわからない、古い1LDKはお姉ちゃんが借りたものだ。


 わたしたちに親はいない。

 いたのだろうけど、どこにいるかわからない。

 だからわたしはずっとお姉ちゃんと一緒にいた。


 お姉ちゃんは言っていた。


「わたしたちに未来はないの。×××は何も知らないだろうけど、世の中には、Fランって言って大学を出てもロクな就職先がないひとがいっぱいいるの」


 施設育ちのわたしたちの最終学歴は中卒だった。


「だから、若いうちにいい人を見つけて結婚しないとならないの。Fランじゃなくてもっといい大学を出ているひとを。わたしたちには若さしかないから。言ってる意味、わかる? わからないよね」


 お姉ちゃんは勉強が嫌いで。

 施設暮らしの他の子が高校に進学する中、どのみちロクな学歴にならないのだから勉強しても意味がないと言って進学しなかった。


 幼いわたしは「お姉ちゃんは頭がいいなぁ」とぼんやり思いながら、お姉ちゃんに何かわるいような気がしてわたしも進学しないことにした。


 国の世話になんかなりたくないという理由で、お姉ちゃんがあらゆる援助を拒んでいたことは後になってわかった。


 お姉ちゃんがケンカをして施設を出た後は、お姉ちゃんの友達の家を転々としていた。


「私は自分磨きに忙しいの、お金は×××が稼ぎなさい。ああ、今度こそ捕まえてやるんだから……」


 働くのと家事をするのはわたしのやることだった。


 最終的にお姉ちゃんが結婚すればわたしはお姉ちゃんに養ってもらうことになるのだから、わたしが働くのは当然のことだと言われた。


 確かにそうだなぁと思った。

 少なくとも当時は。


 新聞配達をしたりスーパーで働いたりしていると、少しずつ常識というものがわかってくる。


 わたしの価値観は大きく変わったのはスマートフォンを手に入れてからだ。

 わからないことがあれば調べればいいのだ。


 マップを見れば知らないところにだってたどり着ける。

 料理のメニューは探しきれないくらいたくさんあって、スーパーの特売のチラシも見れる。


 お姉ちゃんがわたしをぶつのは本当はよくないことで、DVと言うのだと書いてあった。


 わたしが道に迷わなくなり、料理が上手になってくると。二十歳になったお姉ちゃんはあの古い1LDKを借りてそこに住み。人目につかないようにわたしをぶつことが増えた。


 わたしがきれいな服を着ようとすると鋏で切り刻んだし、わたしをばかにして自分の方が本当はずっと頭がいいのだと言うようになった。


 それでいて自分で何かしようとはしない。自分磨きと言うけれど結局は人にぶらさがって助けてもらおうとしているようにしか見えなかった。


 本当に頭がいいひとはお姉ちゃんのずるさを見抜いて近寄らないようにするだろう。


 そもそもわたしたちみたいな底辺の人間をいったい誰が愛してくれるのか。

 お姉ちゃんの結婚作戦はうまくいきっこないのだ。


 お姉ちゃんはお酒で酔ってわたしをいたぶると、ボロボロになったわたしを抱きしめてこう言う。


「ごめんね。ごめんね。でも、許してくれるよね」

「私たち、たった二人の姉妹じゃない」


 ここでうんと言わないとお姉ちゃんはまた暴れだす。

 だから答えは決まっていた。


「うん、そうだね」


 かわいそうに。

 お姉ちゃんは不安なのだ。

 お姉ちゃんを放ってはおけない。

 だって、お姉ちゃんは一人では生きていけないから。


 料理も洗濯もできないのに、わたしが見捨てたらどうやって生きていけばいい。


 だから、わたしは耐えることにした。

 耐えて、耐えて、耐えて。

 限界がやってきた。


 人はかわいそうと思うだけでは生きていけないのだと知った。

 人生をお姉ちゃんに齧られて生きるのが嫌になった。


 逃げればいいと思った。

 わたしも家を借りてそこに住めばいい、それで解決すると思っていた。


「すみません、未成年の方だとちょっと」


 不動産屋さんは困った顔をして両手を小さく広げる。

 未成年のわたしは賃貸契約を結ぶことができなかった。


 身寄りがなく、施設で暴れすぎて出禁になった姉がなぜ友達の家を転々としていたかがよくわかった。成人にならないと賃貸契約は結べないのだ。


 もっと早く調べればよかった。


 わたしは人と話すのが苦手で、お姉ちゃんみたいに泊めてくれる友達はいないし、頼れる人もいない。元居た施設がどこにあるかもわからなかった。


 20歳になるまで耐える?


