第50話 マジック・ストリング

「マジック・ストリング? って名前のスキルみたいだけど……ゼロスは知ってる?」


「………………」


 俺は言葉を失いながらも、シュナが見せてくれたスキルウィンドウを確認する。


――――――――――――――――――――


【マジック・ストリング】Lv.1

 ・魔導のスキル

 ・属性:無

 ・MPを消費することで、無数の魔力糸を生み出し操ることができる。


――――――――――――――――――――


 そこには、前世の記憶通りの説明が書かれていた。


(マジック・ストリングを継承祠グラント・ポイントで獲得するなら、120レベルは必須。それくらい使い勝手のいい、優秀なスキルなわけだが……)


 セイクリッド・エンチャントに続いて、連続でレアスキルを獲得するとは。

 シュナの才能と運に恐れおののく俺とは裏腹に、彼女はどこか要領を得ていないようだった。


「うーん。説明を見た感じ、攻撃系じゃなくて補助系みたいだし、あまりすごくないスキルなのかな?」


「いやいや、すごくないどころか、とんでもない当たりスキルだぞ」


「そうなの!?」


 俺は頷くと、シュナに向かって告げる。


「ものは試しだ。さっそく使ってみたらどうだ?」


「う、うん……マジック・ストリング!」


 唱えた直後、シュナの杖先から数本の魔力糸が出現した。


「とりあえず成功したけど、この後はどうすればいいの?」


「殺傷力はないから、基本的な使い方としては魔物を拘束するくらいだな」


「それだけなら、やっぱり他の攻撃系スキルの方が効果的に感じるけど……」


 シュナが疑問に思うのももっとも。

 だが、マジック・ストリングの真価はこの先にある。


「基本的にはって言っただろ? マジック・ストリングは応用次第で、そのポテンシャルを最大限に発揮できる――具体的にはだ」


「バフ?」


「ああ。魔物じゃなく、自分や味方に纏わせた状態で属性付与を行うと、属性に応じたバフ効果が生まれるんだよ」


 そう。そのバフ効果こそ、マジック・ストリングが多くのプレイヤーに使われていた所以。

 火属性の魔力糸なら筋力上昇、風属性の魔力糸なら速度上昇といった具合に、対象者のステータスを上昇させることができるのだ。

 さらに本人へ使用した時は、強化倍率が上がるといった特徴もある。



(これもまた、『クレオン』が万人に好かれた理由の一つだよな)



 『クレスト・オンライン』はパーティーでの活動はもちろん、ソロでも楽しめるような仕様になっている。

 【剣の紋章】持ちが遠距離攻撃スラッシュを覚えられるように、魔法職も近距離格闘に対応できたりするのだ。


 その際たる例が、このマジック・ストリング。

 自身にありとあらゆる魔力糸を纏わせることで、大幅にステータスを上昇させて戦うことができる。

 シュナの憧れる【魔導の女帝】スカーレットも、よくこのスキルを使用して巨大モンスターをタコ殴りにしていたが……


(……シュナがそうする姿は、ちょっと想像できないな)


 もしくは、俺が想像したくないだけかもしれない。


 何はともあれ、マジック・ストリングは様々な場面で応用が利くレアスキル。

 それをこの段階で獲得できたシュナの才能には惚れ惚れするばかりだ。



 ――と、ここまでの内容について、俺は簡潔にシュナへ説明した(もちろん『クレオン』関連は除いて)。

 するとシュナは、ようやく得心が言ったように頷く。



「そっか。それなら確かにゼロスの言う通り、色々と応用が利きそうだね。ところで火属性や風属性のバフ効果は分かったけど、私の持ってる聖属性や闇属性ならどうなるの?」


「聖属性は、状態異常耐性の向上だな。そして闇属性については、他の属性と少し違っていて――」


 俺が説明を続けようとした、その直後だった。


「助かったぜ、お前ら!」


 『夕凪の剣』のリーダー・ガレスが、満面の笑みで俺たちに話しかけてくる。

 どうやら魔物討伐後の処理が終わったようだ。


 俺とシュナは一旦会話を終え、ガレスに視線を向ける。

 すると彼は、高揚した様子のまま続けた。


「しかし驚いた、まさか二人の若さでこれだけ強い奴がいるなんてな。王都に行くのは、冒険者活動の拠点変更か何かか?」


「いや、実は王立アカデミーの入学試験が迫ってて……彼女は俺の付き添いみたいな感じだ」


「なっ!」


 簡単に事情を説明すると、ガレスは目を丸くする。


「嘘だろ!? アカデミー生が優秀ってのは前々から聞いてたが、入学前からこんなに強いのか……」


「そ、それはゼロスが例外なだけかも……」


 シュナは「あはは」と頬をかきながら、少し困ったようにそう返すのだった。



 数分後。

 いったん話は落ち着き、俺たちは今回の魔物襲撃について振り返ることにした。


 まず、ガレスが不思議そうな表情で口を開く。


「いやー、それにしてもまさか今回の護衛で、今のレベル群に遭遇するなんてな」


「確かに珍しいかもな。この辺りの街道は整備されてるって話だし」


「そうなんだよ。俺たちは何度か護衛依頼を受けてるんだが、こんなパターンは初めてだ。それに魔物たちにしたって、敗勢になっても退こうとしないし……まるで既に何かから逃げてきたような……」


「何かから、逃げてきた……?」


 ――刹那。

 突如として、俺の背筋に悪寒が走った。


(この感覚は……!?)


 ほとんど反射的に、俺は索敵を使用した。

 しかし周囲を確認しても、特に問題は見当たらな――いや、


「全員、上を見ろ!」


「――っ、あれは!?」


 俺の言葉に応じ、シュナと 『夕凪の剣』が同時に顔を上げる。


「シュゥゥゥゥゥゥ」


 そこには一体の巨大な鳥型魔物がいた。

 体長は2メートル程度だろうか、羽を広げると横幅は5メートルにも達し、これでもかと威圧感を放っている。


 俺は咄嗟に魔物のステータスを確認した。


――――――――――――――――――――


【ストーム・ウィング】

 ・討伐推奨レベル:52


――――――――――――――――――――


 レベルを見た瞬間、俺の額に冷や汗が流れる。


「なるほど。こっちが本命か……!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る