最強騎士は過保護で困る

夏木

第1話 森の出会い



「俺と結婚してください!」



 開口一番、ひざまずいて言われたのはそれだった。

 言った本人は白に金の装飾が施された鎧をまとった青年。陽だまりのような明るい髪と、空のような青い瞳。

 知り合いではない。

 しばらく外に出ていないし、ここは光も遮るほど深緑に満ちた迷いの森だ。人が入ってくることはない。入れば出られない、そう言われているのだから。


 迷いの森である理由は、私がいるから。

 膨大な魔力を持ち、自然を操る魔法を使うことができる創樹の魔女、シルワ。それが私。

 魔女は永久とわを生き、力があるために人から恐れられる運命さだめ

 それなら人に会いたくない。だから人里離れたこの森に籠もり、誰も入ってこないように森全体に魔法で結界を張った。

 さらに入ってきたとしても、私のところには決して来れぬよう、入ってきたところに戻る転移魔法までかけておいたというのに。


 なのにどうして目の前の騎士はここにいるのか。


「失礼。名乗り遅れました。俺は、王都ディアルト、第一騎士団団長・アルクトス。この命、貴方に捧げます」


 王都ディアルト。

 迷いの森に最も近い位置にある国。それくらいしか知識はない。

 私は、国がどうなろうがいつ建てられようがどうでもいいからだ。


「人違いだ。お前など知らん」

「人違いなんかではありません。自然を具現化したような美しい髪と、黄金色の大きな瞳を忘れるはずがありません。俺の思いは、出会ってからずっと貴方一筋です」

「帰れ。ここは人が踏み込んでいい場所ではない。五体満足のうちに帰るんだ」


 踵を返し、アルクトスをまこうとした。手を少しだけ動かして、木々を操り、追って来ぬよう道を塞ぐ。

 手足を動かすかの如く容易に出来る魔法。失敗することはない。

 ミシミシと音を立てて、私の背後を覆う。その際に追ってこないよう振り返ってみれば、アルクトスの歓喜に満ちた顔がそこにあった。



「……シルワ様とお話できたっ……!」




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