ジェネシス・ハートビート

麝香連理

第1話 出会い

 ジェネシス・ハートビート。略してビート。

 略せてないは受け付けないぜ?

 それは"この世界"においての常識であり、世界はそのカードゲームを中心に回っていた。

「………転生かぁ。」

 俺こと、狭間霊生は転生した。この名前のせいなのか、俺が転生したからなのか、俺のデッキはレイスデッキである。この世界では、カードは前世と同じでパックを購入するのだが、その購入者とシンパシーのあるカードが手元に引き寄せられるとかなんとか。


 俺は昔からカードゲームが好きで、見たことの無いルールでもすぐになれることが出来た。

 そして、転生して二日目。記念すべき中学デビューとなった。


「とりあえず…一パック買うか!」

 前世では限られたところでしか売られていなかったカードパックもこの世界ではどの店にでも置いてある。最高だな。

 俺が買ったのはレイスデッキに相性がいいカードが入っているパックだ。この世界のパックは、ブラックホールのような穴から落ちてくるのだ。そのブラックホールはその土地の所有者のものになるのだが、その場合、パックを売ることが出来ても、そこから手に入れたパックを自分で開封することが出来ないらしい。

 その場合、パックを売って金儲けに使うか、土地を売り払って、一生暮らせる金を手にするかだとさ。

「むふ、さてさて、何が出るかなぁ!

 ……こ、これは…………」

 それは光輝くカードだが、カードのイラストは黒で塗りつぶされていた。

「……?名前はエスケイプレイス・シャイガールか。だから絵がないってこと?

 まぁいいか。」

 問題は能力だ!

「えーと………マジか……………」









「おはようございます。皆さん、入学式お疲れ様でした。これより軽いホームルームの後、自由行動となります。好きに見て回って学校に慣れてくださいね。」

 俺達、一年二組の担任の羽澄麗香先生が笑顔でホームルームを始める。

「皆、知ってるとは思うけど、ジェネシス・ハートビートのルールについて、おさらいをしましょう。」

「えぇ?」

「マジィ?」

 先生の言葉に同級生からブーイングが飛び交う。

「フフ、後で特別に先生の相棒を見せてあげるので許してねぇ~。」

 相棒。それは人生で出会えるか分からない唯一無為のパートナーであり、この世界に一枚しかないカードでもある。

 そんな希少なカードを!…という雰囲気となり皆が押し黙る。現金だと思うかもだが、所詮はまだまだ小学生。俺も気になるしな!


「山札は五十枚。プレイヤーのライフは六で、手札は五枚からスタートします。ターンが始まると山札からカードを引きますが、先攻の一ターン目は山札からカードを引けません。」

 先生が黒板にモニターを映し出し、ルール講座を開始した。

「次に、手札から一ターンにカードを一枚、エレメントゾーンに置きます。これ一枚につき、手札にあるコスト分のカードを使用できます。

 そして、手札からコストを支払ってカードを出す時に、エレメントゾーンのカードを裏返します。これで使用した判定となります。

 カードには、ファミリア、スペル、トラップの三種類があります。ファミリアはクリエートしたターンは攻撃することが出来ません。ファミリアはカードをアクション(横に)することで、相手プレイヤーや相手のファミリアを攻撃します。この時、攻撃を受けるプレイヤーは自分のファミリアにプロテクトさせることが出来ますが、それはスタンバイしているカードのみで、アクションしている場合はプロテクトが出来ません。ファミリアのパワーと相手のファミリアのディフェンスを比較して勝負が決まります。相手プレイヤーへの攻撃はどんなファミリアでも減るライフは一です。そして、ライフが一削れる度に、ライフが減ったプレイヤーは任意で山札の上から減ったライフの数分カードを引けます。

