episode.10

「ああ、テレーゼ、僕の可愛いテレーゼ……」


口づけの合間に溢れるように囁かれる甘い言葉に、頭の芯がますますボゥッとして、何も考えられなくなっていく。


ノワールに抱えられてベッドに場所を移し、私達はお互いの唇を貪るように求め合った。


このままノワールと女性同士の友愛を育てていくのなら、私達には考えなければいけない事が沢山ある。

超えなければいけない問題も。


だけど今は、そのどれも考える事が出来ない。


ノワールの激しい口づけに翻弄されて、思考など働かない。


自分がこんなにも快楽に弱いだなんて……いいえ、ノワールから与えられているものだからだわ。

私はいつの間にか、こんなにもノワールを想っていたんだ。

彼女に与えられるものならば、喜んで全てを受け止める。

心も身体も、ノワールだけに切ないくらいに反応していた。



深い口づけに息も絶え絶えになっていると、ノワールの手が私の胸を包んだ。

それだけで、胸の内から甘い痺れが沸き起こる。


長い指の腹で寝着の上から胸の頂をスリスリと撫でられて、ピクリと身体が揺れた。


ジワリと快楽がそこから広がってゆく。


「……あっ、ノワール……」


思わず甘い声を漏らすと、ノワールはますます指の動きを強め、私はビクビクと身体を震わせた。

自分で自分の身体を制御出来ない。


ノワールに触れられる場所、される全てが心地よくて、されるがままに身を任せてしまいたくなる。


「……テレーゼ…脱がせてもいい?」


ゴクっと喉を鳴らしながら、ノワールがその瞳に欲望を揺らめかせている。


私は頬を染めて、小さく頷いた。


ノワールはゆっくりと寝着の前合わせを外していく……。

暖かく調整された部屋の中だというのに、素肌が晒されると、ヒヤッとした冷たさを感じた。


「ああ、テレーゼ、とても美しい……」


うっとりと甘く囁かれて、身体がふるりと震える。


「ここ、凄く硬くなってる……僕の触れ方を気に入ってくれたのかな?」


クリッと胸の頂きを摘まれて、身体がビクンと跳ねた。


「あっ……ノワール、んっ、あっ」


寝着の上からではなく直接触れられる事で、先程よりも敏感になった蕾を、指の腹でスリスリ撫でられたり、指で摘まれると快楽に身体がますます制御を失う。


ノワールの顔が胸に近づき、そこを舌でペロリと舐められると、堪えきれず後ろに仰け反ってしまった。


「あっ、んっ、んんっ」


甘い声を上げ、私はノワールに必死にしがみ付いた。

下腹部に快楽が下りていき、その奥が疼き出すと、堪えきれずに太腿を擦り合わせた。

自分でそれに気付いてた瞬間、顔に熱が集まっていく。


ノワールの手が下に降りてきた時、ギクッとして、私は慌てて声を上げた。


「あっ、ダメ、待って、ノワール、あっ!」


静止は間に合わず、ノワールの指が下着の上からそこをツツッとなぞった。

下着が濡れている事に気付かれたに違いない。

私はもう耳まで真っ赤にして、弱々しく懇願した。


「あの、お願い……恥ずかしいから、ダメ……そこは……キャッ!」


急にドサっとベッドに押し倒され、私は小さな悲鳴を上げた。

見上げたノワールの瞳が情欲にギラギラと光っている。


「テレーゼ、こんなにしておいて、ダメだなんて聞いてあげられない。

ほら、ここ、こんなにして……可愛いよ、テレーゼ……」


ノワールの手が下着の中に差し込まれ、指がその中を暴く。

そこを音を立ててノワールの指が撫でると、快感が背筋を駆け抜けていった。


「あっ!んっ、だ、だめ、いや……やっ……あっ」


ノワールの指がその場所を擦る度に、恥ずかしい水音が部屋に響く。

下腹部の奥がズキズキと痛いくらいに疼き、知らずに目尻に涙が滲んだ。


「テレーゼ、凄い、どんどん溢れてくる。

僕の与える快楽にこんなに素直になってくれるだなんて……。

嬉しいよ、テレーゼ……」


愉悦を浮かべるノワールは、ますますその指の動きを激しくしてゆく。

私は目尻に涙を浮かべ、イヤイヤと頭を振った。


「……でも、ノワール…あっ、わ、私…んっ、は、恥ずかしいの……お願い、もうっ、私……」


懇願は最後まで続かなかった。

ノワールの指が激しく責め立て、私から言葉を奪っていく。


