第三章 方向指示器 7
「おれは自分がやりたいことを目指すのは大賛成だ!」
気づいたら心の声が駄々漏れていた。勢いのまま一気に放出する。
「やりたいことがとくにないおれが言うのはおこがましいけど、おれは花音さんを応援しますよ!」
「あ、ありがとう、ございます……!」
花音はきっと言われ慣れていないのだろう、珍しいものを見るような顔つきになった。
そして花音はおれを見つめたまま、ぐっと拳を握って、おそらく言いたかったけど言わないでいたことを吐き出した。
「刑事の適正にジェンダーは関係ないことを、証明したいんです、わたし!」
警察の中でも外でも、花音は鬱屈を抱えていたに違いない。
「わかるよ。おれは外働きは苦手だけど、家事は大好きなんだ。家事代行サービスに登録して働こうかと思ってたんだけど、男が登録すんのはおかしいのかなってためらっていた。いや、おかしくないよな。なにびびってるんだ、おれ。ジェンダーには役割があるなんて考え方は雑だよな。他人に生き方を否定されたり規定されたくない、だよな」
「はい、おかげで勇気が出ました。当たって砕けろの精神で頑張ってみます!」
後ろ手に縛られた情けない姿で、犯人の疑いが晴れていないやつが、警察官を励ましているのは客観的に見ておかしいだろうな。
と思っていたら、やはりオカチンが食いついた。
「無責任にけしかけんなよ!」
おれの頭をこづいたオカチンを花音がとめる。
「わたしが決めたことはわたしが責任を取ります。太郎さんに暴力をふるわないでください!」
やはり花音はオカチンにはもったいない。
などとしみじみと感慨に耽っていたら、除霊師と幽霊をすっかり忘却していた。
だから右腕がぴょこんと跳ね起きたのを目にして、
「うひゃ……っ!?」
おもわず悲鳴をあげた。
花音とオカチンが怪訝な顔をする。彼らに見せたい。右手がダウジングのように方向を指し示しているのところを。
「あっちか」
双葉はすたすたと歩き出した。カラオケ店のある方角だ。
「ちょ、ちょっと待ちなさい。待たないと補導するわよ」
花音はそう呼びかけながら、オカチンとおれを連れて除霊師のあとを追いかけた。
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