第31話 剣の帝王

『キキキキキッ』


 【冥鎖闇球めいさあんきゅう】の発動準備を終えるダーク・ソーサラー。

 ヤツは現在、霊力開放状態であり、魔法の火力が30%近く上昇している。

 そのためパリィでは弾くことができず、その結果がさっきの惨状に繋がった。

 このままだと、ただ為すすべなくやられるしかない――


(いや、まだ手はある)


 俺は剣を握りながら、を再確認する。


――――――――――――――――――――


【パリィ】Lv.2

 ・剣のスキル

 ・タイミングよく斬撃を当てることで、敵の攻撃を弾くことができる。


――――――――――――――――――――


【スラッシュ】Lv.2

 ・剣のスキル

 ・MPを消費することで、斬撃を飛ばすことができる。

  限られた時間内に魔力を注ぐことにより、会心の斬撃が発生し威力が33%上昇する。

 (スキルレベルが上がったことにより、30%→33%に上昇)


――――――――――――――――――――


 敵の攻撃を弾くためのスキル【パリィ】と、会心斬撃を発生させることで威力を上昇させられるスラッシュ。

 パリィ単体では敵の魔法を弾くことはできず、スラッシュ単体でも先ほどのシュナのように相殺とはいかない。

 だが――まだ一つだけ、残された可能性が存在していた。


『キキィィィイイイイイ!』


「くるよ、ゼロス!」


 放たれる無数の魔弾。

 空に数多の軌道を描きながら、俺たちの元に迫ってくる。

 絶望的な攻撃の雨を前にし、俺はふぅと息を吐いた。




 ――――始まりは、だった。




 それは本来、運営すら想定していなかった現象。


 自身の斬撃により敵の攻撃を弾くスキル、パリィ。

 そして、空飛ぶ斬撃を放つためのスキル、スラッシュ。


 それぞれに共通するのは斬撃というワードであり、ゲーム内システムとしては同じ変数で処理されていた。

 すなわち、スラッシュによって放たれた斬撃でもパリィは可能なのだ。


 もっとも、ごく少数のトッププレイヤーを除き、その技を発動できる存在はいなかった。

 ただ手元に飛んできた魔法を弾くだけでも、難易度は驚くほど高いのだ。

 それを空飛ぶ斬撃で発動するなど、どれだけ荒唐無稽なことか説明するまでもないだろう。


 それでも、多くのプレイヤーはその技に挑んだ。

 その技には大きな可能性メリットが秘められていたからだ。


(メリットはただ、着弾前の魔法を斬り落とせるだけじゃない。仮に会心の斬撃を放つことができれば、通常のパリィでは対処できない攻撃も弾くことができる)


 ヤツの冥鎖闇球めいさあんきゅうの威力上昇幅は約30%。

 そして、会心斬撃による威力上昇幅は33%。


 ――全ての条件は揃っている。


 が初めて見つかった時、運営は対処を試み、すぐに止めた。

 その発生条件があまりにもシビアであり、狙って確実に繰り出せるようなものではなかったからだ。

 ゲームバランスを崩壊させるほどの要素ではなく、であるならば博打技として残すのも手だと考えたのだろう。


 発動できるのはせいぜい、トッププレイヤーの1%程度。

 さらに平均成功率に至っては、10%を切るほどだった。


(【スラッシュ】×【パリィ】――)


 発動確率は極小で、まさに空を断ち切るような絵空事でしかなく。

 その性質になぞらえ、この技はこう呼ばれていた。




「――――【かすみとし】」




 放たれる会心の斬撃。

 それは一つ目の冥鎖闇球に触れた瞬間、俺たちとは異なる方向へと弾き飛ばした。


『………………キィ?』


 何が起きたか理解できないとばかりに、ダーク・ソーサラーは間抜けな声を漏らす。

 どうやら知力を得た影響がリアクションにも現れているらしい。


「まだだ」


 そんなヤツを無視し、俺は次々と会心の斬撃を放つ。

 その全てが、見事に闇の魔弾を斬り落としていった。



 【かすみとし】

 それはパリィとスラッシュを掛け合わせることで発動できる必殺技。

 前世の俺ですら、発動確率は5割に満たなかった。

 九回連続で成功させるなど、どう考えても不可能であることが分かるだろう。



 しかしそんな奇跡のような技を、俺は次々成功させていた。

 どれだけの数の魔法が放たれようと、失敗しない自信があった。


 なぜなら、


(ここは現実。得られる情報量が、ゲームとは比べ物にならないほど多い)


 今もそうだ。

 ダーク・ソーサラーの動揺はもちろん、冥鎖闇球の動きが残像まで含めてはっきりと見える。

 鼻腔をくすぐる死地の香りが、集中力を限界まで高める。

 空気の揺れを肌が感じ、自分の鼓動の音を耳が捉える。


 現実ここには全ての情報が揃っている。

 未来で何が起きるのかも、ダーク・ソーサラーが何を考えているのかも、手に取るようにはっきりと分かった。


「す、すごい……」


 背後から、シュナの驚くような声が聞こえる。

 そんな反応になるのも仕方ないだろう。

 なにせこれは、【剣の帝王】と称された『ゼロニティかつての俺』ですら再現不可能な神業。

 それを俺は立て続けに成功させていた。


 そしてとうとう、最後の一個を斬り落とすことに成功する。


 ――もう、合図はいらなかった。


「セイクリッド・ミサイル!」


『キィッ!?!?!?』


 シュナが放った眩い光弾が、【闇纏あんてん】を粉々に破壊する。

 ダーク・ソーサラーは慌てて魔力障壁を張り直そうとするも成功しなかった。

 一時的に魔力をうまく操れなくなっているのだ。恐らく、限界を超えた魔力行使の代償だろう。


 俺は剣を高く構えながら、動揺するダーク・ソーサラーに向かって告げる。


「欲張りすぎたな。お前にはもう、身を守るための手段すら存在しない」


『キ、キィィィ!』


 待ってくれと懇願するように声を上げるダーク・ソーサラー。

 俺はヤツの声を無視し、力強く剣を振り下ろす。



「これで終わりだ――【スラッシュ・七連咲しちれんざき】」



 高速で放たれた七振りの斬撃が、空を駆けてダーク・ソーサラーに迫る。

 もはや奴には、防ぐことも躱すこともできなかった。

 七振りの斬撃は全てダーク・ソーサラーに命中し、その体力を完全に削り取る。


『キ、キァァァァァ……』


 残されたのは、ダーク・ソーサラーの断末魔の声のみ。

 ヤツの体は黒色の瘴気となって消え失せていく。


 そして、



『経験値獲得 レベルが6アップしました』

『ステータスポイントを12獲得しました』



 鳴り響くシステム音。

 それは確かに、俺たちがダーク・ソーサラーを討伐した証明でもあった。


 俺はゆっくりとシュナに振り返り、笑顔で告げる。


「勝ったぞ、シュナ」


「……うん、ゼロス!」


 少しの無言のあと、シュナも満面の笑みで頷く。



 かくして、俺とシュナはダーク・ソーサラーとの激闘に勝利したのだった。



――――――――――――――――――――――――――――


激闘決着。

今の私に表現できる『面白い』を全てぶつけました。

少しでも皆様に楽しんでいただけたなら作者冥利に尽きます。

次回は報酬回です。乞うご期待!


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