第62話 合格発表


「わ~。相変わらず、すごい人の数だね」


「そうだな」



 入学試験から数日後、合格発表当日。

 俺はシュナと共に王立アカデミーまでやってきていた。


 ちなみにだが、この間に俺たちはダンジョンを一つ攻略。

 お互いにレベルが1上がり、俺については新しく剣のスキル【ソード・ブースト】を獲得していた。



――――――――――――――――――――


 ゼロス・シルフィード

 性別:男性

 年齢:15歳

 紋章:【無の紋章】


 レベル:46

 HP:460/460 MP:230/230

 筋 力:82

 持久力:62

 速 度:76

 知 力:54

 幸 運:46

 ステータスポイント:0


 オリジナルスキル:【剣帝けんてい意志いし】Lv.1

 スキル:【パリィ】Lv.2、【スラッシュ】Lv.2、【ソード・ブースト】Lv.1、【マジック・アロー】Lv.1、【マジック・ボール】Lv.1、【ダーク・エンチャント】Lv.1、【索敵】Lv.1


――――――――――――――――――――


【ソード・ブースト】Lv.1

 ・剣のスキル

 ・MPを消費することで、数秒間、剣速が大きく上昇する。


――――――――――――――――――――


 シュナ・トライメル

 性別:女性

 年齢:15歳

 紋章:【魔導の紋章】


 レベル:46

 HP:368/368 MP:322/322

 筋 力:50

 持久力:52

 速 度:66

 知 力:90

 幸 運:62

 ステータスポイント:0


 スキル:【マジック・アロー】Lv.1、【マジック・ボール】Lv.1、【マジック・ミサイル】Lv.1、【セイクリッド・エンチャント】Lv.1、【ダーク・エンチャント】Lv.1、【マジック・ストリング】Lv.1


――――――――――――――――――――



 現状のステータスはこんな感じ。

 ステータス、スキルともに、なかなか充実してきたと言えるだろう。


 と、振り返りも程々に。

 今日の一番の目的は合否を確かめること。

 この結果次第で人生が大きく変わる可能性もあるためか、受験生たちは皆、緊張の面持ちを浮かべていた。

 ある意味、試験当日よりも緊張している人が多そうだ。


「早く行こっ、ゼロス!」


「ああ」


 シュナの声に応じるまま、結果が張り出されているスペースまで移動する。

 そこは大量の受験生で賑わっていた。

 喜びの叫び声、悲しみの泣き声、それから困惑の声――


「ん?」


 少しだけ場にそぐわない声が混じっていた気がしたが、ひとまずスルーして張り紙に視線を向けた。

 プライバシーはあってないようなもので、受験番号などではなく、合格者の名前と紋章名がセットになって張り出されている。


 それを俺は、上から順に見ていったのだが……


「……あれ?」


 予想に反し、俺の名前が見当たらなかった。


 落ちた? いや、まさか。

 筆記試験、実技試験ともに合格水準は間違いなく超えているはずだ。

 あっ、あそこにシルフィードと書かれて――ってディオンかよ、ややこしい。


 ふむ。やっぱり俺の名前が見当たらない。


「何でだ? 落ちるような試験結果じゃないと思うんだが。それとも……」


 もしかして、俺の紋章が関係しているのだろうか?