 最近のお姉ちゃんはお酒に酔うと刃物を振り回す。当時まだ17歳だったわたしは、お姉ちゃんに殺されるのとわたしが20歳まで生きる確率がどちらが高いか考えた。


 手立てを探しているうちに、あるニュースが目に飛び込んでくる。


 2022年4月1日。

 民法が改正されて成人年齢が18歳に引き下げられることになったのだ。


 奇跡だと思った。


 その上、お姉ちゃんはニュースが嫌いだ。

 このチャンスを活かさなければ。そう考えた。


 しばらくして、18歳の誕生日が来た。


 お姉ちゃんはどこかに泊りに行ったきり戻ってこない。

 たぶん男の人のところだろう。


 いつも通りのお姉ちゃんにほっとしながら買ったばかりのスーツケースを引いて、不動産屋さんに向かう。


 確かに親ガチャはあると思う。

 だからってわたしがお姉ちゃんと同じだとは思わない。


 違うはずだ。


 わたしはもう成人した大人なんだ。

 賃貸契約だってできる。

 これからは一人で生きていくんだ。


 それなりに重いスーツケースが、今はどこか頼もしかった。


「え、今すぐ入居ですか」


 不動産屋さんは驚いたような顔をして「審査がありますので、今すぐというのはちょっと」と言った。


 成人したのだからすぐ家を借りられると思っていたわたしは焦る。


「審査って、どれくらいかかりますか」

「長くて一週間ほどですね」


 一週間……その間どうやって生きればいいのだろう。


 今更家になんて戻れないし。

 そもそも審査が通るかもわからない。


 こんなことになるなんて。


 やっぱりわたしはばかだ。

 自分の頭のわるさが嫌になってくる。


「ところで、お仕事は何を」

「すみません、ちょっと前に全部辞めてしまって」


 引っ越し後も同じ職場にいれば間違いなくお姉ちゃんがやってきて暴れる。

 職場に迷惑をかけたくなかったので事前にすべて辞めていた。


「保証人についてなのですが」

「ほしょうにん?」


 家賃を支払えなかった時、代わりに払ってくれるひとのことらしい。

 家族はお姉ちゃんしかいないし、そのお姉ちゃんは敵なのだ。


 助けてくれるひとなんていない。


 わたしが絶望的な顔をしていると、不動産屋さんはまるで子供に語りかけるように「どなたかご家族の方と連絡はとれますか?」と言った。


 優しい顔だ。

 その優しさがひどく苦しい。


(その家族は絶対に連絡したくないひとなんです)


 言えるものなら、そう言いたかった。


 包丁を振り回すような姉がいるわたしを、誰が住ませたいと思うのだろう。


 誰も怒ってなんていないのに、わたしは涙目になってしまう。

 惨めだ。わたしはなんて考えなしのばかなんだろう。


 今から家に戻る? 戻ったらお姉ちゃんに怒られる。スーツケースだって捨てられてしまう。じゃあ、先にスーツケースを捨てて黙って入れば? 捨てるってこんな大きなものをどこに? 不法投棄は犯罪だ。警察に捕まりたくない。わたしは顔に出る方なので、お姉ちゃんはわたしがおかしいことに気づいて、何をしようとしたかぜんぶ説明させるだろう。結局怒られることになる。


 そんなことをぐるぐる考えているうちに泣きだしそうになって、ありがとうございましたも言えずに不動産屋さんから出て行ってしまった。


 どうしようどうしようどうしよう。

 わたしはどうしたらいい。


 とにかくその場から離れたいという気持ちだけで電車に乗って、何の計画もなく知らない駅で降りて、どこかもわからない公園でうずくまると。時間だけが過ぎていく。何もなせないままに。


 自分がやっているのは子供じみた家出でしかなかったんだと気づいて、現実という大きなものがゆっくりと心を押しつぶしていくのがわかった。


 お姉ちゃんに謝って許してもらう?


 でも、何を?

