霧と夜

猫町大五

第0話

 その夜は、寒い夜だった。戦後数年の闇を拭い去るにはまだまだ遠く、けれどもたしかに世の中が前進しつつある、そんな時期。


「あんちゃん、ここに何の用だい」

「いや……用って程じゃ、ないんだがね?」


 こう、と港の明かりが急にまばゆくなったと思うと、ごろごろと音を立てて、何かが波止場に這入ってきた。


「まあ、単刀直入に言えば……有り金全部よこせ、ってことになるかな?」

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