第四十六話 断豪作戦 10

ノースカロライナの司令塔では入ってくる被害報告と艦隊の損害に幕僚達は眩暈がするほどの衝撃を受けていた。


砲撃を開始した直後の集中雷撃で艦隊は半壊していた。テネシーは傾斜復旧が出来ずボイラー室まで浸水したことで蒸気爆発の可能性が高まり数分前に総員退艦が発令されていた。

ノースカロライナも艦首に雷撃を受けたことで1500tもの海水が流れ込んでおり艦首が少し沈み込んでいた。破口付近の隔壁を補強するなど応急処置は行ったものの砲撃の安定性を確保するために艦尾のバラストタンクにも注水を行った。そのため出せる速力は21ノット程度まで下がっていた。


それでもハルゼーは諦めなかった。

いずれにしても速力が低下した状態では日本の戦艦からは逃れられない。

それに時間が経てばオーストラリアからの援軍が到着するはずだった。

援軍といってもオーストラリアに退避しているはずのアジア艦隊とオーストラリアが保有する艦艇の事だった。


 相対するフソウ型の後部砲塔が被弾で吹き飛ばされた。こちらも相応の普段をしていたが、それでも司令塔には拍手喝采が起こった。

だがその直後に襲った砲弾がハルゼー達から高揚していた気分を吹き飛ばした。


フソウ型は16インチ砲を搭載している可能性がある。

ハワイ沖で敗れ、生き延びたキンメルは報告書にそう書いていた。だが誰もがその報告書に懐疑的だった。だが最新鋭の巨大戦艦が46センチ砲を搭載しているのは確実視されていた。

そのために合衆国は新造する空母の多くをキャンセルして新型戦艦の建造に邁進しているのだからハルゼーからすれば不機嫌極まりないものだった。


だがフソウ型と撃ち合いを演じる中でハルゼーはあのフソウ型が16インチ砲搭載艦だと確信した。

ノースカロライナは当初14インチ砲の戦艦として計画されていたのを16インチ砲に変更したため船体防御こそ大きく変えることができず14インチ砲に耐えれる程度でしかなかった。

だがそれでも14インチ砲を搭載するフソウ型であればその火力にも十分に耐えれるはずだった。

それが現実では易々と装甲を貫通されバイタルパート内部に被害が発生している状態だった。


「忌々しい!さっさとあのフソウタイプをどうにかしろ!」


彼らが先頭のフソウ型に手間取っている合間にもう一隻のフソウ型によって重巡洋艦の生き残りは蹂躙されていた。

しかしノースカロライナが砲撃をしようとした直後扶桑からの砲弾が纏まって落下した。

激しい衝撃が2回と水柱が艦の左にいくつも登った。

100mも離れていない位置だった。


水柱が収まった瞬間にノースカロライナは砲撃を行ったが、それは艦首側の二基の砲だけだった。そしてその砲弾は扶桑のはるか手前で水柱をあげた。

「どうした!!」

ハルゼーの雄叫びに艦橋から司令塔に繋がる伝声管から艦長の声がした。

こういった場合は電話交換が必要な艦内の電話を使うより伝声管で直接やりとりをする方が早いのだ。

「三番砲塔に被弾!主砲から応答ありません!今弾薬庫注水を行ったところですがそれとは別に左舷に浸水が発生しています!」


「潜水艦か!」


砲撃開始前に襲ってきた潜水艦が再び攻撃をしてきたのかと勘繰ったが、艦長からは魚雷の報告なしとしか帰ってこなかった。


「くそう、ジャップの魚雷は厄介だ!」


「艦長、進路1-2-0。砲撃中止だ!ダメコンに集中して射撃体勢を整える!」


ハルゼーは咄嗟に艦の進路を変えさせた。

このまま艦が傾いたままでは諸元が狂い有効弾は得られない。それならば一度艦の進路を変え相手の諸元をやり直させることで時間を稼ぐことにしたのだった。


だが艦が進路を変える前に扶桑が放った砲弾がノースカロライナに殺到した。六発に減った砲弾のうち三発までが周囲に落下して水柱をあげたが、残る三発がノースカロライナの艦橋を襲った。


一発は司令塔の上部に命中したが最大厚406mmの装甲板はこれに耐えた。それでも司令塔にいたハルゼー達を衝撃で薙ぎ倒すほどの被害を与えたがそれだけだった。

人的被害が最も大きかったのは続く二発目だった。この砲弾は司令塔後方の艦橋に命中した。

特に装甲が施されているわけではない艦橋に飛び込んだ砲弾が信管を作動させ、上部の露天式の戦闘艦橋と合わせて破壊した。

当然そこで指揮をとっていた艦長以下ノースカロライナの首脳陣は一瞬のうちに命を刈り取られ半数は肉体を消滅させていた。

ノースカロライナの次級者は司令塔にいた副長になったが、彼が艦を掌握するのはさらに困難になった。

最後の三発目は艦橋後部の煙突との合間に飛び込んだ。

この砲弾は中甲板で食い止められたものの、爆発により電路が破壊されて艦は停電状態になった。


ようやく舵が効き始めたが、その操舵を行う十人も艦橋が破壊されたことで一度不在になり、5分に渡りノースカロライナはその場で旋回を続けることになってしまった。

その間に諸元の修正を行った扶桑は二回斉射を実施して新たに五発の砲弾を浴びせた。

結果的にこの五発が機関部の半数を破壊し、電力の復旧も電動の排水ポンプも作動させる事ができなくなったノースカロライナは総員退艦が命じられたのだった。


ハルゼーが望んでいたアジア艦隊とオーストラリア海軍の連合部隊は、重巡を伴う日本の水雷戦隊に阻まれハルゼー艦隊の水雷戦隊諸共蹴散らされていたのだった。

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