SHOW1 42人、同じ
———今日も、一時間目の授業の始まりを告げる鐘がなった。
聞き慣れて飽きたと考える暇もなく挨拶をして席につく。
火曜日の一時間目は、現国だった。
現国の先生は冗談とダジャレが好きな上の方でまとめた髪をくるっくるに巻いた40代後半の女性教師。
授業中の話の脱線や生徒の会話は当たり前で、現国の時間は息抜きのように感じている人もいるんじゃないかな。
でもその代わりテストはすごく難しくて、一年生の頃の平均点が48点だったことには驚いてしまった。
私は赤点ギリギリだったのだけれど。
私はこの授業中の会話に参加することなく、窓の外を見ながらぼーっとしているのがいつものこと。
会話に乗るのは、私とは正反対の子たちだ。
例えば、
男の子だと、頭に浮かんでくるのは
楽しい笑い声に溢れた教室は明るくてこちらもそんな気持ちになるけど、私が自ら発言することは『できない』からただ空気を味わうだけになる。
それでも私はいいから、大丈夫だからまた窓の外を眺める。
時間が経ってから慌ててノートを取り始める頃には、先生は黒板消しを手に持っていた。
――――――――――――――――
二時間目は、体育。
最近はバスケをやっていて、運動がもっぱらだめな私はもちろん球技も苦手。
試合をやっても下手なせいか私は試合に参加させてもらえず、小学生の頃から万年ベンチだ。
でも私が試合に参加してもみんなに迷惑をかけてしまうだけだし、むしろそのほうが私自身も気持ちが楽。
だから、同じチームのリーダーのクラスメイトの女の子が申し訳無さそうにお願いするのが逆に申し訳なく思っていた。
「ごめん、今回もベンチで大丈夫?」
私がうなずくともう一度謝ってむこうに行ってしまう。
こんな状況にも、もう慣れてしまった。
だからといって私はなにかするわけでもないし、悲しみや怒りが湧いてくるわけでもない。
ただ、ああこういうことなんだなって納得するだけ。
これがなにも言えない私が導いた結果。後悔することももう忘れてしまったのだ。
いつの間にかこれが当たり前になって、きっかけさえも思い出すことはしない。
どこからこうなってしまったのか、どこで道を間違えたのか分からない。
あのときこうしていたらとか、こうだったら良かったのにとか、考えることもない。
諦めた。こうなったしまったのは。変えようとも思えない。
家に帰れば温かい家族が出迎えてくれる。私は幸せだから。
だからこれ以上はもう、望まないことにしたんだ。
――――誰かが言っていた。
学校や職場ではやることが決まっているから、私達はそれに従わなければならない。
学校では勉強、職場では仕事。
人間関係とか友情とか恋愛とか、所詮はなくてもやっていけるんだって。
小さな世界で生み出されたそれは、やることによって潰され、なくなっていく。
昔からそう、まるで当たり前のようにしていたこと。
そうして無意識に作られた私達の行動制限は、無個性を形にする。
その中でやればいいだなんて、甘い。
結局はみんな縛られていく。まるで、考えだけが同じクローンをつくっていくように。
そうならば、その話が本当ならば。
私を含めクラスメイトの42人は、脳内クローン人間なのだということ。
流れを作り、流されていく。その繰り返し。
それは、私ながらとても悲しくて、でもどうしようもないことなんじゃないかなって思った。
一人の考えをそんなに簡単に変えられるほどの力はないから。
もう一つ可能性があるとすれば、それは埋もれてしまっているということ。
考えを捻じ曲げて他の人に合わせて、目立たないようにする。
けど、どちらにしても根本的な問題は同じなんだと、また誰かが言った。
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