 こんなことになったのは元はといえばお姉ちゃんのせいだ。


 そういえば、お姉ちゃんはなぜわたしに暴力を振るうのだろう。

 わたしは何もわるい事なんてしていないはずなのに。


 夏休み中らしい高校生が楽しそうに通り過ぎていく。

 何する?とか、海行きたいとか。しあわせそうな計画を立てていた。


「ずっと家にいてもつまんないしさ」


 言葉が刺さる。


 帰る家があるっていいね。

 わたしもそういう人生がよかったよ。


「う、ううう」


 べしょべしょに泣きながら、こんなことをしていても意味ないとわたしの冷静な部分が呟く。どうしたらいいかわからないままに。


 なぜわたしばかりがこんな目にあわなければならないのだろう。


 理由はわかっている。

 わたしの頭がわるいからだ。


 わたしの頭がよければ、こんなことにはならなかった。


 この計画がダメなことにも気づけたはずだ。

 調べればよかったんだから。


 これは親ガチャでお前の頭がわるいのは親のせいだと、心の中で姉が呟く。

 どうせ何をやっても無駄なんだ。


「だから諦めて戻ってきなさい」


 ちがう、ちがうはずだ。

 これはわたしが間違えただけだ。


 これはわたしのせいだ。

 お姉ちゃんみたいにはなりたくない。


 人のせいにして生きていきたくない。

 嫌だ。嫌だ。


 日が落ちて暗くなってくると。

 やっぱりわたしはダメなんじゃないかという気持ちになってくる。


 いつまでも公園にいるわけにはいかない。


 あてどなく歩くと、いつの間にか夜の街が輝いていた。

 行く当てもなくうろついていると、すぐに明かりは消えていって、人もまばらになっていく。


 帰る場所がないのはわたしだけみたいだ。


「安いヨー安いヨー」


 声に引かれてふと見ると、東南アジア系の女の子が眠そうな顔でホワイトボードを持っていた。呼び込みだ。こんな時間に小さな子を働かせるのは法律に違反しているのでは。


 ホワイトボードには「ナイトパック8時間いまだけ2000円!」と書いてある。


 いかがわしい店かもしれない。

 でも、そういいうお店には男のひとが行くものであってわたしみたいなのに話しかけないのでは?


 そんなことを考えていると、呼び込みの女の子と目があう。

 なんとなく気まずくて申し訳なくなって、話しかけてしまった。


「あの。すみません、どこに行ったらいいですか?」


 後になって思えば変な言葉だ。

 もしかしたらわたしは行くべき場所を教えて欲しかったのかもしれない。


 あの子はわたしのことなんて知らないのに。

 だから、この言葉は単に「お店はどこですか」という意味に受け取られた。


 呼び込みの女の子はあまり日本語が話せないのか「ん」と言ってビルのエレベーターを指さす。呼び込みの子が眠そうなまま手を振ってくれた。不安そうに見えたのかもしれない。


