YUKI

 いやMALIAマリア、あんたすごいね。

 あの救いようのないコミュ障TERUテルが律儀に参列しただけでも、とんでもない事態だ。

 ……あんたが、変えたのかもね。

 徹頭徹尾、利己的で他人を否定することしか知らなかったあの男の、ほんの数ミクロンを。

 ま、だからと言ってあいつの性根や人生がこれから劇的に変わる目は皆無だと、アタシの経験上からわかる。

 ゲーム外スパイにまで手を染めて、全く悪びれないようなヤツが、そうそう変わるものか。

 それでも意味はあったし、そもそもあんた自身にそんな上から目線の意図はなかったはずだ。

 きっとあんたは、ただ生きたいように生きていただけ。

 あいつに“ありがとう”なんて言葉を裏表なくかけたの、あんたくらいじゃない?

 そんなあんたを目の当たりにして見事なボケ殺しを食らったTERUテルのヤツは、勝手に居心地を悪くしただけ。

 ま、ヒトの悪口ばかり言ってると、そういうアタシはどうなんだってことになるし、あの男についてはここまでにしよう。


 そうだねぇ。

 アタシとしては、色々と合点がいったよ。

 パイロットとしても機体構築アセンブルのセンスも、アタシが出会ってきた中では間違いなく五指に入る。

 いや、アタシなんかの尺度で失礼かもしれないけどね。

 ただパイロットとしての適正が高いだけなら、まだわかる。

 やっぱ、ファンタジージャンルで魔法戦士を5年もやってれば、こういうロボットゲームでも潰しがきく。

 ただ、あんた多分、あの世界では開発者としても食っていけたよ。

 今だから言うけど、あんたの愛機“アーテル・セラフ”には、初見で面食らった。

 戦車タンク型と浮遊脚部フロート、ミサイラーと近接特化のモードが可変、しかも操作系統が全く共通って。

 普通、パイロットもアセンも超一流なんてことはない。

 当たり前だけど、誰しも得手不得手ってのがあるからね。

 だから、あのゲームでアタシらは、KANONカノンという名の兵器開発者と共にチームを組んでいたわけでさ。

 ……多分さ、あんたは若くして死んじまったけど、その密度は60年分くらいはあったよ。

 何かを学ぶのに使える残り時間が圧倒的に足りない。

 そりゃ、必死に吸収するわけだ。

 こんな人材がひょっこり現れて「わたし初心者ですのでお手柔らかに」って、何の漫画だよって話。

 まあ、一緒にいたHARUTOハルトも割かしデタラメなヤツだったせいで、ちょっと気付くの遅れたけどね。

 

 さよならは言わないよ。

 この宇宙の仕組みなんて、アタシらの誰も、つかめていない。

 死んだからと言って、もう会えないと決めつけるのは早計ってね。


 ただ、ありがとう。

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