第16話
目の前に座るクリスを見ながらディヴィットもまた、隠れて息を吐いた。
良く見れば、やっぱり女だよなぁ。
男の恰好してるから、誰もその事を思わないだけだ。
女はドレスを着てるもんだって、一人旅なんてしないって思い込んでるんだ。
俺もまぁ、騙された口ではあるけれど。
あんな姿を見なかったら、一生騙され続けた自信はある。
ディヴィットは昨夜の事を思い出しながら、肉を頬張った。
ディヴィットがクリスに言った事はほとんど本当だ。
夜中。
ベッドの上の衣擦れに目を覚ました。
「ぅん………もうっ………」
女の煩悶するような声に起こされたといっても間違いではない。
んだよ?
声変りしてないのはしょうがないが、ヘンに色っぽく聞こえるじゃないか。
このままじゃ眠れない。
ディヴィットはクリスに説明したようにロープを切り、顔をあげた。
「クリストファー、あんた………」
ディヴィットは息を呑んだ。
ぃや、唾を呑んだ。
クリスは半裸だった。
ズボンを脱ぎ、シャツもなく。
起き上がって胸に巻かれた布を取ろうともがいている。
暖炉からの明かりがクリスの白い肌を紅く照らし出している。
「んっ……もうっ………外れろっ…………」
「………クリストファー?」
ディヴィットは恐る恐る声をかけた。
だが、クリスは目を閉じたまま布と格闘している。
「……寝惚けてんのか?」
ディヴィットが懸命に状況を把握しようとする間に、クリスは布をなんとか外した。
満足そうに笑みを浮かべると、そのままばたんと後ろにひっくり返った。
ディヴィットは立ちあがり、ベッドに横たわるクリスを見下ろした。
………良い体してるな
それがディヴィットの第一印象。
鍛えている所為だろう。
クリスの体には適度に筋肉がつき、全体に引き締まっている。
それと長い手足が男だと思わせた。
だが、張りのある乳房とくびれた腰、肉付きの良い尻が女だと言っている。
そもそも股には男の証明がない。
ディヴィットは、出来の良い彫刻を眺めている気分になった。
だから本当に芸術品を鑑賞するように、ベッドの周りをぐるぐると回ってクリスの体を見た。
近くから、遠くから、見る。
ふむ………
前からはもう良いから、背中も見たいものだ。
そう思っていたら、クリスが寝がえりをうった。
うつ伏せになったので、背中も見た。
きれいな背中だった。
まっすぐな背骨から尻へのカーブは感心するほど美しかった。
ディヴィットは見惚れていた。
どのくらいそうしていただろうか。
クリスが横向きになり、ベッドの上で体を丸めた。
「ん?寒いのか………」
ディヴィットは我に返った。
「このままじゃ風邪引くな」
ディヴィットはクリスにシャツを着せる事にした。
「起こすのは可哀想か。それにこの状況じゃ、俺が脱がせたと言われても反論できないしな」
ディヴィットはクリスの手をそっと持つと、先ずは右手を袖に通した。
背中にシャツを添わせて反対向きにごろんと動かす。
上になった左手を袖に通した。
「よし………後はボタンを留めて………」
「ぅん…………」
クリスの口から洩れた声に、ボタンに手を伸ばしていたディヴィットの手が止まった。
クリスが寝返りを打つ。
ディヴィットは我知らずの内にごくり、と喉を鳴らした。
シャツがはだけて両の胸が露わになっている。
そっと下半身に目をやれば、ほんの少しだけシャツの裾で隠れている。
とても淫靡な光景だった。
シャツを羽織っただけで、クリスは彫刻ではなくなった。
ディヴィットはクリスの胸にそっと触れた。
「ん…………」
クリスは小さく声をあげた。
紅い唇と一緒に瞼が震えた様に見えた。
「やべぇ………」
ディヴィットは急いでシャツでクリスの胸を隠し、そこだけボタンを留めた。
布団をかぶせ、部屋を出る。
そのままトイレに行く。
男ってのはどうしようもないな………
ディヴィットは用を足しながら大きく息を吐いた。
裸の女がいるってだけで反応しちまうなんて。
俺にはリタがいるって言うのに。
リタ、リタ。
早く会いたい。
俺の顔を見たら、きっと飛び上がって喜ぶだろう。
袋一杯の金貨を見たら、どんな顔をするのか?
ディヴィットはリタの事を思い出しながら、部屋に戻った。
そこには布団にくるまったクリスがいた。
ディヴィットはクリスを見ないようにしながら暖炉の傍で横になった。
良く考えろ、ディヴィット。
ここでクリストファーに恩を売るのも一つの手だ。
上手く行けば金をうんと節約できる。
クリストファーが起きる前に部屋の外に出よう。
廊下で寝ていた、と言おう。
そうすれば今日の部屋代も払わなくて済むだろう。
クリストファーは金づるだ。
そう思えば男だろうが、女だろうが関係ない。
リタ、リタ。
もうしばらく待っていてくれ。
俺のリタ。
ディヴィットは夢の中でリタを抱いた事を思い出し、一人微笑んだ。
「なんですか?思い出し笑いなんかして気持ち悪い」
「ぁ?心配しなくてもあんたの痴態を思い出してる訳じゃない」
ディヴィットの言葉にクリスは顔を隠した。
大きな財布を手に入れたと思えば良い。
ディヴィットはまた肉を頬張った。
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