 スキルを獲得できない【無の紋章】は、将来性がないため強制的に不合格とか。


 いやいや、だったら初めから受験資格が与えられるはずがない。

 だとするなら、どうして――


「っ! 見て、ゼロス!」


 ――思考の海に沈んでいた俺を掬い上げたのは、隣にいるシュナだった。

 彼女はなぜか嬉しそうに満面の笑みを浮かべたまま、張り紙を指さしていた。


「……シュナ、何もそんなに楽しそうに、俺の不合格を突き付けなくても……」


「違うよ、ゼロス! その上!」


「上?」


 言われてみれば、シュナの指は張り紙よりもさらに上を向いていた。

 そちらに視線をやり、遅れて俺も気付く。

 そこにはこれまで見ていた張り紙とは別に、『成績上位者』と書かれた豪華な張り紙が存在していた。



――――――――――――――――――――


 王立アカデミー入学試験・成績上位者


『1位 ゼロス・シルフィード 【無の紋章】

 筆記試験100点(1位) 実技試験100点(剣の試験、1位)』

 ※実技試験は剣の試験を選択


『2位 リリア・クリスタル 【治癒の紋章】

 筆記試験95点(2位) 実技試験100点(治癒の試験、1位)』


『3位 ノエル・ファナティス 【剣の紋章】

 筆記試験90点(4位) 実技試験100点(剣の試験、2位)』


※剣の試験で最高得点者が二名出たため、クリアタイムをもとに順位決定。


――――――――――――――――――――



 そこに載っているのは合計で三人の名前。

 1位の欄には、堂々と俺の名前が刻まれていた。


 その結果を確認した俺は、ホッと胸を撫でおろす。


「ふー、とりあえず一安心だな」


「安心どころじゃないよ! これだけいる中で1位なんだよ!? やっぱりゼロスはすごいね!」


 太陽のような満面の笑みを浮かべて、シュナは称賛の言葉を投げかけてくれる。

 そんな彼女をありがたく思っていた、その直後だった。


(ん?)


 何やら周囲から、複数の視線を感じる。

 それも、どうやらあまり良い感情が含まれていなさそうだ。

 俺は彼らの呟きに耳を傾けた。



「おい、聞こえたか? アイツが1位みたいだけど……」


「いやいや、何かの間違いだろ。【無の紋章】がアカデミーに入学できた話すら聞いたことないのに、1位を取れるはずねえよ」


「何か不正でもしたんじゃないの?」


「納得いかないな」



 ……ふむ。

 どうやら話を聞くに、【無の紋章】持ちが1位になったことが不思議で仕方ないらしい。

 先ほどから時折聞こえていた困惑の声も、それについてのリアクションだったみたいだ。


「……むぅ」


 シュナにも彼らの呟きが聞こえたのか、不満げに頬を膨らませていた。

 それでも言い返そうとしないのは、自分が彼らと同じ立場ではなく、従者としてこの場にいることを考慮してだろう。


(……さて、どうしたものか)


 俺から言い返してやってもいいが、そうするだけのメリットも特にない気がする。

 別に外野からどう思われようと気にならないし、実力なら入学後、嫌というほど思い知らせることができるだろう。

 少なくとも、この場でどうこうすべき類の問題ではない。


「シュナ。結果は確認できたんだし、今日はひとまず帰ろ――」


 俺がそう提案しようとした瞬間だった。




「君が【無の紋章】持ちでありながら、剣の試験で1位を獲得したゼロス・シルフィードか」




 凛と、低くも透き通るような声が辺り一帯に響く。

 誰もが自然と会話をやめ、声がした方向に視線をやった。


 そこに立っていたのは、一人の少年だった。

 男性としては少し長めの灰色の髪に、整った顔立ち。

 服装は綺麗に整えられ、腰元には高そうな剣が携えられている。


 沈黙を打ち破ったのは、外野の声だった。



「お、おい、あれってまさかファナティス公爵家の……」


「ああ。現王国騎士団長の息子で、次期剣聖とも名高いノエル・ファナティスだ」



(……ふむ)


 ノエル・ファナティス。

 俺はその名前を知っていた。


 先ほどの成績上位者の中に彼の名前が載っていたというのもあるが、そもそもそれ以前に、彼はこのアレクシア王国でそれなりの有名人。

 父親のファナティス公爵が現王国騎士団長であると同時に、剣聖として名を轟かせており、息子である彼――ノエルはその才能を引き継いだ。

 そんな噂を聞くことが何度かあったため、転生前のゼロスの記憶に、彼の名前はしっかりと刻まれていたのだ。


 ちなみにディオンが【全の紋章】を獲得して以降、会ったこともない彼をライバル視し、アカデミーに入学した暁にはコテンパンにしてやろうと意気込んでいた時期があるのだが……それは割愛するとして。


(クリスタル家の聖女には劣るとして、今年の受験者の中でトップクラスに有名なコイツが俺に何の用だ?)


 そんな疑問を抱きつつ、俺はとりあえずヤツの質問に答えることにした。


「ああ。俺がゼロスで合ってるが……何か用でもあるのか?」


「当然だ。【無の紋章】持ちが、この僕以上の高成績を残したなど、とてもじゃないがこの目で見るまで信じられない。ゆえに――」


 そう言いながら、ノエルは何と腰元の剣を勢いよく抜き――その切っ先をビシッと俺に向けた。

 そして、




「――――僕と決闘し、その力を証明しろ! ゼロス・シルフィード!」




 突然、決闘を申し込んでくるのだった。

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