「あっ、やぁっ、ノワールッ、そんなっ、だ、ダメよ……いや……あっ、ダメ……」


甘くよがってダメと言っても、ノワールは聞く気がないらしい。

ますます激しく責められ、私は耐えきれずに身体を仰け反らせた。


「だ、ダメ……ノ、ノワール……も、もう……だ……め……」


ガクガクと身体を震わせる私に覆いかぶさり、ノワールは艶っぽい声で耳元で囁いた。


「テレーゼ、どうか我慢しないで」


与えられる刺激に耐えられず溢れた涙をノワールが舌で舐めとった。

私は先程言われた事に、訳も分からず頷くしか出来ない。


「あぁっ、もうっ、ダメぇ、ノワールッ、んっ、んんっ」


ビクビクと身体が激しく揺れて、目の前が真っ白に弾ける。

息が上がり、ハッハッと短い呼吸を繰り返す私の頭を撫でて、ノワールが優しく口づけた。

音を立てながら互いの舌を絡ませていると、だんだんと呼吸が落ち着いてきた。

それを確認してから、ノワールはゆっくりと唇を離し、美しく妖しい微笑みを浮かべる。


そしてそのまま、スルッと私の足の間に顔を移動させる。

その自然な動きに呆然としていたが、すぐに先程達したばかりの場所をノワールに見られているのだと気付き、慌てて足を閉じようとしたけれどノワールの手で押さえ付けられていて、微動だにもしない。


「あっ、いや、ダメッ!ノワール……そんなところ、見ないで」


羞恥にまた目尻に涙が滲む。


ノワールは悠然と微笑みながら、その場所をまじまじと見つめている。


「ここはまだ欲しいっておねだりしているよ。

ねっ、テレーゼ、いいよね?」


「いや、何のこと………ひゃっ、あっ」


何を聞かれたのか確認する事も出来ないまま、ノワールの舌がその場所を音を立てて這う。


「あっ……うそ……ダメよ、ノワールっ、そんなところ汚いわっ」


慌ててノワールの頭を離そうと手で押すけれど、やはり微動だにせず、私は涙を流しながらイヤイヤと頭を振った。


「あっ、ダメ……ノワール……やめ……て……恥ずかしいの……」


ノワールの舌ですぐに羞恥が快楽に塗り替えられていく。

ジンジンとした気持ちよさが全身を駆け巡り、意識がノワールの舌の動きに集中してしまう。


「あっ、ノワール……私、達したばかり、だから……だからっ、あっ、やっ、ダメッ!は、激しく、あっ、しな、しないでぇ…」


ノワールの舌が激しくその場所を責め、私は敷布を握ってガクガクと足を震わせた。

先程達したばかりだというのに、身体が貪欲にノワールから与えられる快楽を求める。

無意識に腰が浮き上がって、ノワールの舌を求めるように揺れる。


それに応えるようにノワールの舌が器用にその場所を刺激し、耐えられない程の快感が迫り上がってくる。

途端に目の前がチカチカして、強すぎる快楽に身を捩る。


「あっ、うそっ……だ、ダメよ、ノワールッ、そ、そんなの……」


私は足の指先まで突っ張らせガクガクと震えた。


「もっ….ダメ……私、またっ、ノワール……ダメっ、ダメっ」


目の前が霞んで、涙がポロポロと溢れた。

私から溢れたものがポタポタと敷布を濡らしていく。


「……んっ……ノワール……んんっ……」


まだ名残惜しそうにノワールがその場所に吸い付くたびガクガクと身体が激しく跳ねる。


やがて、やっとノワールがそこから舌を離し、顔を上げ起き上がった時には、私は焦点の合わない目で、ハァーッハァーッと息を繰り返し、全身をビクビクと震わせていた。


その私の痴態をうっとりとした瞳で眺めながら、ノワールは愉悦に顔を綻ばせている。


「ああっ、なんて綺麗なんだ、テレーゼ……。

僕のテレーゼ、そんなトロトロな顔をして……。

可愛いよ、可愛い、僕のテレーゼ」


そう言ってギュッと抱きしめられても、身体に力が入らない。

下腹部の奥がキュンキュンと疼いている。

こんなにされては、もうノワールの事しか考えられなくなってしまう。

心も身体も、ノワールにしか反応出来なくなる………。





……どうしたら良いのかしら。

私には後継ぎが必要なのに。


もうノワール以外を愛せる自信がない。

それに、子作りだなんて……。


どうやるのかハッキリとは知らないけれど、きっとこんな風に相手の前で裸になるのよね?