 この時点のわたしは知らなかったことだけど。そこは漫画喫茶と呼ばれる場所でホテルに泊まるよりも安く一晩を過ごせる。ある種の最適解だった。


 そこに至ったのは本当にただの偶然で、単に運がよかったとしかいいようがない。


 もっとも本当の意味で運を得ることができるのは行動したひとだけなのだけど。わたしがそれに気くのはもっとずっと後の話になる。


 漫画喫茶ナイトパックの通常料金は2700円。

 30日計算でも8万1000円だ。


 シャワーも洗濯もできる上にソフトクリームが食べ放題。


 夢のような場所だった。

 ただ家を出たいだけなら、別に賃貸契約を結ぶ必要なんてなかったのだ。


 自分の頭のわるさへの憎しみと、お姉ちゃんに対する申し訳なさと恨み。そして少なくとも家に帰る必要がなくなったという安堵でぐちゃぐちゃになったまま、わたしは眠った。


 自分がネットカフェ難民と呼ばれるホームレスの一種になったことにも気づかずに。

 東京にネットカフェ難民がたくさんいるのはなりやすいからだと思う。


 わたしたちはいつだって調べる道具を持っているのに、どう調べればいいかわからないでいるのかもしれない。



 その夜、悪夢を見た。

 お姉ちゃんは友達と酒を飲んで朝帰りした後、わたしが残したリビングの書き置きに気づく。


 ほとんど読みもせずにどうでもいいと思って、お姉ちゃんは化粧も落とさずに布団に突っ伏して寝る。


 そして夜になって、一向に起こしに来ないわたしにイラつきながらリビングに戻る。夕飯の支度もしていない。まったく何してるのよ。とか言う。これは言いそうだ。


 ふらつきながら洗顔ついでにシャワーを浴びて戻ると、書き置きに気づく。


【もう無理です。さよなら】


 二日酔いに頭を痛めながら「反抗期かよ」とぼやく。

 たまにきつく叱ることがあったのでそれで逃げたんだろう。面倒くさい子。


 お姉ちゃんはわたしがまだ17だと思っている。

 そして、自身の経験から17では家は借りられないと考える。


 男の所に転がり込めるようなキャラじゃないし、あんな傷だらけの顔じゃ引かれるに決まっている。そのために顔を狙ってるんだし。服だって地味なものしか着させてない。


 かつていた施設への連絡先だって教えていない。


 妹に友達はいない。


 できる端から私が間に入ってわるい噂を吹き込んで関係を壊してきたのだから、いるはずがない。人は孤立させたほうが従順になる。


 妹は一度だって私に反抗したことはなかった。

 あの怯えたような、自信なさげな弱虫がひとりで生きていけるわけない。

 だから、しばらくしたら戻ってくるに決まってる。


 そう考える。


 ここでお姉ちゃんは少し冷静になる。


 今、働かずに生活できているのはわたしを働かせているからで、わたしがいなくなれば10万の家賃を支払うひとがいなくなる。


 そんなことはあってはいけない。

 だからそんな事は起こらない。


 ここからはお姉ちゃんがいつも言っていた言葉だ。


 働きたくない。

 だって、みんなはまだ働いていない。

 四年生大学なら四回生時点で22歳。

 私だってまだ22だから。


 留年する人もいるわけだから、さらに数年働かない人だっている。

 なら私だってその年数分働かなくていいということにならなければ不公平だ。

 親がまともだったら。


 親ガチャに当たっていれば、親がSSR……いやせめてノーマルレアでありさえすれば、当然に手に入ったはずの時間だ。

 なぜ私だけが働かなければならない。


 そんなことはおかしい。


 だから働かない。

 働きたくない。


 妹が20になるまであと3年はあるはずだ。

 ならその3年は自由にさせてもらう。


 別にただ遊んでいるわけじゃない。

 飲み会に参加して朝まで酒を飲むのは交友関係を広げていい男とつながるためだ。


 そうすれば専業主婦になって一生働かずにいられる。

 一生懸命進学して勉強なんてしなくても、男に養ってもらえばいい。


 無駄な努力をするなんてばかのすることだ。

 なぜこんな簡単なことがわからないのか、理解できない。


 3年後になったらわたしも25、もうババアだ。そうなる前に男が見つからなければこの人生はどのみちおしまいだし。自殺でもするか。


 そんなことを言う。


 思い出したくもないことを夢に見るのは心を痛みに慣れさせるためかもしれない。


 夢の中のお姉ちゃんは「妹は帰ってくる、焦らなくたっていい」と言ってお酒を飲む。机の上にある妹の置手紙を眺める。ムカついてくる。なぜ私が面倒なことを考えなければならないのと、さらにお酒を飲む。


 置き手紙を引きちぎり、破き、踏みつける。

 何がもう無理だ。無理なのはこっちよ。


 お前はATMなんだから黙って金を渡していればいいのに、余計なことをして。

 お前は私の気持ちがわからないんだから。何もわからないんだから黙っていう事を聞いていればいいのに。


 私にこんなに心配させるなんて!


 帰ってきたらたくさんいたぶってやる。


 そして抱きしめて「ごめんね。ごめんね。でも、たった二人の姉妹じゃない」とささやいてやる。


 そうすればまたあの瞳が見れる。

 すべてを諦めて私に媚びる、あの笑顔がまた見れる。


 そんな事を言う。

 かなり悪役になっていると思う。


 これ本当に言うかな。……ギリギリ言いそうな気はする。


 言わないで欲しいと思うけど、こんな夢を見るという事はわたしはそう言って欲しいのかもしれない。


 なぜだろう。


 ……わたしはたぶん、お姉ちゃんを嫌わなければならないって、うっすらわかっているのだ。

 だから夢の中のお姉ちゃんは嫌われそうなことをするのだ。


 わたしが嫌って、離れないと。

 そうしないともう立ち行かないから。


 だからこんな悪夢を見ているのだろう。



 お姉ちゃんは思い立ったようにわたしに電話をかける。

 少し脅せば、すぐに怯えて帰ってくるはずだ。


「おかけになった電話をお呼びしましたが、お出になりません」


 着信拒否されている時のアナウンスが流れる。

 昔、男のひとに逃げられた時も同じ音声が流れたのをお姉ちゃんは思い出す。


 は、着信拒否する?

