プレジデントディスオーダー

あさひ

完話 始まりのオーダー

 日差しが落ちて数時間ほど経った

そこら中に暗闇が広がる時間である。

 二人の中学生が歩いていた。

「ねえ? アイスって今すぐじゃダメ?」

「家に帰ってからね」

 口をバツにしながらブーブーと反論する少女と

それを優しく諭す少年の構図が見える。

 コンビニの袋に集中する少女は

あれよこれよとアイスをねだっていた。

「家に帰ってからだと冷えたてのアイスが……」

「今もそうでしょ?」

「これが違うんだなぁ」

 気温は暑いといえば暑い

もう夏の空気が頬を撫でる。

「暑い中で食べるのは美味しいが……」

「美味しいが?」

「すぐに食べ切ろうとしてしまう」

 ハッと息を呑むように

聞き入っていく少女に畳みかけていった。

「家で食べると余裕があるからな」

「そうだね!」

「より味わって長い……」

 そこまで聞いて少女は腕を引っ張り始めた

家まで早く帰ろうと勢いがすごい。

「わかったから引っ張らないでよ」

「アイスを食べれないと近を食べちゃうぞ?」

「陽駆の執念を勉強に向けられないかなぁ」

 足早に帰路を急ぐ

そんな二人を後ろから窺う二人組がいた。

【対象は今のところ認知なし】

【そうか】

【引き続き監視しますか?】

【もういい…… 計画は遂行のみの段階だ】

【では撤収します】

 トランシーバーで連絡した二人組は

闇に溶けるように消えていく。

 月が煌々と見守るなかで

暗躍する何かは蠢いていた。

 どこかで腹の虫も蠢いていた

自分の分を少女に食われた少年は

苦笑しながら頭を撫でている。


 朝の目覚ましはだいぶ静かだった

というかスヌーズになっていた。

「ん? なんでだろう?」

 時計に目をやると

夜の十時になっているが

外は明るいどころか太陽が爆笑している。

「やばいなぁ」

「そうだねぇ」

 独り言に反応する声が

耳元で呼応した。

「なんでいるの?」

「ん?」

「ん? じゃないよ」

 幼馴染の少女「陽駆【ひかり】」が

ニコニコと寝顔を覗いていたらしい。

「大丈夫だよ? 食べてないから」

「アイスなら食べたでしょ?」

「とぼけるんだねぇ」

 少女にあっけらかんと呆れ

周囲に目が行った。

 漫画が無造作に置いてある

タイトルは「大人の階段」と見える。

「読んだの?」

「当たり前じゃん!」

 胸を張って堂々と言うが

それは中学生のトラウマに成りゆる代物だ。

「好きなんだよねぇ」

 ニマニマと性癖を責められる

そして漫画のヒロインを模倣しようとする。

「やめなさい」

「いいじゃん! これからいっぱい……」

 その言葉を聞く前に顔が真っ赤になる

肌が若干だが白いのでよくわかってしまうのだ。

「うれしい……」

 ドキドキと心音が高鳴る瞬間だった

街から爆音がなる。

「なんだ?」

「爆発しちゃうくらいなんだねぇ」

 ふざけている少女をかわしながら

窓の外をカーテンの端から覗いた。

 街の象徴である

テレビ塔が火を噴いている。

「テレビの撮影かな?」

 横でいつの間にか

顔をひょこっと出そうとする少女を

抑え込んだ。

「危ないから家にいようか」

「ええっ! 今日は外に遊びに行くんでしょ?」

 記憶が過ったのは数秒後だ

昨日の話に遡るが

近くの市民プールに泳ぎに行く約束をしたのである。

「近に見せるために水着までもう着たのに」

 早いよ

着替えるのが面倒な女子高生より早いよ。

「そっか…… 家の風呂場じゃダメ?」

「ほんとに! 良いの?」

 嫌な予感がそっと脳裏を撫でる感覚がする

勘違いの範疇を超えている気がした。

「まだ大人じゃないのに?」

「わかった」

「スケベ……」

 ニタニタと笑いながらからかってくる

これがなんとなくという理由だから質が悪い。

「プールに行こう」

「うん!」

「準備があるから先に行っててくれる?」

 目をランランと輝かせ

準備しておいた鞄を手に階段をドタドタ降りる。

 ニュースを確認する頃には

血相を変えて少女を探すことになるとはつゆ知らずにだ。


 少女が出て行ってから数分で

ニュースをテレビで確認する。

【今日未明ですがテロリストのような武装集団が

街を占拠し、身代金を国家に要求している模様です】

 街中を映し出された瞬間には

リモコンをほっぽりだした。

 気が付けばところどころボロボロな

家屋を横目にプールに行くための道を辿っていく。

 そんな折に聞き覚えがある悲鳴を耳に捉えた

陽駆の声だ。

≪助けて!≫

 声のする方へと全力で向かうと

座り込んだ陽駆が何かに怯えて手で後ずさっている。

 近くに寄っていくと

銃口を向けられているのを目視した。

「やめろ!」

 とっさに出た叫び声に

銃口をこちらへと一斉に並べてくる。

「シートゥターゲット!」

「サー!」

 海外の人間が一斉に

殺気を帯びた。

 見たことのない武装に

あまり聞きなれない言葉を使う人たちに

心当たりがある。

 昔のことだが

能力があると連れ去ろうと

来た集団に酷似していた。

「キャッチターゲット! ドンアタック!」

 銃を下ろしながら手にナイフやら

捕縛用の何かを手にジリジリ寄ってくる。

「仕方ないか……」

 ゆっくり目を閉じて

小さく呟いた。

【絶対≪オーダー≫】

 その言葉で瞳が青く煌めいた

刹那に部隊が飛び掛かるように走ってくる。

「陽駆を守れ! 言霊 近!」

 自身に自己暗示を加える

その瞬間に青白い煙が体を包み

姿を変えた。

 大きな姿は

トカゲのような龍のような

二本足の竜頭の人間である。

【変身≪トランスオーダー≫】

 言葉を吐き捨てると

武装集団を一気に駆け抜けて

通り過ぎた。

 何事かと

武装集団が振り返る頃には

視界は暗く落ち

バタバタ倒れていく。

 全滅を確認したのは

失神した武装集団を取り締まる

警察の面々だった。


「大丈夫! 陽駆っ!」

 小さく唸りながら

少女は目を少しずつ開けていく。

「よかった……」

「な…… なにがぁ?」

 寝ぼけている少女をギュッと

体中に感じる少年は

家のベッドの脇でずっと見ていたのだ。


 始まりのオーダー 完


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プレジデントディスオーダー あさひ @osakabehime

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