第25話 純血の人族
「それから一年後に、ユーゴとトーマスに出会ったの。これが私の過去。この里ではレンズを外しても良いのは分かってる。でも、この青い眼を見られるとトラウマが蘇るの……」
皆が静まり返っている。
エミリーは明るい笑顔の裏に、暗い過去を隠していた。すぐに口を開く者はいなかった。
「里長さん、奥様! 私は強くなりたいんです! アレクサンドをぶっ飛ばしてやりたい!」
里長は閉じていた目を見開き、口を開いた。
「エミリーよ、お主は人として十分強い。戦闘の強さに関しては儂等に任せよ。必ず強くしてやる」
「エミリー、もっと強くなろう」
「僕も足手まといにはなりたくないな」
「うん! 修行頑張るよ! 二人に過去を話せて良かったよ。心のつっかえが取れた感じがする」
「メイファ、ヤンガス。お主らはどう思う。こやつらは信頼出来るか?」
里長は後ろに立つ二人に、振り向くことなく問いかけた。
「エミリーはもはや私の家族です」
「トーマスはうちの自慢の弟子だ。俺の全てを叩き込みますよ」
――打ち明けるのか? 今まで誰にも伝えなかった事を。
「トーマス、エミリー。お主らはこの里は好きか?」
「もちろんです」
「すっごく楽しいよ!」
「では、この里の有事の際はお主らの力を貸してくれるか?」
「僕は親方の弟子です、当然です」
「私は奥様を尊敬してる。本当の娘のように接してくれてる。私はこの里に恩返しをしなくちゃいけない」
「良し、お主ら今から言うことは里外で口外せぬように」
「「はい!」」
「儂の名は『龍王』クリカラ・フェイロックだ。そしてユーゴは龍族と人族の子、即ち『龍人』だ」
里長はこの世界と里の歴史を二人に語った。
二人は全く予想もしていなかった話に言葉を失った。
◇◇◇
「いやぁ、衝撃だったよ……」
「ほんと、エミリーが『
ユーゴも里長の話を聞いたときにドッと疲れた事を思い出す。
「ユーゴが龍人、エミリーが仙人でしょ? 二人は長く生きるけど、僕はどんどん年老いて置いて行かれちゃうね……」
トーマスが肩を落とし項垂れた。
二人に実感は無いが、始祖四種族の血が流れてるという事は相当生きるらしかった。
「いや、そんな事ぁ分からねぇぞ?」
ヤンガスはトーマスを初日から見ている。自身の見解を話し始めた。
「トーマス、お前ぇは純血の人族なんだろ?」
「はい、それは間違いありません」
「だとしたら、お前ぇのその魔力の量は説明がつかねぇんだよ」
里長とメイファも感じている事だったらしいが、当然トーマスを含め三人にはどういう事か分からない。同時に首を傾げてヤンガスに目を向けた。
「うむ、お主の潜在的な能力は人族のそれではない。人族の平均値の倍はゆうに超えておるのだ。心当たりはないか?」
トーマスが顎に手を当てて考える。
「関係あるのかどうか分かりませんが……」と、トーマスは何かを思い出し話し始めた。
「僕は、母さんのお腹の中では元々双子だったらしいんです。母さんはあまりにもお腹が大きいから双子かもしれないって思って、その準備をしていたそうです。でも、出産時期が近づくとお腹が少しずつ小さくなりはじめたそうなんです。で、僕が産まれてきたのですが、僕の脇に抱かれて凄く小さい子供が一緒に出てきたそうです。その子は最初は生きていたのですが、すぐに息を引き取ったと聞かされました」
メイファは医術に精通している。トーマスの話から医術的見解を纏めた。
「双子の片割れが消失する事例はある。そういう場合は、母親の胎内に吸収されることが多いが。もしかしたらその子の命の危険か何かで、トーマスに全てを受け渡したのかもな」
「なるほど、だとしたら普通の人族の倍以上ってのも頷ける」
あくまでも予想でしかないが、事実トーマスの魔力量は多いらしい。大きく外れた話ではないだろう。
「だとしたら、僕は一人じゃないんだ……兄弟で一緒に戦ってるんだ……」
「仙人とは仙族と人族の子だけではない。いや、寧ろそんな事例はほぼ無い」
「他にもあるんですか?」
「ほとんどが、才能ある人族が極限まで鍛錬することによる、仙人への
「故に、トーマスは仙人に昇化する可能性は大いにある。ウェザブール王都の騎士などは仙人が多いのであろう?」
「さあ? 私ほとんど王都にいなかったからね……すぐに出ちゃったからさ」
「あと言えることは、何も魔力量だけで寿命が決まる訳ではない。そうなれば魔族が一番の長寿種族になる。が、実際はそうではない。魔力、気力の量や質、各個体差にも大きく左右される。後は、稀に得る特異な能力も関係すると言われておる」
「とにかくだ、お前ぇは鍛錬次第で仙人になれるかもって話だ。刀と一緒だよ、素材が良いと打てば打つほど強くなる」
「なるほど、オレはいつまでもこの二人と一緒に戦いたい。頑張ります」
トーマスの目に光が灯った。
◇◇◇
お昼時になり、メイファが予め予約しておいてくれた弁当に舌鼓を打つ。
この里の文化や言葉は独特だ。ユーゴが今まで習得してきた魔法や技とは名前が異質だ。
この国で育ったシュエンが何故、ユーゴに練気術や遁術を教えなかったのかは里長が疑問に感じた点だが、ユーゴにもその疑問が大きくなってきた。明らかにこれらを先に習得すべきだった。いや、強くなるのにそれが近道だった。しかし、シュエンはそれをしなかった。そこに何か意味があったのかは本人にしか分からない。
考えても分からない。会った時に問えばいい。
「良し、午前は雑談が過ぎたな。午後は予定通り次の段階に進もう」
「はい!」
昼食を終えた三人は元気よく返事をした。
「エミリーは治療術を習得した、他二人は武具に練気を纏うことができた。次は交代するがよい」
「オレ達が治療術を習得しろということですか?」
「私が武器に? 二人が治療術出来ちゃったら、私いらない子にならないですか?」
「心配するな、攻撃や防御中に治療術など使えん。それに、お前が戦闘不能になったら誰がこいつらを治療する? お前は誰に治療してもらう?」
「あっ……」
エミリーはメイファの言葉を理解し、声を漏らした。
「分かったか? トーマスが戦闘不能になっても、お前ら自身が防御出来なければ全滅だ。ユーゴが居なくても、お前らだけで敵を倒さないとこれも全滅だ」
「各自が何でもできる戦士になれって事ですね!」
「そういうことだ。おい、ヤンガス」
メイファに呼ばれ、ヤンガスは腰に差していた刀を鞘ごと抜いた。
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