 ありえない。妹の分際で。私を拒絶するなんて。


 いらだち、つながるはずもない電話を何度も何度も、狂ったようにかけ続ける。不安が押し寄せてくる。机をひっくり返す。椅子を蹴とばす。さらに電話をかける。つながらない。つながるはずもないのに繰り返す。


 暴れる、食器を壊す。

 いつもなら止めに入るわたしはいない。


 食器棚からすべて引き出して叩き割る。流石に夢っぽいな。


 でも、そういう暴れ方をするひとの写真をネットで見たことがある。お姉ちゃんもそうなるかもしれない。


 何枚か割るのはあったし。

 こうなるともう止まらない。


 これまではどれだけ散らかしてもわたしが片づけたけど、もう片づける人はいない。


 最後には自分で片づけなければならないのだ。

 なんで私がやんなきゃならないの。


 私にこんなことをさせたのは妹なのだから、妹が片づけるべきだ。弁償しろ。これは言いそう。


 妹に電話をかける、つながらない。


「なんで帰ってこないのよ!!」


 叫んでも何も返ってこない。

 誰もいないからだ。


 またいらだつ。これを疲れ果てるまで繰り返す。

 正しいのは自分で間違っているのは妹だとしか思えない。


 幼いまま大人になってしまったことに、本人だけが気づけずにいる。





 そこで悪夢は終わった。


 ずいぶんと都合のいい夢だと思う。

 でも、これはわたしに必要なことなのだろう。


 やられるばかりで、弱いままで、被害者でいれば。

 ひとはいつまでもきれいでいられる。


 でも、それじゃずっと弱いままだ。

 わたしはお姉ちゃんを嫌わなければならない。


 そうしないと前に進めない気がする。 

 これはそのための夢なのだろう。


 逆に言うとわたしは。

 がんばって嫌わなければならないくらいにはお姉ちゃんのことが好きなのだ。





 翌朝、うるさい蝉の声で目を覚ますとスマートフォンの着信履歴が999件になっていた。

 着信履歴を見るとずらっと名前が並ぶ。


 全部お姉ちゃんだった。


 一晩で999回以上電話したことになる。物凄く怒っているのだろう。スマホをサイレントモードにしていたから気づかなかった。


 怖い、今頃は職場に突撃されているかもしれない。

 辞めておいてよかった。スーパーのみんな迷惑してるだろうな……。


 怖いからって家に戻るわけにはいかない。

 謝ったってもっと怖いことになるに決まっているからだ。


 流石にここがお姉ちゃんにバレることはないと思う。

 行き当たりばったりに電車に乗ったからここがどこか自分でもわからないし。


 立ち上がって飲み物を取りに行こうとしたらふらついて倒た。起き上がれない。腰が抜けている。乾いた笑い声が出た。こんなことほんとにあるんだ。


 それでも手は動くので、怖いと思いながらもまた着信履歴を見てしまう。

 着信履歴が11ほど増えていた。見なければよかった。


 怖い。

 なんなの。なんで。


 嫌だ。もう嫌だ。

 なんでこんな目にあわなきゃいけないの。


 何かを調べようとしてスマホを操作しているだけで着信履歴が増えていき、心がガリガリと削られていく。つらい。気持ち悪くなってきた。いつの間にか手が震えている。泣き出しそうだった。


 この頃のわたしは気づかなかったけれど、こうなるのは当然だった。


 わたしからすれば自分が稼いだお金を持っていくのは自然なことでも、お姉ちゃんからすれば家の金を根こそぎ持って逃げられたのだ。それはもう鬼のように電話するに決まっている。


