第51話 VSストーム・ウィング

 突如として現れたストーム・ウィングを見上げつつ、ガレスが驚きの声を上げる。


「なっ!? レベル50越えの魔物が、どうしてこんなところに……!」


 ガレスの疑問はもっともだが、戸惑っている余裕はない。

 ストーム・ウィングは今の俺たちにとって、かなり厄介な魔物だからだ。


 風を操り遠距離から攻撃を仕掛けてくる飛行型魔物であり、『夕凪の剣』とは相性が悪い。

 防御力はそこまで高くないため、シュナの天冥爆ヴォイド・バーストなら一撃で葬れるだろうが、ストーム・ウィングは速度に優れており命中させるのが難しい。

 読み合い云々に関係なく、魔法の発動を見てからでも十分に回避が間に合ってしまうのだ。


 俺のスラッシュならある程度の割合で命中させられるだろうが、今度はレベル差が響き決定打とならない。

 正直、俺たちだけの安全を考慮するなら、撤退を選択するのが一番だが――


「どうする? ここは一旦退くか?」


 ――同様の考えに至ったのか、ガレスがそう問いかけてくる。

 だが、俺は首を横に振った。


「いや、それだと俺たちはともかく、馬車にいる皆を守り切るのは難しい」


「っ、ならどうすれば……」


 狼狽えるガレスたち一行。

 ここで自分たちだけでも逃げるという選択肢を選ばないことから、彼らのプロ意識の高さが窺える。


 そんな彼らに向けて、俺は端的に答えを返す。


「決まってるだろ? ヤツはここで俺たちが倒す」


「そりゃ、そうできるのが一番だが……もしかして、何か秘策があるのか!?」


 期待の籠った視線を俺に向けるガレス。

 彼の言う通り、この状況からストーム・ウィングを倒すには秘策が必要だ。

 そして、それにおあつらえ向きのスキルを俺たちは既に持って――



 ――否。



 俺は確信のもと、力強い視線をシュナに向ける。


「シュナ、さっそく新スキルの出番だぞ」


「……新スキルって、マジック・ストリングのことだよね? 何をすればいいの?」


 ここまで幾つもの修羅場を共に潜り抜けてきた間柄のおかげか、彼女は戸惑いつつも、すぐ俺の言葉に応じてくれる。

 そんな彼女に頼もしさを感じつつ、俺は続けた。


「俺が敵の気を引くから、その隙にありったけの魔力糸でストーム・ウィングを拘束してくれ。あっ、一応MPは3割以上残すようにだけ注意してな」


「わかった! 任せて!」


 緊張の色が浮かんではいるものの、真剣な面持ちで頷くシュナ。

 すると、そのタイミングでガレスたちが声を上げる。


「何か、俺たちにできることはないか?」


「そうだな、シュナが魔法に集中できるよう護衛に務めてくれると助かる」


「分かった! やるぞ、皆!」


「おう(はい)!」


 俺たちの方針が決まった、その直後だった。


「ァァァアアアアアアアア!」


 ここまではこちらを警戒するように上空を旋回していたストーム・ウィングが、咆哮とともに翼をはためかせ、強力な風弾を三つ放ってくる。

 それを見た俺は、素早く剣を振るった。


かすみとし!」


「――キィ!?」


 それによって、全ての風弾を弾き飛ばすことに成功する。

 さらに俺は動きを止めることなく、続けて二つのスラッシュを放った。


「――――ィィィイイイ」


 さすがの反応速度と言うべきか、身をよじり斬撃を回避するストーム・ウィング。

 しかし無理をした影響で、体勢が不十分になった。


「今なら――スラッシュ!」


「キュゥ!?」


 結果、ストーム・ウィングに二振りの会心斬撃が命中する。

 その巨大な胴体に、確かな切り傷を残した。


 ただ……


(やっぱりレベル差があるせいか、致命傷とまではいかないな。この調子でダメージを稼いでいくのは効率が悪いし、倒し切るよりも早くこちらのMPが切れてしまう)


 となると当初の予定通り、秘策を成功させるしかない。

 俺が視線を後ろにやると、シュナは既に杖先から無数の魔力糸を出現させていた。

 そして、


「いっけぇぇぇ!」


 シュナの叫びに応じ、無数の魔力糸がストーム・ウィングに向かって勢いよく伸びていく。

 それを見たストーム・ウィングは翼をはためかせ、素早くその場から離脱した。


「――まだ!」


「!?」


 しかし、マジック・ストリングは通常の魔法と違い、魔力糸は発動後も操作することができる。

 シュナは逃げようとするストーム・ウィングを捕まえるべく、魔力糸を操って敵を追跡していた。


「シャァァァアアアアア!」


 このままだとまずいと考えたのか、俺ではなくシュナに向かって魔法を放つストーム・ウィングだったが――


「霞落とし!」


「させるかよ!」


 俺と『夕凪の剣』の援護により、シュナの元までは届かせない。


「シュゥ!?」


「いいのか? よそ見してて」


「――!?」 


 俺がそのまま連続でスラッシュを放つと、見事にストーム・ウィングへと命中し、ほんの一瞬とはいえ動きを止めることに成功した。

 そしてその直後、無数の魔力糸がヤツの体を捕える。


 それを見た瞬間、シュナが歓喜の声を上げた。


「やった! 成功したよ、ゼロ――!?」


 だが、その言葉は途中で止まる。

 魔力糸によって拘束されたにもかかわらず、ストーム・ウィングが動き続けていたからだ。

 多少なりとも速度は落ちているものの膂力は健在であり、現在進行形でプツプツと魔力糸が千切られていく。


「そんな! せっかく捕まえたのに……」


 その様子を見て、焦燥の表情を浮かべるシュナたち。

 そんな彼女たちとは裏腹に、俺はにやりと笑った。



(いや、これでいい――マジック・ストリングの真価はここからだ!)

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