七夕の約束

平 遊

第1話

『彦星さまと、乙姫さまが、ちゃんと会えて幸せになれますように』


 小学校の七夕イベントでそう健が記入した短冊は、先生の赤ペン訂正が入っている。


『乙姫→織姫ですよ』


 小学4年の七夕の夜。お誕生日の夜。

 その短冊を胸に抱きしめ、雲で隠れて見えない星空を目を凝らして眺めていた健の目の前に、突然フワリと女の人が舞い降りてきた。

 突然のことに驚きはしたものの、健は全く怖いとは思わなかった。

 絵本で見たことのある、綺麗な着物のようなものを着たその女の人は、空中に浮かんだまま、泣き笑いのような顔で健に言った。


「ありがとう。嬉しい。記憶無いはずなのに、約束、守ってくれて。でも、ごめんなさい。あと10年待って。そうしたら私、必ず……」


 そう言うと、女の人の姿は天に昇りながら消えた。


「10年……僕、20歳だ」


 健はどこか夢見心地で呟いた。


「あのお姉さん、誰なんだろう? でも、なんか……」


 そして、今目の前で起きた出来事を、そっと胸の奥へとしまった。

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