 スペルは戦闘において、自分に有利な状態を引き起こしたり、相手を妨害するカードです。

 トラップはターンに一度だけ裏向きに設置できて、発動可能条件を満たした時に表にすることで使用となります。

 そして、ファミリアがやられたり、スペルやトラップを使用したら、そのカードはセメタリーに置きます。

 勝利条件は相手プレイヤーのライフがゼロになるか、相手の山札がゼロ枚になったタイミングです。

 何か質問はありますか?」

「はい!」

「はい、龍ケ崎くん。」

 龍ケ崎翼斗。声だけで分かる、主人公系の熱血タイプだ。

「先生の相棒、見せてくれ!」

「俺も俺も!」

「そうだそうだー!」

「あら、しょうがないですね。もう少し、話すところでしたが、まぁ良いでしょう。」

 元気な子どもは止められない。先生も諦めたようで、モニターの映像を手元のカメラに切り替えて一枚のカードを映し出す。

「可憐なるフェザー・アート………」

 誰かが、そう呟いた。

「先生!能力が見えません!」

 龍ケ崎が空気の読めない発言をする。

 そんなの決まってるだろ………

「さすがに先生の相棒を全部見せることは出来ません。私の裸と同じ価値があるんですからね!」

 ふんす!といった感じで決まったといった顔をする先生。この世界での教師はかなりの実力者しかなれないため、この人はおっとりしているようで手練れなんだろう。いつか手合わせしたいものだ。

 


 待ちに待った自由散策。基本的に生徒は二つのグルーブに別れた。一つはこの学校はかなりのビート強豪校で、大きな図書館にはこの世界のありとあらゆるカードの情報があり、普通では出回らないような物もあるらしく、この図書館を利用できるだけで、入学した価値があると言われるほどだ。

 さっきチラりと見たが、羽澄先生の相棒のカードテキストも収録されており、なんとなく拝んでしまった。

 いや…だって美人の女性の裸と同価値ですからね?したくなるでしょ、そりゃ。

 もう一つはバトルスペース。それも、ホログラムのようなもので、カードを実体化させるものだ。長年使っているデッキや、大切にしているほど、ホログラムバトルでのファミリアの感情が豊かになる。

 そう、例えばあんな風に。

「ジャストバードでプレイヤーに攻撃!」

「いっくよぉ!」

 ツバメのようなファミリアが攻撃を繰り出す。

「く!?」

 対戦相手が苦悶の表情をする。ホログラム使用でのバトルは多少の痛みを伴うらしい。使ったこと無いから知らんけど。

「行くぞ!ヨクト!」

 ホログラムに映った巨大な龍が叫ぶ。

「おう!音速の叫び・ジャミングドラゴンでトドメだぁ!」

「ぐあぁ!?」


 やっぱあの主人公、ドラゴン使いかぁ。思った通りだな。

 ん?龍ケ崎と目が……

「おい!お前…同じクラスの……」

 しゃーねぇーか。

「狭間霊生だ。」

 俺は階段を降りながら答える。

「よっしゃ、レイキ。勝負しようぜ!」

「…なんで?」

「目が合ったからだ!ここにいるやつとは一通り戦っちまったからさ!」

 なんと、俺が軽く図書館を見ている間にそんなことが。今日は入学式のため、一年しかいないが、それでも五十人近くはいるぞ?

 ……まぁ、自分の実力も知っときたいし、やってみるか。

「良いぞ。」

「分かるじゃねぇか!準備は?」

「出来た、行くぞ。」

「「ビートを刻め!」」




 手札は…まずまずか。

 先攻は龍ケ崎。

ヨクト一ターン目

「俺のターン。エレメントにカードを置いてターンエンドだ。」


レイキ一ターン目

「俺のターンドロー、エレメント。使用して、"浮遊する魂"をクリエート。ターンエンド。」

 俺が呼び出したのは青白い人魂だ。


ヨクト二ターン目

「俺のターンドロー!エレメントにカードを置いて、デクレイション!相手のパワー二千以下のファミリアを破壊。選択するのは"浮遊する魂"!」

 浮遊する魂はパワー千のため対象となる。

「こんなもんか?これじゃすぐに終わっちまうな!ターンエンドだ!」


レイキ二ターン目

 なんでこれでドヤれるのか不思議だが、まぁ良いか。レイスデッキの恐ろしさ、見せてやるよ!

「俺のターンドロー。エレメント、クリエート。

 "影踏・トビマル"。」

 俺が次に呼び出したのは幽霊の忍者だ。

「ターンエンド。」


ヨクト三ターン目

「俺のターンドロー!エレメントにカードを置いて……」

「トビマルの効果発動!」

「何!?」

「このカードがスタンバイ状態の時、相手のそのターン中に置かれたエレメントは使用できない。」

「な!?……ターン…エンドだ!」

 龍ケ崎がさっき置いたエレメントがコスト二だったこともあり、相当悔しいのだろう。


レイキ三ターン目

「俺のターンドロー。エレメント。……デクレイション、"怨嗟の叫び声"。山札の上からカードを二枚セメタリーに置き、ファミリアを一枚手札に加える。

 ターンエンドだ。」


ヨクト四ターン目

「俺のターンドロー!エレメントにカードを置いて、コスト三でクリエート!ジャストバード!」

「いっくよぉ~」

 ホログラムの中で、黄色い鳥が楽しそうに飛び回る。こいつは味方のファミリアをクリエートから即行動を出来るようにする能力を持っている。

「ターンエンド。次からが本当の勝負だ!」

「そうか。」


レイキ四ターン目

「俺のターンドロー。エレメントからのクリエート。

"侵食する魔の手・こんにゃく"。」

「ぶは!なんだそのふざけたファミリア!」

 笑ってられるのも今のうちだぜ?

