第17話 【飛鳥落勢】

 ダンジョン【飛鳥落勢ひちょうらくせい】に入った俺は、さっそく探索を始める。

 その名の通り、内部には鳥系の魔物が多く飛び交っていた。


「キィー!」「シャー!」


「っと、さっそくか」


 そして入って早々、二体の魔物が俺に襲い掛かってきた。


――――――――――――――――――――


【ビークバード】

 ・討伐推奨レベル:11


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【ハングリーバード】

 ・討伐推奨レベル:13


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 どちらとも飛行型であり、接近用の武器を扱うプレイヤーにとって、通常であればかなり厄介な魔物と言えるだろう。

 だが、現実はそうでもなかった。

 というのも、このダンジョンは飛行系魔物が多く生息する割には通路が狭く、天井も低い。

 魔物たちは真正面から突っ込んでくるくらいしかできず、対応は容易だった。


「まあ、複数体で一気に襲って来られたら厄介ではあるんだが……」


 何はともあれ、俺の敵ではない。


「はあッ!」


「ピィー!?」「シャー!?」


 俺は迫ってくる魔物を倒すと、楽々と迷宮内を進み続ける。

 目的地は当然、これまでと同じようにボス部屋――ではない。


 というのもだ。

 そもそも継承祠グラント・ポイントの解放条件は、驚くほど多岐にわたる。

 これまでのように特定条件を達成してボスを倒すパターンもあれば、他にも様々なギミックをクリアするというパターンがある。

 その点、このダンジョンの仕組みは後者だった。


「っと、ここか」


 探索を始めること30分。

 行き止まりに辿り着いた俺は、壁の一部だけ僅かに色が違うことに気付く。


 そこに左手を当てながら、小さく呟いた。


「"魔力の潮流よ、我が資質を試せ。今こそ叡智の扉が開かれんことを"」


 そう唱えた直後だった。



『キーワードを確認しました』

『紋章名:【無の紋章】を確認しました』

『条件を満たしています。試練の扉が解放されます』 



 システム音が鳴り響き、壁が扉に変化する。


「よし、成功だ」


 見ての通り、これは隠し扉。

 先には試練が待ち構えており、それを達成することでスキルを得られるのだ。

 【新兵の鍛錬所】などとは異なり、そもそもギミックやキーワードを知らなければ挑戦できない仕様となっている。


 俺は扉を開け中に入る。

 すると、ダンジョン内にも関わらず頭上から陽光が照ってきた。


「……眩しいな」


 見上げると、そこには青空が広がっていた。

 それだけでなく大量の鳥型魔物が飛んでいる。


――――――――――――――――――――


【ファイアバード】

 ・討伐推奨レベル:16


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【ウィンドバード】

 ・討伐推奨レベル:15


――――――――――――――――――――


【フリーズバード】

 ・討伐推奨レベル:16


――――――――――――――――――――


 見ての通り、その全てが魔法を扱うことができ、試練と言うこともあり道中の魔物よりレベルが高い。

 そう分析していると、再びシステム音が鳴り響く。



『挑戦者の入場を確認しました』

『魔導の試練【飛鳥落勢ひちょうらくせい】を開始します』

『挑戦者は飛行する魔物を全滅させてください』



 アナウンスが鳴り終えた直後だった。

 魔物たちは魔法を発動し、遥か頭上から攻撃を仕掛けてくる。


「おっと」


 それを躱しながら、俺は頭上に視線を向ける。

 そしてこの試練のギミック及び、クレオンにおける【魔導の紋章】の扱いを思い出していた。


 【魔導の紋章】。

 その名の通り、数多の魔法スキルを扱うことのできる紋章だ。

 火力が出せるだけでなく汎用性も高く、クレオンでも非常に人気な紋章だった。


 そんな【魔導の紋章】だが、初期スキルでは三つのスキルのうち、ランダムで一つが与えられることになっている。

 その三つを羅列すると、



 【マジック・アロー】:速射性とMP効率に優れている。威力は低い。

 【マジック・ボール】:速射性、威力、MP効率ともに程々なバランスタイプ。

 【マジック・ミサイル】:威力に優れている。速射性とMP効率は低い。



 どれも一長一短の性能であり、序盤はMP効率のいい【マジック・アロー】が、後半になるにつれて火力の出る【マジック・ミサイル】が好まれる傾向にあった。


 とはいえ、効率的に攻略を進める上で、全てを揃えておくに越したことはない。

 そのため、【魔導の紋章】を選択したプレイヤーはまず、残る二つのスキルを習得できる継承祠グラント・ポイントを巡回するのが定番だった。


 そしてこのダンジョンでは、その三つのうち【マジック・アロー】を獲得できる。

 試練内容は頭上に浮かぶ鳥たちを全滅させることであり、必然的に長距離まで届く魔法スキルが必須となる。

 現時点で、まだ魔法を一つも使えない俺からしたら達成不可能な試練に思えるだろう。


 ――だが、それは違う。


「今の俺には、このスキルがあるからな――スラッシュ!」


「キィー!?」


 空を飛ぶ斬撃が、見事に一体の魔物を両断する。


 そう。魔法スキルがなくとも、空飛ぶ斬撃ならこの試練を達成できるのだ。


「手応えは抜群だな」


 俺はにっと笑みを零した後、続けて幾つも斬撃を放っていくのだった。

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