それから、それから……?


さっきノワールにされたみたいに、他の人に……?

男性に……?


そう考えた瞬間、ゾッと背筋を冷たいものが走り抜け、私は震えながら夢中でノワールにしがみ付いた。



「寒いかい?」


ノワールは生活魔法で私の身体を清めてから、寝着の前合わせを留めて、またギュッと抱きしめてくれた。


「毛布も持ってこようか?」


快適な温度に調整されているこの部屋で、寒気を感じたのは、本当に寒いからではない。


恐ろしくなったのだ。

自分が。


エクルース家存続の為には、後継ぎが必ず必要なのに、私にそれが出来ないとしたら。

ノワール以外の誰にも触れられたくないと、思ってしまっていたら。


エクルース家はどうなるの?


養子?

近しい親族から養子を得る事は可能かしら?

だけど、近しい親族さえも今の私にはわからない。


……それに、それは本当に最後の手段になる気がする。



ソニア様はこう仰っていた。

エクルース家は代々優秀な魔道士を輩出してきた家門であると。


それには血筋が関係するのではないだろうか。


自分の魔力量も力も分からないけれど、魔法は得意だと感じる。

思うのではなく、ただ漠然とだけれどそう感じるのだ。


これがエクルース家特有の能力だとしたら、やはり血筋が重要なのかも知れない。


だとしたらやはり、私が後継ぎを産むしかない。

……他の誰でもない私が、男性と交わって……。



ブルリと震える私を、ノワールが掛布で包んでくれた。


「やっぱり寒いの?テレーゼ」


心配そうなノワールに、私はフルフルと頭を振った。


「いいえ、大丈夫です。

ただ……ノワールさえ迷惑でなければ、今夜はこのまま一緒に眠りたいのですが……」


先の事を考えると恐ろしくて眠れそうにない。

ノワールに抱きしめられていれば、もう何も考えずに済む気がした。


情けない事に、私は近い未来に起きる事から今だけでも逃げ出したくて仕方なかった。


だけどやっぱり、そんな事にノワールを巻き込むのは申し訳ないわ……。


今のは忘れて下さいと言おうとして顔を上げると、そこには顔を真っ赤にして目を見開くノワールが………。


「い、良いの?テレーゼ。

そんな事をしたら、邸の者に同衾したと思われるけど……」


ノワールの焦ったような口調に、私は首を傾げた。


同衾?

何故かしら。

誰もそんな風には思わないと思うのだけれど……。


「あの、ノワール、ただの添い寝でいいのですが……」


首を傾げる私に、ノワールは口元を手で覆ってくぐもった声を出した。


「そうだね、そうなんだけど……。

いや、良いのかな?テレーゼがそれを望むなら……。

ふふっ、少し予定が早いくらい、問題ないよね」


不明瞭な言葉に不思議そうにしていると、ノワールはパッと嬉しそうに笑って、私を胸の中に抱いた。


その胸にすっぽりと収まり、私は言いようのない安心感を感じていた。


「分かったよ、テレーゼ。

今日から寝室は一緒にしよう。

僕がこちらに来れない時は、君が僕の部屋で寝れば良いからね。

どうせ隣の部屋なんだから」


嬉しそうに弾んだ声でそう言うノワールに、いえ、今晩だけで良かったのですが、とはもう言えず。

私はコクンと頷いた。



いいわよね?

女性同士なのだし。

一緒に寝るくらい……。


ノワールの温かい胸に抱きしめられていると、本当に眠気が襲ってきて、私はウトウトと目を瞑った。



「本当に良いの?テレーゼ。

そんなに次々と僕に許して………。

言ったよね?僕、初恋を拗らせているって」


夢うつつに聞こえるゾクリとするようなノワールの、艶っぽい声。


囁きさえも愛おしくて、私は無意識にノワールの胸にスリッと頬を擦り付けた。


「ーーッ!テレーゼッ!

もう、どうなっても知らないよ?」


クツクツと幸せそうに笑うノワールの声を聞きながら、私は抗えない睡魔に身を委ねた……。




どうなっても、なんて。

そんなの私の方が望んでいる事なのに……。

家の事も、性別の事も、もうどうなっても良いと全てを投げ出してしまいたい。



だけどそれは決して許されないから。

何より私が私を許せない。


だから、今だけ。

今この時だけでも。

愛しい人の胸の中で。


何も考えず、ただただ眠りたかった………。

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