 今まで一度も働いたことのないお姉ちゃんがいきなり月10万の家賃と生活費を稼ぐのは難しいだろうし、働けたとしてもこれまで通りの生活水準を保つのは絶望的だろう。


 いい気味だ。


 と、すべてが終わった今なら思える。


 もっとも、当時は怖すぎてそれどころではなかったけれど。




 わたしは恐怖で過呼吸ぎみになりながら、震える手で着信拒否の設定をする。

 これで落ち着くと思ったのも束の間、着信数は増え続けていた。


 わたしの契約している携帯電話会社の設定では着信拒否しても通知されなくなるわけではないのだと、ここでようやく気づく。


 調べればわかることなのに、また。

 そう考えると、心が痛い。


 自分のダメさに絶望しながら、それでも足掻くしかない。


 でも、それはよいことだったと思う。

 人間は追い詰められると案外がんばれるものだ。


 実際、わたしはすぐに打開策を思いつくことになる。


「そ、そうだ」


 ネットカフェにはパソコンがあった。

 これならあの嫌な着信履歴を見なくて済む。


 這うようにしてどうにかパソコンのスイッチを押して、不慣れなキーボードを両手の人差し指で押していく。まずはスマホを。スマホをどうにかしないと。


「電話番号変更、4000円くらいでできるんだ」


 ほっとした。

 失敗ばかりだけど、それでも前に進んでいる。


 どのみち進むしかないし。いけるところまでいってやるという気持ちになる。

 まずは、ここで調べられるだけ調べよう。


 それから3日間、わたしはネットカフェで調べ物をして過ごすことになる。外に出れば飲食店があるし、コンビニもあるので困ることはない。


 なぜかなんとかなっている。

 それは漠然とした不安になって、自分と同じような生活をしているひとがいないか調べ始めた。


 わたしの人生がこんなにうまくいくわけがないというネガティブな予感は的中する。


「わ、わたし。ホームレスだったんだ……」


 ここでわたしは自分がホームレスになっていることに気づく。

 ネットカフェ難民は社会問題になっていた。


 このままだとゆくゆく困ることがわかってくる。


 ネットには支援団体やNPO法人という言葉が並んでいたけれど、わたしは敷居の高さのようなものを感じて支援を受けようとはしなかった。


 一言にするなら「申し訳ないから」だ。


 わたしはこの言葉で物凄い損をし続けていたのだけど、この時のわたしはまだその問題の深刻さに気づけていない。


 それでも自分なりに足掻いてはいた。


 税金の払い込み用紙はお姉ちゃんの家に届く、ネットカフェに住所を置けるかはわからない。再就職するにしても、どこかでちゃんとした家に住んでおきたい。


 郵便が届くところは必要だ。


 保証人不要の物件。これを探せば。あとすぐ入居できそうなところ。どこかにあるはず。ないと困るし。次の仕事にすぐ就けるかどうかわからないし。家賃はできるだけ安いところを。


 探して探して、見つけたのは。


「シェア…ハウス?」


 見慣れない言葉だった。

 どうやら、複数人で同じ家に住むタイプの物件らしい。


 4万5000円!? 

 ここ東京なのに。家賃が、家賃がやたら安い。


 しかも即日入居可。

 保証人不要で家具までついている。


 こんなにいい条件は普通の賃貸じゃない。


 知らない人と住むのはちょっと怖いけど、いくらなんでもお姉ちゃんよりもやばい人はいないだろう。普通のひとは包丁を持って暴れたりなんかしないはずだ。


 もしやばい人だったら警察を呼ぼう。

 それで大丈夫! 大丈夫だ!


 そう奮起してふと思う。


 なぜわたしはお姉ちゃんが暴れても警察を呼ばなかったのだろう。


 賃貸契約の名義がお姉ちゃんでわたしが賃貸契約を結べない以上、お姉ちゃんが逮捕されたらわたしがどうなるかわからなかったから。これが一番大きい。


 そして捕まらなかった場合、報復されるから。

 あと、好きだったからもある。


 そこまで考えて胸が痛む。


 お姉ちゃんがぶったりしなければ。

 あと普通に働いてさえくれれば、ずっと一緒にいられたかもしれない。


 そもそも、なぜお姉ちゃんは暴れるのだろう。

 お姉ちゃんはいつもわたしのせいにしていたけど、わたしが何をしたっていうの。



 おぼろげに記憶が浮かんでくる。

 お姉ちゃんがわたしに包丁を向けている。 


『わたしたちは生まれながらに不利で、何をしてもダメで、生まれてきたことそのものが間違いだった』


『だからお前は間違ってる』


 だからお前は間違ってる?

