第33話 鉄皮熊

 墓地から離れ、シュナと共に馬車の通る街道へと戻る途中。

 俺は改めて、自分のステータスを再確認していた。



――――――――――――――――――――


 ゼロス・シルフィード

 性別:男性

 年齢:15歳

 紋章:【無の紋章】


 レベル:36

 HP:212/360 MP:133/180

 筋 力:66

 持久力:50

 速 度:62

 知 力:36

 幸 運:36

 ステータスポイント:0


 スキル:【パリィ】Lv.2、【スラッシュ】Lv.2、【マジック・アロー】Lv.1、【ダーク・エンチャント】Lv.1、【索敵】Lv.1


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 ダーク・ソーサラー討伐により、レベルが6上がったことでそれなりのステータスに仕上がっている。

 ちなみにシュナに関しては、30から34へとレベルアップしていた。

 ボス戦では俺がダメージディーラーを務めていたため、経験値がこちらに偏ったのだろう。


 そんなことを考えながら帰路についていた、次の瞬間だった。



「きゃああああああああっ!!!」



 突如として、少し離れた距離からそんな叫び声が聞こえてきた。


「ゼロス、今のって……!」


「ああ、向こうから聞こえたな」


 反射的に【索敵】を使おうとするも、咄嗟に止める。

 今のスキルレベルで調べられる範囲はせいぜい数十メートル。これなら直接向かった方が早い。


(ポーションはさっき使ったばかりで、HPやMPはまだ万全じゃないが……だからといって見捨てるわけにはいかない)


 そう考えながらシュナに顔を向ける。

 彼女も同じことを考えていたのだろう、俺と視線がぶつかると、彼女はこくりと頷いた。


「急いで向かおう、シュナ」


「うん!」


 俺たちは声のする方向へと駆け出す。

 森の中に踏み入ると、そこには悲惨な光景が広がっていた。



「くそっ、このままじゃ全滅する!」


「リーダー、どうすれば……」


「誰か、助けて!」



 そこにいたのは一組の冒険者パーティーと、彼らを取り囲む複数の魔物だった。

 『クレオン』でも見覚えのある熊の魔物。

 俺は念のためステータスを確認する。


――――――――――――――――――――


【ハングリー・ベア】

 ・討伐推奨レベル:31


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 予想通り、ハングリー・ベアだ。

 この辺りに出現する魔物としてはレベルが高いが、今の俺たちからすれば相手じゃない。


(けど、妙だな。ハングリー・ベアは別名、【共喰い熊】と呼ばれるほど仲間意識に欠けた魔物で、普通なら単独で行動する習性だ。こんな集団で襲い掛かってくることはないはずなんだが……)


 疑問が浮かび上がるも、時間がない。

 まだ距離はあるが、俺は剣を高く構えた。


「――スラッシュ!」 


 そのまま力強く振り下ろし、連続で【スラッシュ】を放つ。

 青白い斬撃が空を切り裂き、ハングリー・ベアを次々と薙ぎ倒していった。


「キャアアアン!」


「――よし、これでラストだな」


 合わせて五体を討伐し終えた後、俺はパーティーに視線を向ける。

 怪我人は多いが、どうやら致命傷を負った者はいないみたいだ。


 ホッと胸を撫でおろした後、俺はリーダーらしき男性に声をかけた。


「大丈夫か?」


「あ、ああ、なんとか…… 本当にありがとう。君たちが来てくれなかったら、俺たちは全滅していた……」


 リーダーは感謝の言葉を口にしつつ、困惑した表情を浮かべる。


「しかし、あのハングリー・ベアたち……妙に連携が取れていて……普段なら一体でしか出てこないし、それなら俺たちでも対処できるはずだったんだ」


 それを聞いた俺は、顎に手を当てて考え込む


(やはりそうか……これもゲームから現実に変わった影響で、魔物が知力を得たからなのか? それとも――)


 不吉な予感がよぎり、俺は直感的に【索敵】を発動する。

 すると、索敵範囲のギリギリのところで何かが引っかかった。


(これは……!)


 その直後だった。

 あたり一帯に、獰猛な鳴き声が響き渡る。


「ゴオオオオン!」


 その叫びと共に、森の中から一体の巨大な熊が姿を現す。

 全身が鋼鉄のような皮膚で覆われた、とんでもない威圧感を放つ魔物だった。


(コイツが群れを従えていたボスか。ステータスは――)


 小さく唱えると、目の前にウィンドウが出現する。


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鉄皮熊アイアンコート・グリズリー

 ・討伐推奨レベル:46


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「やはり鉄皮熊か。レベルは……46!」


 俺の声に、シュナが驚きの声を上げる。


「え!? それって、ダーク・ソーサラーより強いんじゃ……」


「ああ、わずかだけどな」


 表情を強張らせるシュナ。

 その横で俺は、鉄皮熊を視界に収めつつ思考を早めていた。


(それだけじゃない。レベル以外にも、コイツには厄介な特徴がある)


 鉄皮熊とい名前通り、コイツは鉄のように硬い皮膚を持つ魔物だ。

 防御力が高く、一定以上の火力がなければダメージを与えられない。

 ダーク・ソーサラーの時のような特殊ギミックはないが、代わりに分かりやすい攻略法も存在せず、普遍的な強さを有しているというわけである。


 ただ鉄の肉体が影響してか、獣型の魔物としては動きが遅い。

 俺とシュナだけなら、逃げること自体は簡単だろう。


 だが……俺は背後に控える、パーティーの面々を肩越しに見た。


(怪我を負った彼らを置いていくわけにはいかない)


 問題は討伐方法だ。

 仮に俺が会心の斬撃を放っても、コイツにはほとんどダメージを与えられない。

 もし倒すなら、防御力を突破する高火力の攻撃で仕留める必要がある。


 俺は決意を固め、シュナに向かって叫ぶ。


「シュナ、MPはどれくらい残ってる!?」


「えっと…… マジック・ミサイルが二発撃てるくらい! 属性付与するなら、一発が限界だよ!」


 それを聞いた俺は、わずかに顔をしかめた。


(闇属性を付与したダーク・ミサイルを二発撃てば倒せるかもしれないが、それは難しいみたいだな。となるともう、方法はしか残って……)


 俺は一瞬だけ考え込んだあと、ある決断を下した。

 そして真剣な眼差しで、シュナに向かって告げる。



「アイツを倒すにはシュナの力が必要だ。協力してくれるか?」


「うん、もちろん! 何をすればいいの?」



 俺はシュナにを伝えた後、時間を稼ぐべく鉄皮熊に向かって駆け出すのだった。

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