第33話
そんな中入った村で。
何だか村中がざわついているような感じを二人は受け取った。
昼食には少し遅い時間。
食堂に入り他の客から離れたテーブルに陣取ると、主人に何かあったのか聞く。
客達も顔を寄せ合い、こそこそと何かを話している。
「あぁ、お客さんは噂を聞いて来たんではないんだね?」
「噂?どんな噂だ?」
主人は皿を二人のテーブルに置くと、顔を顰めた。
「魔女が出たんでさぁ」
「魔女?」
ディヴィットは眉根を顰めた。
クリスは目を見開く。
バレたの?とその目が言っているようにディヴィットは見えた。
「俺は魔女を見た事がないが、どんな奴なんだ?」
ディヴィットはテーブルの下でクリスの足を軽く蹴り、余計な事は言うな、という目で見る。
通じたのか分からないが、クリスはフォークを手に取った。
それを横目で見ながら、ディヴィットは主人と話を続けた。
「ぃえね。あたしも見てはおらんのですが、今朝、この先の森の中で大きな狼が死んでいるのが見付かってですね」
昨日、俺達を襲った狼だ、とディヴィットは思った。
「それがあなた、一滴も血を流しておらんそうでして。それが5頭。折り重なるように死んでいたんだそうで。少し離れた所には焚火の後もありましてね。こりゃぁ、魔女が野宿していて狼に襲われたんだろうって、そんな話なんですよ」
「血が流れてないのは不思議だな」
ディヴィットは主人に話しをさせる為に続けた。
「そうでしょう?気味が悪いもんだから、魔女の所為だって事で。明日、村人総出で森に入って魔女狩りをするんですよ。その噂を聞いて他所の村からも手伝いがちらほら。お客さんはそうじゃないんですね?」
「あぁ。俺達はずっと旅してるんだ。あんたが言ってる森ってのは西か?それとも東?」
「西ですよ、お客さん」
そこで主人は何かに気付いたような顔をした。
「何か見たんですか?お客さん、そこを通って来なさったんでしょう?」
ディヴィットは頭を振った。
「ぃや。多分、俺達が通ってきた道だと思うんだが、何も見なかったな。その狼はいつ死んだんだ?」
「さぁ。見付けたのは、この辺の領主の息子でね。ココだけの話、女遊びの酷い奴で。今朝も馬でよその村に行って女遊びをしての帰り、用を足そうと森に入った所で見付けたそうで」
「………そういえば、馬に乗った男が追い越していったな」
村に入る2時間ほど前の話だ。
あまりに乱暴な乗り手で、二人は街道を外れ、草原に降りなければならなかった。
あのまま避けなかったら馬に蹴られていただろう、と二人で話したものだ。
ディヴィットの言葉に主人が大きく頷いた。
「それですよ、きっと。その話しを聞いた誰だったかが、2、3日前にぼろいマントを着た女を森の傍で見た、なんて言い出しまして。それが魔女じゃないかって、ねぇ。あたしなんかはもうとっくの昔に森を出てるって、そう思うんですが、血の気の多い連中は捕まえろって言うんですよ」
主人は肩を竦めた。
「2、3日前じゃそうだろうな」
でしょう、と言って、主人はテーブルを離れた。
ディヴィットはフォークを取った。
とにかく自分達が疑われていないならそれでいい。
「ディヴィット、今夜はこの村に泊りませんか?」
クリスが顔をあげた。
誰に聞かれても良いように、男の話し方になっていた。
ディヴィットは首を傾げる。
「どうして?疲れたのか?」
「ぃえ、そうではないのですが………魔女狩りに参加してみたいと思いまして」
「はぁ?」
ディヴィットの声は自分で思ったより大きかったらしく、主人が顔を出した。
離れたテーブルからも訝しげな視線が飛んでくる。
「どうなさいました?」
「あ~~いや、何でもない。連れがもう腹一杯だというんでな」
ディヴィットはみんなに聞かせる様に声を張った。
主人は心配げな顔をしてテーブルに来た。
他の客は興味を失くしたように自分達の話に戻る。
「お口に合いませんでしたか?」
クリスは微笑んだ。
「ぃえ。美味しいです。ただ、僕には少し量が多いので。いつもこの人に残さず食べるよう言われているんです」
主人はクリスをじろじろと見た。
「お連れさんの言う事は聞いた方が良いですよ、お客さん。そんな細っこい体で旅を続けるのは心配の種ってものです。たくさん召し上がんなさい」
クリスは苦笑して、フォークで肉を差した。
「ではもう少しがんばってみます」
「そうなさるがいいですよ」
主人は奥に戻った。
それを確認して、ディヴィットは口を開いた。
「これを食ったら村を出る。さっさと食え」
そう言って肉を頬張る。
「ですが………」
「いいから。この話は村を出てからだ」
ディヴィットは不機嫌そうに口を動かした。
クリスは自分の提案がこんなにもディヴィットの機嫌を損なうとは思っていなかったので、悲しくなりながらも食べた。
二人は黙々と食事を終え、ついでにパンやチーズなどの食料品を買って村を出た。
その間、ずっとディヴィットはむすっとしていた。
こんなに不機嫌なのは初めてだ。
悲しいような、怖いような気分でクリスはその後ろからついて行った。
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