 よく考えてみると変な言葉だ。


 ずっと「生まれてきたことそのものが間違っている」って意味だと思っていたけど、何か引っかかる。……もしかして。


 ふと頭の中にもやのようなものがかかって、さぁっと消えていく。

 考えたかったことはすべて、もやと一緒に消えてなくなってしまう。


 わかってはいけないと、心が拒否している。

 胸の奥に温かいものが残ってどこかほっとしている自分がいた。


 これがどういうことだったのかわかるのは、もうちょっとだけ後になってからになる。


 結論を言えば、だいぶくだらない理由だった。




 やることははっきりしている。

 電話番号の変更とシェアハウスの不動産屋さんに連絡だ。




 今はそれだけ考えればいい。

 それだけでずっといい生活ができる。


 お姉ちゃんに蹴っ飛ばされたり、ぶたれたりしなくて済む。

 何も悪くないのに謝らなくてよくなる。

 夜中に何だかよくわからくなって泣かなくてよくなる。


 不動産屋さんと話すのは怖いけど、乗り越えた先を考えれば耐えられる。


 生きる。わたしは生きていく。

 一人でこの世界を生きていける。


 わたしはしあわせになるんだ。



 そう思った。




 携帯ショップで電話番号を変えるとお姉ちゃんから電話はかかってこなくなった。


 今頃、お姉ちゃんの耳には「おかけになった電話番号は現在使われておりません」とアナウンスが流れている頃だろう。


 快適だ。

 もうスマホを操作していても着信履歴が増えることはない。


 これが4000円なら安い。

 少しは心も楽になるはずだ。


 しんどさはあるものの、あまり考えないようにする。


「次は、不動産屋さん」


 やることがあるのはいい。余計なことを考えずに済む。

 前に進んでいるという希望がわたしを支えていた。


 今回は前の失敗を踏まえて質問に答えられるよう練習し、電話で予約をしておいた。

 これで失礼はないはず。


 その場で何度か受け答えを練習し「よし」と意気込んで歩き出す。今思えば不審者に見えていたかもしれない。


 他にも見落としというか、間違ったことはたくさんしていたと思う。

 今だって何かしら間違いに気づけずにいるのだろう。


 でも、別にいいのだ。

 前に進んでいるなら。




 蝉の声が聞こえる。

 心なしかそこまでうるさくなくて、日差しも優しい方だった。


 穏やかな昼下がり。

 みーんみんみんみーと、蝉は鳴く。


 あのしゃわしゃわ言っているのも蝉なのかな。


 調べてみると、どうやらクマゼミと言うらしい。


 みーんみんみんみー。

 みんみー。

 しゃわしゃわしゃわしゃわ。


 夏だなぁ。


 そういえば、蝉は夏が終わるとみんな死んでしまうんだっけ。


 わたしもそうなるのかな。

 でも、土の中よりはずっといいよね。



 不動産屋さんに向かっていると、だんだん緊張してくる。


 失敗は怖い。がっかりするし、嫌だ。

 でも、今日何をすればいいかわかったのは失敗したからだった。


 こうして踏み出してみなければ何もわからなかった。


 土の中みたいな場所で。

 間違えるのが怖くて、ずっと怯えて生きてきた。


 何もしなければ失敗しないで済む。

 だからずっとお姉ちゃんの言う事を聞いてきた。


 お姉ちゃんのいう通りにしてうまくいかなかったらお姉ちゃんのせいにできる。

 どこかでそう思っていた。


 でも実際、わたしがこうなったのはお姉ちゃんのせいもあるよ。姉ガチャは最悪だ。親ガチャっていうか家族ガチャに失敗している。


 家族ガチャ失敗。


 そうだ。

 親ガチャと言うよりは家族ガチャと言うべきだ。


 そういえばガチャを回したのはお父さんとお母さんで、ガチャから出てきたのはわたしたちだよね。


 だから失敗なのは親っていうよりお姉ちゃんの方で、同じ理由でわたしも失敗なんだろう。


 わたしたちが捨てられたのは、ガチャから出てきたのがゴミだったからかもしれないし。



 お父さんもお母さんも、どこにいるのかわからない。

 そんな無責任なひとたちの血を引いたのか、お姉ちゃんはぐうたらで働かないし。


 妹のわたしは何もかもお姉ちゃんのせいにして、考えることをやめていた。


 考えるようになったのは自分の身が危なくなったからだ。

 わたしは今、自分のためにお姉ちゃんを見殺しにしている。


 そんなふうに本当はなりたくはなかった。

 普通に仲のいい姉妹でいたかった。


 そう考えると全身の血を入れ替えたくなる。


 わたしがわたしでなくなれたなら、どれだけ素晴らしいことだろう。

 不出来なわたしがいなくなれば、この世界はもっときれいになるはずだ。



 この血が憎い、この身体が憎い。

 わたしがわたしであることが憎い。


 生きてきた過去(コト)が、生まれてきた事実(コト)が憎い。


 なんでこんな人生じゃなきゃいけないのって思ったことは何度もある。ありすぎて覚えていないくらいある。


 だから、たまに死んでしまいたくなる。

 そうすれば許されるような気がするから。


 許されたりなんてしないのにね。


 