「登場時、相手の手札を見る。」

「…はあっ!?」

「そして、その中から二枚選び、一枚をセメタリーへ、一枚を山札の一番下に。」

「そんな!?」

 龍ケ崎の切り札であり、相棒カードのジャミングドラゴンは山札の下に封印させてもらったぜ。

「ターンエンド。」


ヨクト五ターン目

「クソ!ドロー、エレメントで、クリエート!"ハート・バード!」

 ハート・バード。龍ケ崎のデッキにおいて、要注意のカードだ。その効果は…

「こいつがいる限り、俺の種族にドラゴンを持つファミリアのコストが二減る!

 ターンエンド!」

 厄介だよな。だが、俺の手札に除去札はないから次のドローでアイツがドラゴンを引かないように祈るだけだ。

 フラグじゃねぇからな!?


レイキ五ターン目

「俺のターンドロー。エレメント。クリエート!

 "エスケイプレイス・シャイガール"。」

「何!?相棒!?俺の他にも持ってるやつがいたのか!」

 派手な演出ともに現れ……ていないのが俺の相棒。今朝、手に入れたパートナーカードである。

「………?どこだ?」

「言っただろ?シャイって。恥ずかしがり屋なんだよ。トラップを設置。」

「そ、そうか?」

「ターンエンドだ。」


ヨクト六ターン目

「俺のターンドロー、ふふ、あはは!虚仮威しだったな!俺は"音速の叫び・ジャミングドラゴンをクリエート!」

 チッ!引き運の良いやつめ。

「ジャストバードの効果でジャミングドラゴンで攻撃。その時、効果発動!自分の場にいるこのカード以外のファミリアの数だけ、相手のカードを破壊する!ジャストバードとハート・バードで二枚分だ!」

「トラップ。"揺蕩う残像"このターン自分のファミリアはバトル以外で破壊されない。」

「マジか!まぁ、ジャミングドラゴンでプレイヤーに攻撃!それに続け、ジャストバード!ハート・バード!」

レイキライフ六→三

 合計三のダメージ。だが、これで手札を三枚補充できた。

「へへ、ターンエンドだ!」


レイキ六ターン目

「ドロー、エレメント。」

 もう、俺のターンとかダルくなってきたわ。すまんな。

「トラップを設置。クリエート、"団結する集団無意識""浮遊する魂"。

 シャイガールとこんにゃくでプレイヤーに攻撃。」

ヨクトライフ六→四

「へ!負けてられるかよ!」

「シャイガールの能力発動。攻撃後、このカードが残っていれば、次の自分のターンまで、このカードはこの場から離れない。ターンエンドだ。」


ヨクト七ターン目

「俺のターンドロー、エレメントにカードを置いて、もう一枚のジャミングドラゴンをクリエート!

 ジャミングドラゴンで攻撃!三枚分破壊だぁ!」

「ふっ、残念だな。」

「え…なぜだ!?」

「団結する集団無意識の効果を使用する。このカードは相手カードが攻撃する時、自分の場にあるカードの効果を場にあるカード全てに付与する。付与するのはもちろん、シャイガールの次の自分のターンまでこの場から離れない、だ。」

「く!別に良い!構うな!攻撃!」

「ライフ、ワンドロー。」

「もう一体のジャミングドラゴンで攻撃!」

「ライフ、ワンドロー。」

「ジャストバードで攻撃!」

「浮遊する魂でプロテクト。ジャストバードを破壊」

「んあ!?」

「落ち着いたか?」

レイキライフ三→一

「……ターンエンド…だ。」

 龍ケ崎は屈辱にまみれた顔をして、エンド宣言をした。


レイキ七ターン目

「ドロー、エレメント。

 一斉攻撃だ。」

「くっ!ハート・バードでプロテ………ぐわぁぁぁぁ!!!」

ヨクトライフ四→0


 負けないとは思ってたが、案外あっさり勝っちまったな。

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