第五十話 アメリカの反撃 2
アメリカがこれだけの戦力を太平洋に送ったのもある意味では選挙が関係していた。
ルーズベルトは1940年の選挙で欧州の戦争に参戦しないという公約を掲げて選挙での再選を果たしていた。しかしそれから一年もたたずして彼はドイツと日本に対して宣戦布告をしていたのだ。国民からの突き上げと熱狂があったとはいえ公約を守ることができなかったという事実は常に彼に付き纏っていた。
そして1942年には中間選挙が行われるが、それで民主党が議席を減らせばルーズベルトの大統領としての基盤が怪しくなりかねない。
そして現状で彼の支持率は戦争の失敗から下落傾向にあった。
早くも1942年で民主党が負ける兆しが出ており、民主党議員からもルーズベルトは突き上げを受けていた。
それ故に彼は遅くとも1942年までには対独、対日戦争のいずれかで何かしらの形で勝利を納めなければならなかった。
しかしドイツへの反抗作戦はUボートによる通商破壊とイギリス支援の負担で頓挫しており、そのイギリスも一息どころか1941年の8月から発生した第二次バトルオブブリテンで敗北寸前だった。
辛うじてアメリカが送り込んでくる物資で持ち堪えているに過ぎなかった。
それでも船舶による物資の輸入量は開戦前の6割にまで減少している。既に国民の多くは食糧不足と燃料不足で冬が越せない状況にまで追い詰められていた。
アメリカとしても放っておくわけには行かないものの、現状戦闘機を送り込むにしてもUボートの攻撃で港に着くのは送り出した時の半分程度。さらにあまりにも短期間で護衛の艦を含めて船を沈められてしまったために駆逐艦を操る海兵の数が絶対的に不足していた。
兵の練度低下も深刻でありそれがUボートの攻撃激化に学者をかけていた。
さらにイギリスの窮地に地中海ではイタリア海軍が動きを活発化させついには地中海からイギリス艦隊を追い出してしまった。
もはや後がないイギリスはオーストラリアの単独講和もあり連合軍の離脱すら考慮しなければならなかった。
そうした状況だからかルーズベルトは連合軍への希望を与えるという大義名分を持って太平洋での勝利を収めようとしたのだ。
ある種の黄色人種への偏見もあったが、ドイツよりも日本の方が叩きやすいし士気を上げやすいだろうという思惑があったのだった。
かくして南米大陸を回ってやって来た多数の主力艦艇はそのままサンティエゴやシアトルと言った西海岸の主要施設で整備を受けていた。
なんとか年末前には全艦が作戦行動が可能になるはずだった。
しかしニミッツには不安が残っていた。
確かに大西洋に配備していた主力艦は殆どが出撃せず乗員の引き抜きも行っていないから士気も練度も維持していた。だが送り込まれてくる駆逐艦や軽巡洋艦は大西洋でのUボートとの戦闘で殆どが徴兵されて来た者で構成されていた。
そんな素人集団で運用されているせいか練度も士気も問題があった。
作戦開始までの四ヶ月でどこまで彼らを仕上げられるかが鍵となるはずだったのだが、太平洋艦隊にはその余裕があまりなかった。
太平洋もまた日本の伊号によって西海岸周辺でも通商破壊が活発化しており護衛艦艇は不足気味だった。
そのせいもあってか大西洋から送られて来た駆逐艦達も整備をどきどきに練度不足のまま実戦に配備せざるおえなかった。
そして損害を受けるにも彼らからだった。
魚雷発射官が開く音や魚雷の音、潜水艦の音を聞く専門職の聴音員が数ヶ月で育つわけがないのだ。その他にも艦は動かすのに専門の知識や技術が山ほど必要となる。徴兵で集められた兵が三ヶ月も経たない程度の訓練で操れるようなものではなかったのだ。
そして練度の差は動きにも現れ、それを知ってかしらずか日本の潜水艦は練度不足の船を集中的に狙う傾向があった。
それでもニミッツはできるだけのことをして体制を立て直そうとした。占領したハワイにもタンカーや工作船を大量に運び込み、11月までには真珠湾の軍港機能を回復させていた。ようやく使えるようになったハワイに戦艦を含む艦隊を進撃させ日本に対する牽制を行い始めてからはようやく西海岸での潜水艦の活動は落ち着いて来た。
それでもルーズベルトは日本との対決に勝利する事を彼に課した。
その内容もまた過激なものだった。
オペレーショントーチ。それがニミッツの頭を悩ませていた。
まだマリアナ諸島に進撃し日本の主力艦と海戦を行う方が現実的と言えるようなものだった。
だがその作戦指示書を持って来た合衆国艦隊司令長官であるアーネスト・J・キング大将はニミッツに無情にも作戦を遂行するべきだと説得した。
「このような作戦に兵を無駄死にさせるわけには行かないだろう。大体中部太平洋には奴らの哨戒線が敷かれているんだ。見つかるに困っている」
「そうとも限らない。特にアリューシャン列島方面は七月の攻撃以降日本軍の動きは見られない。北側を迂回するように進めば見つかる可能性は低くなるはずだ」
そして哨戒線も日本の暗号がある程度解読されている今なら警戒の薄くなりタイミングを狙って突破することも不可能ではないとキングは言った。
「しかしそのような航路は冬は荒れます。航行するだけでも危険すぎます」
「もとより戦争は危険と隣り合わせだ。私も軍事的には兎も角ここは無理を通す場面だと思っているのだがね」
そこまでキングに言われてしまえば、ニミッツは逆らうことはできなかった。
こうして強引にではあるがオペレーショントーチは予定通り進められることになった。
だがアメリカが日本の暗号を解読しているのと同じように日本もまたアメリカの暗号を解読していたのだった。
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