5歩目

という訳で昨日の今日である。


ログインしてすることと言えばクエスト。


自動生成でランダム的に難易度が変動する。酷い時はそのまま大規模にギルド対抗クエストに発展したり誰も解決できないまま棄却されて街の関係度が悪化したりする。


一方で思いがけず一躍街のヒーローになることもある。それがランダム生成クエストの醍醐味なのだ。


今回受けたのは迷子の子供を探して欲しいという依頼だ。教会で預かっている子供が1人行方をくらましているらしい。


迷子系の依頼は動物の場合もある。


大抵スレ一覧を覗くと目撃情報掲示板が載っており、書き込んだ時間から類推してこの辺りに居るだろうという当たりをつけることが出来る。


また、載ってない場合は、探し人有りと書き込めば、物好きな暇なひとが手伝ってくれる。はずだったのだが何やらスレが乱立していた。


俺は、赤髪の長髪、ワインレッドの瞳を持つ少女を探すことになっている。しかし、掲示板には、複数のほかの子供の情報が検索はかけられているが、誰も反応していない状態だった。もう少し情報はないのかとも言われたが、赤毛の少女の姿が見えないというのも妙ではあるとのこと。


ピコンッ


どうやらアヤメからメッセージが届いたようだ。


20XX/3/13/10:14

アヤメ:今大丈夫?

アヤメ:迷子のペットが全然見つからなくて

20XX/3/13/10:16

天使のはね飾りを首から下げた白猫、瞳は黄色。しっぽ長め。一昨日から行方をくらましてご飯を食べに来ないから捜索が出された。だって。わかる?


すまん分からない。


だがこの行方不明事件は何らかの関連性がありそうだ。こんなに捜索願いばかりが多いのも不思議である。


呼んで情報交換しようか。


20XX/3/13/10:17

カイト:一緒に探してみる?自分も今探し人中。


20XX/3/13/10:17

アヤメ:じゃあ五番街の五月雨通り藤の木前で待ち合わせ。


20XX/3/13/10:18

カイト:了解


この街には12番街まであり、それぞれに季節の花を模したシンボルが分かりやすく設置されているため、よく待ち合わせ場所にされたりする。


五番街は、何故か雨が降り続ける街である。五月雨街という別名が付けられるぐらいシトシトと雨が降る。


街は水に沈みゆくんじゃないかって感じで地面には薄らと水溜まりが一面に広がっている。人によって好き嫌い別れる。


嫌いと言う人は街に人が少ないというところもあまり好印象に働かないのだという。


だが水路が溢れるぐらい雨が降っている訳ではなく、降った雨が水路を通してどこかに還元されて雨が降り続けているのではないかとされている。街の全容は霧で包まれて、誰も訪れたことの無い部屋があるのではないかと噂されている。


雨と霧に包まれ謎が覆う街、それが五番街だ。全体的に黒い街である。


とぼとぼと雨に打たれ待ち合わせ場所に移動する。この雨1粒にどれだけのドッドが詰め込まれているのだろう。


すると、大きな藤の木が見えてきた。シンシンと降る雨の中、木の前で数人待ち合わせをしていた。中に、紺色の傘をさすアヤメの姿があった。


「昨日ぶり。傘ささないの?風邪ひきそうだから入る?」


言葉に甘えて入る。周りを見ればカエルが乗っているような蓮の葉みたいな傘をさしている人もいた。


「それで、迷い猫の話なんだけど。この雨が降る街で飼い主さんによると、見かけなくなったのは一昨日のことで、1日立っても戻ってこないから心配して捜索願を出したんだって。最近行方不明者も多いみたいでそれで心配になったのね。天使のはね飾りをつけた白猫なんだけどこの雨じゃあね〜。という訳で助けを借りたいかなっと。」


個人的に立てた推論は当たっていたように思う。だがこれからどうしよか、という点は何一つ解決してないように思う。


スキルの獲得。それが最善になると思う。スキルとは何回も試行回数を重ねることで獲得できる。


「路地を調べ回るとか、行動がスキルに繋がるんじゃない?でもひとりでやるの大変だね。」


やっぱりそうなるか。


路地を見て回る。それっぽい樽の中や壊れかけの木の箱、水瓶の中を覗き見て歩く。何度も確認しているが、一向にスキルが生えてくる気配がない。


アヤメが傘を回しながらターンする。


降りしきる雨に体を濡らして全身濡れ鼠である。そんな中、20回ぐらいだろうか、【観察】を手に入れた。


なんか道端の1箇所がキラキラ光るようになった。途端に雨の町は光に溢れ始めた。


ゴミが多いってこと?


アヤメも手に入れたようだ。ちょっと世界が広がるとかそういう感じで楽しいという子供らしい感想であった。


すると光っている壁を覗き込むと文字が書かれていた。


「路地を右に」


「なんだろうね、これ?」するとアヤメも覗き込んでいた。「したがってみよっか。」その声に従う。


続いて「路地を右に」

続いて「路地を右に」

続いて「路地を右に」


これ元の道に戻るんじゃないか?


すると全く違う通りに面した。


「なんだか明るくなったねぇ?」


アヤメは傘の縁から手を伸ばして、朝日に手を透かしている。


全体的に少し街の印象は明るくなっている。もしかして街全体が認識阻害にかけられているのかもしれない。かなり大掛かりなことだ。


アヤメは傘をしまった。どうやら雨が上がったらしい。街は変わらず、ここを見てくれという感じで通りの壁がキラキラしている。


「にゃー」


声が聞こえた。もしかすると、この変化する街の中に迷い猫が呑み込まれたのかもしれない。


「あっちに行った!」


どうやらアヤメは目撃もしていたらしい。


猫の後ろ姿を追うことにするのだ。

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