 お姉ちゃんは言っていた。


『わたしたちはダメな親のダメな遺伝子をついでいる』


『だから、わたしたちは生まれながらに不利で、何をしてもダメで、生まれてきたことそのものが間違いだったのだ』と『だからお前は間違ってる』とそう言っていた。


 そうかもしれない。

 わたしは頭わるいし。よく忘れるし。空気も読めない。


 思い当たることはたくさんある。

 それでも、どんなにダメなわたしでも。


 わたしがわたしを見捨てたらおしまいだった。


 もし途中で諦めていたら、とてもここまでこれなかった。


 諦めていたら、今頃のわたしはいつも通りお姉ちゃんにぶたれて。取り繕うように笑っていただろう。えへ、えへへって。自分の心を踏みにじって、すべてをごまかしていただろう。そんな自分でいるのはもっと嫌だった。


 歩く。

 歩く、歩く、歩く。


 目的地まで歩き続ける。


 胸を張って生きていけるようになりたい。

 わたしも生きていていいんだって思いたい。


 そのためならわたしは怖さを越えていける。

 ただ、わたし自身のために。わたしは生きられるはずだ。



 ちゃんと調べて、失敗しても諦めなければ。

 大抵の事はできるようになるような気がする。


 だって、わたしは今ここにいる。

 少し前まではこんなことができるとは思ってもいなかった。


 だからきっとわたしはどこまでも歩いていける。




 そこまで考えて。ふと、わたしは思い立った。

 お姉ちゃんはわたしにこうなって欲しくなかったのかもしれない。



 だって、わたしがうまくいってしまったら親ガチャじゃなかったことになる。


 同じところから生まれた姉妹が二人ともダメなら遺伝のせいにして諦めることもできるけど、片方がうまくいってしまえばそうはいかない。


 思えばお姉ちゃんはわたしが何かをうまくやるといつも不機嫌になった。テストでいい点をとったりバイト先で褒められた話をするとぶつのだ。


 お姉ちゃんが『お前は間違っている』と言うようになったのも、わたしがダメじゃなくなってきた頃だ。


 そうか。

 あれは、あれは『お前もダメなままでいろ』って意味だったんだ。



 なぜわたしがぶたれていたのか、今ならわかる。人生がうまくいかないのはお前がただ怠けているからだって突きつけられたら、誰だって嫌な気持ちになるだろう。


 でも、だからって。

 だからってそれはないよ。


 だって、お姉ちゃんが働けって言ったんだよ。




 胸の奥にあった温かいものが消えていく。

 確かに好きだったお姉ちゃんのことが、どうでもよくなっていく。


 ああ。

 確かにこれは気づきたくない。


 思いつきそうになる度に忘れてしまうのも納得だと。


 どこか他人事のように感じる。


 つまるところわたしはお姉ちゃんが好きで、どんな理由があるにせよ嫌いになりたくないとずっと駄々をこねていたのだ。


 でも、気づいてしまえばおしまいだ。

 人生は好きだけではやっていけないのだから。







 まったく、お姉ちゃんは心配しすぎなのよ。 


 大丈夫。

 大丈夫だよ、お姉ちゃん。


 お姉ちゃんは親ガチャのせいにできなくなっても大丈夫。


 運がわるいとか、神様がいじわるをしているとか言って、お姉ちゃんはいくらでも何かのせいにできる。そうして自分を守っていられる。


 親ガチャを続けてもいいんだよ。

 実は父親がちがうとか、いい遺伝子を全部妹にとられたとか、言い訳はたくさんできる。


 本当にそうかもしれないしね。


 あ、わたしも親ガチャ自体はあると思うよ。

 実際、わたしたちが不利なのは確かだから。


 だから、ずっとそこで誰かに甘えて、甘え続けて。

 子供のままでいたらいい。


 わたしは先にいくね、お姉ちゃん。


 だから、がんばって生きてね。 







 蝉の声はいつの間にかやんでいた。


 驚くほどの無音があたりに広がっている。


 まるで夏に導かれたような気がした。








「ついた」






 


 不動産屋さんの前で深呼吸する。

 息の音が聞こえて少し恥ずかしい。


 頬に汗がつたって、ガーゼを濡らすのがわかる。


 怖いものは、怖いよね。

 それでもわたしは、怖がりながらも歩みを進める。


 不動産屋さんにこう言うんだ。

 


 姉にDVされて逃げてきました。

 帰る場所はありません。


 だから借ります。シェアハウスをって。














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親ガチャ/しあわせシェアハウス 間野 ハルヒコ @manoharuhiko

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