第25話 墓穴狩り
その後、俺とシュナは素早く広間まで移動した。
さすがに一本道の通路で挟まれると面倒なことになるからだ。
たどり着いた広間は小さく、所々に大きな窪みが存在している。
一度落ちると抜け出すのに手間取る程度には深く、さらに数も多いため足を取られないよう気を付けて戦う必要がある非常に厄介な
だが、今回はこの環境が俺たちの味方になってくれる。
と、分析していた直後だった。
さっそく第一陣が登場する。
先に到着したのは前方からやってくる五体の群れだった。
全員が同一種類であり、鉛によって構成された体と装備が特徴的な背丈の小さいアンデッドたちだ。
――――――――――――――――――――
【
・討伐推奨レベル:31
――――――――――――――――――――
アンレッドソルジャー。
不死者を意味する「アンデッド」と、鉛を意味する「レッド」を組み合わせた名前となっている。
五体のうち最も強い個体のレベルは31で、それ以外は28~30。
それなりにダンジョンの奥へと進んできたこともあり、登場する魔物の強さも上がってきているようだ。
だが、この程度なら全く問題ない。
俺は肩越しにシュナへと指示を出す。
「シュナ、基本的には俺を挟んで魔物と反対側に待機してくれ。それでも襲われそうなときは、窪みを飛び越えて壁際に逃げるんだ」
「分かった。そこから隙を見て魔法を撃てばいいんだね?」
「いや、魔法はまだいい」
「……え?」
困惑の声を漏らすシュナ。
すると、そのタイミングで先頭にいるアンレッドソルジャーが斬りかかってくる。
「ギギィィィ!」
重々しい体とは裏腹に、動きは先ほどのチェインドスケルトンより速い。
とはいえ、所詮はアンデッド。レベルの割には遅く、対応するのが難しいほどではない。
躱すだけなら、それこそシュナでも可能だろう。
だが俺は、あえて回避することなく剣で迎え撃った。
「パリィ」
「――ギィ!?」
タイミングを見計らい、アンレッドソルジャーの攻撃を弾いた。
それも、ただ弾くだけではない。
衝撃をアンレッドソルジャーにそのまま返すことで、ヤツの体を別方向へと弾き飛ばした。
その結果――
「ギ、ギギィ!?」
窪みに嵌ったアンレッドソルジャーが、もがきながら怒りの感情をぶつけてくる。
俺はそれを見て小さく笑った。
「まず、一体」
そして視線を残る四体に戻す。
そんな俺に対し、シュナは叫んだ。
「視線を外していいの? 後ろから狙われるんじゃ――」
「問題ない。ほら、よく観察してみろ」
「え? ……あっ」
背後からシュナの納得したような声が聞こえた。
彼女も気付いたのだろう。窪みは俺たちなら飛び越えられるが、背丈が1メートル20センチ程のアンレッドソルジャーでは難しい。
その重々しい体も相まって、どうもがいても抜け出すことができないのだ。
そう。これこそがこの広間における特殊な攻略法の正体。
このダンジョン【冥府の霊廟】に登場するアンデッドは動きが遅く、代わりに頑丈な魔物がほとんど。
さらに、その中には背丈が低く、上方向への動きが苦手な種類が複数いるのだ。ちなみにアンレッドソルジャーもそのうちの一種類である。
ソイツらを窪みに落とした後、身動き取れなくなっているところを魔法で一網打尽にするという攻略法が、クレオンでは定番だった。
その名も『
ここが墓地の地下にあること。相手がアンデッドなこと、そして窪みに嵌めて倒すこと。
それらの理由からつけられたユニークな作戦名である。
何はともあれまとめると、コイツらを全て窪みに落とすことができれば、それだけで勝利が決まるということだ。
「ギギィ!?」
「ギガガガガ」
残されたアンレッドソルジャーたちは今の光景を見て、自分たちも落下しないよう警戒の色を強める。
だが、無駄だ。パリィ以外にも、叩き落とすための手段はある。
「スラッシュ!」
「――ギッッッ!?!?!?」
窪みのそばを進んでいたアンレッドソルジャーの側面に、飛ぶ斬撃を叩きつける。
それだけで討伐することはできないが、敵の体を押し出し、窪みに落とすことには成功した。
「これで二体目だ。どんどんいくぞ」
その後もパリィとスラッシュを駆使し、残る三体を窪みに落とす。
結果的に、反対側から迫っている二体が到着するよりも前に、五体全ての対応が完了した。
「さて、問題はここからだな」
あとはシュナにセイクリッド・ミサイルを撃ってもらうだけだが、MP効率を考えれば残る二体が来てからでもいいかもしれない。
そう思った俺の耳に、シュナの声が飛び込んでくる。
「ぜ、ゼロス! 早く倒さなくていいの!?」
見ると、そこではアンレッドソルジャーが仲間を踏み台にし、外に這い上がろうとしていた。
なるほど。自分一人では登れないと見て、仲間を利用することにしたのか。
これはゲームでは見られなかった動きだ。
ただ、
「ふんっ」
「ギィ!?」
軽く足で蹴り出し、再び窪みの底に沈める。
この分なら、とりあえず先に片付けておいた方が良さそうだ。
「シュナ、セイクリッド・ミサイルを頼む。できるだけ全員を巻き込むようにな」
「わかった――セイクリッド・ミサイル!」
純白の光砲が、窪みに着弾する。
過剰気味な火力を持つその魔法は、一体に留まらず複数のアンレッドソルジャーを巻き込んだ。
その結果、三体はそのまま討伐完了。残り二体は息こそ残っていたが、かなり弱っていたため俺が剣でトドメを刺した。
こうして、俺たちは五体のアンレッドソルジャーを殲滅するのだった。
すると、そのほんの数秒後――
「ギィ?」
「……ギガァ?」
残る二体のアンレッドソルジャーが到着する。
けれど、今の俺たちからしたらお手軽な経験値にしか見えなかった。
「それじゃ、あっちも手早く討伐するか」
「あ、あはは……何だか少し、罪悪感があるような……」
申し訳なさそうなシュナだったが、その後も遠慮なくセイクリッド・ミサイルを放っていた。その辺りの線引きはしっかりとしているらしい。
結果、俺たちは今回の戦いで見事、レベル30に到達するのだった。
『経験値獲得 レベルが3アップしました』
『ステータスポイントを6獲得しました』
『【パリィ】の熟練度が一定数値を突破しました』
『Lv.1→Lv.2に上昇します』
『【スラッシュ】の熟練度が一定数値を突破しました』
『Lv.1→Lv.2に上昇します』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます