第21話 暗雲

 なんやかんやで夏休みは終わった。なぜなら俺の身に特筆すべきことが何も無かったからだ。

 俺の夏休みはカドショと小規模な大会であっという間に終わった。個人的には大満足な夏休みだった。



 それとは逆に一時期空が昼夜問わず真っ暗になってたけど、一週間で元の空の色に戻った。

 多分世界の危機を誰かが救ったんやろなって、思ってる。正直心当たりありまくりだけど、命の危機に瀕したくないので、大人しくお家に引き込もっておりましたのよ。


 ………腑抜けとか言ったやつ、よく聞け?

 パンピーが中途半端な正義感で生き残れるバトルじゃないんだよ。……………多分。

 というかそもそも俺、敵組織とかとのフラグも接点も無いんだわ。だからどんなやつかも知らないし、目的も分からん。

 …………それとなく龍ケ崎に探りを入れてみるとするか。









 一先ず夏休み明けの学校。長い全校集会とか、宿題の提出とか、諸々が終わってすぐに下校。

 各々げんなりしてたり笑ってたり、千差万別。

 目的の龍ケ崎は特に変化無し。いつも通り、周囲に笑顔で接している。


 うぅ~ん、人が集まり過ぎて声かけらんねぇ。

 これが陰キャの悲しき特性か………………



 今日は諦めて別日に。そう思って立ち上がると、珍しい客が教室にやって来た。


「よぉ。」

「あ!来てくれたんだ!」

「フン、約束は約束だ。」

 土宇陀だ。ふむ、前よりも陰気っぽさがなくなってる?もちろん俺のような陰キャって意味じゃなくて、憑き物が取れたような、なんだか前を向いているような気がする。

「じゃ、行こうっ!」

 龍ケ崎がそう言うと、いつものメンバーに土宇陀が加わった六人が教室を出ていった。

 残された教室では不思議そうに皆が話し合っていた。もちろん土宇陀についてだ。

 だがしかし、結論として龍ケ崎のカリスマにやられただの、決戦をしただの、どっちがタチでどっちがネコだの………ちょっと待て、BLの話してるのは誰だ?仮にも中1だぞ?

 最近の子って怖……………………


 まぁとりあえず、闇堕ちした土宇陀と戦って更正させたって筋書きなんだろうな。無事で何よりだ。














 季節はすっかり秋。

 この世界は四季がちゃんとしていて良いね最高だ。

 龍ケ崎と土宇陀の関係は今も続いており、なんなら良きライバルポジになっている。

 野原!良いのか!?おまえはそれで!

 ちなみにいつの間にか神里、星葉、纏身までもパートナーがいた。

 この言い方からも分かる通り、一回も接しておらぬのよ。今までもそうだったが、夏休み明けから特に。龍ケ崎のグループや土宇陀はよく共に行動し、周囲から距離を置いている。

 皆の安全第ーとかそんな感じかね。仮にも世界の命運?をかけたわけだし。龍ケ崎があの時はどうのとか、ボヤかしてはいるがなんとなく察することは出来た。

 警戒のためか、龍ケ崎のパートナーのジャミーも、他のパートナー同様実体化するようになった。

 俺以外にパートナーを持つ生徒は皆パートナーを常時連れてるみたい。


 まぁそれは一旦置いといて、この上記のメンツがアニメ主要人物達だというのは確定だろう。だって校長が異例の事態ですとか言って、俺を含めたパートナー持ちを全校生徒の前で紹介して、それがテレビにも取り上げられたのだ。

 ガチ恥ずかった…………………

 ちなみに俺の顔見知りでは後、鉄峰と水﨑もいた。二人は幼馴染みらしく、あぁ…この二人でユリユリしてるんだなって思った。なんか花園を幻視したぜ。


 未踏はこの波に乗れてなかったため、モブだろうな。………俺も、転生してなければシャイガールを手にしていなかったのではと思う。

 なんせ登校初日にカードパック買うやつなんているか?もしかしたらいるかもしれないが、普通は新しい生活にドキマギしてそれどころではないと思う。


 つまり、俺もモブってことだ。

 まだ原作ブレイクとかは、してないと思うからいいが、気を付けないと。…………してないよな?











ー???ー


「使えないガキが…………」


 暗闇に包まれた一室にて、男が拳を握る。


「イキドオルナワガハイカヨ」


 その男を諭すように話し掛けた、何処か不気味な低い声。その声は一枚のカードから発せられていた。


「チッ………ガンヤ……………絆されやがって!」


 虫の居どころが悪いのか、男はカードから視線を外して頭をかきむしる。整っていた髪型が乱雑になり、ふと思い立ったように手を止めると、腰のデッキケースからデッキを取り出し、虚ろな目で見つめた。


「てめぇらの、せいでッ!」


 男はまたしても怒りがこみあがったのか、持っていたデッキを地面に叩き付ける。デッキはバラバラと地面に散らばっていく。


「アセルナ ワレガホンライノチカラヲトリモドシタトキコソヤツラノマクハオリル イマハワレノタメニオオクノハイカヲ」

「わーった、わーったよ!」


 男は苛立ちつつ、カードから発せられている声を勢いで遮りながら立ち上がると、右手を翳す。すると淡い紫色の光を放ち、先程まで地面に広がっていたカード達が男の右手に収まった。


「借りは返すぜ………龍ケ崎ィッ!」


 髪をかきあげた男の髪型は一瞬で元に戻り、男は身形を整えて部屋の外に出た。


 久我醒勝己として。

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