幾千日の問い
月岡玄冬
1
人の一生とは、積み重ねることだ。
それは紙だったり、石だったり、文字であったり、人の死体であったりさまざまではあるのだけれど、とにかく積み重ねることで人は一生を成す。木の年輪は一番理解しやすいイメージだ。生を可視化することにおいて、年輪以上のイメージはない。重ねて重ねて段々高くなったり太くなったりして、世界における自分の体積を増やして主張して成長していく。
夏の午後、彼女はそう言った。
蝉の声が包んでいた。盛りを迎えた無数の声はもはや個体の境界線を無くし、一つの大きな空気となって彼女の周りに存在する。そうして世界から彼女を隔離する。世界と彼女は共にありながらも境界線が引かれている。涼哉には彼女がそんな風に見えていた。
時折、小学生の一夏の思い出のようなものなのではないかと思う。夏が終われば彼女は消えてしまって、思い出の中で風化して、十年後には煤けてしまうような、現実味のない存在。あれは夢だったのではないかと飲みの席でだけ語られるようになってしまうのではないか。
また自分の人生から色褪せて、そのうち思い出さないくらいになって、扉は閉ざされてしまう。夏の声で満たされた空間は涼哉にそんなことを思わせる。
涼哉は問うた。
お前は、何を積み重ねていると思う。
俺は、何を重ねているように見える。
彼女は一言、さあ、と答えた。
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