第4話

 マンモスの長鼻をララクが受け止め、彼が反撃に移行しようとした時だった。


 攻撃を止められ、憤怒しているマンモスがさらに追加で攻撃を仕掛けてきた。

 鼻をがっちりと掴まれ、突進の勢いを殺され身動きが取れない状況にある。が、この状態でもマンモスは攻撃を仕掛けることの出来る武器を持っていた。


 それは、鼻の根元から生えた黄ばんだ2つの牙である。湾曲したその牙の先を、ララクに向かって突き刺そうとしてきた。


「そうくると思ったよ。【シールドクリエイト・ハード】!」


 マンモスの行動をララクは読み切っていた。彼は流れるように、スキルを発動した。これは、かつての仲間・盾創りのガンジウが愛用する【シールドクリエイト】に【耐久値強化】を合わせた複合スキルだ。


 魔力を消費して、頑丈な盾を創り出すことが可能。


 ララクとマンモスの牙の間に、魔力が集合する。そしてそれは金色に輝き、盾へと変換されていく。

 創り出したの黄金の盾。牙を受け止めれるだけなので、サイズはそこまで大きくない。盾は地面に突き刺さり、その場に固定。

 するとそこに、マンモスの牙が衝突する。


「ブォオオオ!?」


 しかし「カキン」っと音を鳴らすだけで、黄金の盾に牙が突き刺さることはなかった。少し金が剥がれ落ちただけで、盾に損傷はほとんどない。


「よし、防御成功」


 ララクは無事スキルが発動したことを確認すると、かつての仲間・盾創りのガンジウの言葉を思い出していた。


『発火する盾とか、色んな盾を創り出せるけど、やっぱり肝心なのは硬さ。硬ければいいんだよ、自分や仲間を守れるほどにさ』


 その気になれば、マンモス以上の大きさを誇る盾も作り出せる【シールドクリエイト】。しかし、その分魔力消費が激しくなり、防御力が下がってしまう。

 ララクは彼の言葉に沿って、必要十分な最適のシールドを創り出したのだ。


「次は、ボクの番だ」


 ララクはマンモスの鼻を握った状態で、くるっとその場で半回転して見せる。マンモスに背を向けて、仲間であるゼマの方を向いた状態になった。


 そして握ったマンモスの鼻を、よりいっそう強く握り始めて、腕を前に持ってくる。


「ブオォオオオオ!?」


 すると少しずつマンモスの体がララクの方へと引きずられ始める。マンモスは大地を強く蹴って抵抗するが、若干体が起き始める。


「ら、ララクまさか!?」


 ゼマはマンモスと力比べをするララクに驚愕していた。明らかにララクの方が生物としてひ弱に思えるが、彼はマンモスを持ち上げようとしているのだ。


「ぜ、ゼマさん! 危ないですからね!」


 ララクは全身に力を入れ、特に腕の筋肉と腰に意識を集中する。

 彼の肉体は、スキルによって大幅に強化されている。その力を持ってすれば、マンモスを持つことも可能かもしれない。けれどそれでも、敵は岩石のような体と重さを持っている。そんな怪物を引っ張ることなど容易ではない。


 ララクは再び、かつての仲間の1人の事を思い出していた。

 それは、モンスターを投げることに命を懸けた女性・コマドリィだった。細身な体をしているが、自分よりも大きなモンスターを次々と投げ飛ばしていた。


(こ、コマドリィさんは言ってた。相手を投げ飛ばすイメージが大事だって。どんなに相手が大きかろうが、イメージされ出来れば。

 あとは、スキルが……!)


 ララクはコマドリィがモンスターを投げる姿を思い出し、自分をそこに照らし合わせる。そして彼女が最も得意としたスキルを発動していく。


「【ごく・一本背負い】!!」


 次の瞬間、ララクは驚異的な力を発揮した。彼はマンモスの太い鼻を掴みながら、全身の力を使ってマンモスを背負い投げにかけた。


 マンモスの巨大な体が宙に舞い上がった。その瞬間、時間が止まったかのように周囲が静まり返った。マンモスの毛皮が陽光を受けてキラキラと輝き、巨大な牙が空中で一瞬の閃光を放った。地面から離れたその巨体が、重力を無視して宙に浮かぶ光景は、まるで夢のようだった。


 マンモスの驚愕の表情が、彼の巨大な目に浮かんだ。風が静かに吹き抜け、葉がサラサラと揺れる音が一瞬だけ聞こえた。次の瞬間、マンモスの体が重力に引かれて急降下し、地面に叩きつけられた。大地が再び揺れ、周囲の木々がざわめき、落ち葉が舞い上がった。ララクは一瞬の静寂の中で立ち尽くし、彼の小さな体から放たれる大きな力がジャングル全体に伝わった。


「……ふぅ、やれちゃいましたね」


 投げ飛ばしたララクも、自分の力に驚いていた。過去の弱小ヒーラーだった時とは比べものにならないほどの圧倒的な戦闘能力。


 彼の前には、頭を強く打ったマンモスが倒れている。たったの一撃だが、それだけでも相手に相当な大ダメージを当てたはずだ。


「……あんた、規格外すぎ」


 仲間のゼマは空いた口がふさがらず、これが現実の事なのか疑いたくなった。レベルアップなどで見た目以上の力を得る事ができる世界だが、それにしてもこれは絵空事のような攻撃だった。


「誉め言葉として受け取っておきます。それじゃあ、止めを……」


 ララクは先程創り出した黄金の盾を消滅させて、何か武器を創ってマンモスの息の根を止めようとした。本当はどこか遠くに移動させて、村の安全を守ってこの場を収めたい。が、もうすでにマンモスはここを縄張りにして戻ってくるかもしれない。ので、ララクはその命を奪う決心をした。


 ララクは半歩、マンモスに近づいた。


 すると、閉じていたマンモスの小さな瞼が、「カッ」と開いた。敵にはまだ、戦う意思が眠っていたのだ。

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