第54話 とりあえず、俺戦エンド・3

 ライツは家の中の様子も確かめず、剣を抜きながら我が家へ突撃した。

 ドアの蝶番が壊れてしまったかもしれないが、妹を助けるためならば致し方ない。


「う…」


 そこでむせ返る。


 下腹部が熱い、目が霞む…

 これは魔力だ。これはあいつの魔力だ!!


 ライツは霞んだ目をがっつりと擦り、纏わりつく臭いを剥ぎ取る。

 そして、ある一点を凝視した。


 下半身を露出させた腕のない男が寝転がり、ニースが彼の上に今まさにソレを持って。

 一点とは、その部分。それから全体を。


 腕のない男?だが、この魔力?どういうことだ?だって…。幽霊?


 ——違う!


 やはり、あの男は生きていた。

 化け物なんだ。死ぬなんてあり得ない。


 公爵の嫡子がわざわざ男爵位の自分に忠告したくらいだ。


 つまり…、そういうことだった

 そもそも、あのギロチンショーは何もかもが不可思議だった。

 王族が後始末をするというのに王族直属軍は任を降ろされた。

 勿論、上の言うことには逆らえない。

 あの時のアダム・グランスロッドははっきり言って怖かった。

 勿論、大罪人ボイルも恐ろしかった。


 だけど…


 ここで繋がる。

 アダム・グランスロッドと大罪人ボイルは最初からグルだった。

 誰でも分かる簡単な方法だった。

 彼がわざわざ、宗教じみた演説をしていたのは、仕込みの準備をさせるため。


 最初の処刑はコレ。


 一番最初に殺すべき彼を最後に回したのも、念の為の時間稼ぎだ。

 根回しの為の時間稼ぎ、それで責任者である父が罪を受けることになった、最初の処刑。


 群衆が興奮状態になり、それで事故が起きたとしか記録には残されていなかった。

 数日間、父たちは血眼になって逃げ出したボイルを探していたのだ。

 石を投げたのが誰かなんて調べるのは後回しだった。


 そして、次の処刑。

 父が突如死を宣告された時もそうだ。


 あれも時間稼ぎ。父上は時間稼ぎのために殺された…


 ボルシェの人間がフレーベの旗を振りかざすとかいう、意味の分からない演出。

 そして結局、ワイバーンに連れ去られた。


 父上でなくても良かったじゃないか…


 いや。アレがなければ、自分たちはここにいない。

 そんなことも考えられない程に、ライツは怒り心頭だった。


 こんな恐ろしい男が生きていて、しかもうちに侵入している。

 そしてあろうことか、ニースを…


 俺のニースを…


 俺がずっと好きだったニースを…


 三回目の処刑。

 この男がただの平民ではないことをライツは知っている。

 彼は最後の最後にボイルを見た人物。

 ボイルがギロチンに対抗するためにあれやこれや、考え始めていたときに彼は近くにいた。

 ギロチンは確かにあの男の首に食い込んでいた。

 ライツは知っている。アダムがギロチンに細工なんてしていなかったことも。


 だが、あの処刑には一つだけ、憂慮しなければならないことがある。


 アダム・グランスロッドが性懲りもなく、時間稼ぎしていた。

 それは誰の目にも明らかだった。

 でも、あの日は上流貴族の出席が少なかった。

 だからか、連れ去り事件は起きなかった。


 そして、これはライツ自身の見解。

 いや、ライツの肌でしか感じられないこと。


 ——予定にない死刑執行人の変更があった。


 今までだって、父か誰かがやっていたこと。大した変更ではない。

 だけど、用意されたギロチンは特別製。上流貴族の首を落とせるソレ。


 アダムは最後の手段を使ったのだろう。

 生き残らせるための手段、即ち男爵に値する魔力を持っているか疑わしい青年を、男爵だとして、ギロチンを起動させるように命じた。


 因みにライツとニースとでは魔力量が違う。

 結構違う。ニースの方が素晴らしい素質を持っている。


 というのはさて置き。

 ライツは首に食い込んだ首切り刃を見て、胸を撫でおろした。

 王家が持っている金属の力を借りたとはいえ、自分の魔力でもアイツを殺せたのだと。


 そして同時に恐怖した。つまり俺が殺したんだと。


 だが、目の前の男は幽霊なんかじゃあない。現に、ニースは摘まんでいる。


 つまり生きていた。これでは大王ラマカデのギロチン伝説と同じではないか。

 近年のギロチンよりも刃が脆かった、もしくは尾鰭がついただけという見解で片付けられている。

 それに、今回だって男爵に未達の男が執行者だったというケチをつけられる。

 似ているってもんじゃあない。


「ニース…、今、助ける…」


 何にしても、平民には在り得ない魔力を持っている。

 高い魔力の者に低い魔力の者は簡単に操られる。


 つまり、今のニースは操られている。


 あのニースが簡単に、自分の初めてを捧げる筈がない。

 だから、操られている。


 今すぐに助けに入りたい。

 でも、この魔力に勝てるとは思えない。

 即座に殺されるのは目に見えている。

 義手があの男のすぐそばにあるのも怖い。

 どこかにあるだろう、ニースに持たせた短剣が怖い。


 あの方法しかない。


 ライツはニースを助けるために、ニースに一瞬の苦痛を我慢してもらうという辛い決断をした。

 つまり、腹上死だ。

 愛するニースの初めてを奪われるのは、胸が張り裂けてしまうほど辛い。

 母の言いつけをニースが守ってくれてたら、自分はもっと魔力が磨かれた。


 ニースがお兄ちゃんとのセックスに合意してくれたら、こんなことには


 妹には後で何度も謝ろう。

 でも、彼にはそれくらいしか妹を救う方法はない。

 死神は中流貴族を中心に狙っている。その噂くらいはライツの耳にも届いている。


 母は親もその親も男爵家。

 父は死んだ王に治安を任された時に爵位を賜った成り上り。

 そして生まれたのは男の子。つまりライツ。でも、成人してみたら大した事なかった。

 母の方が魔力が強い。その血を強く受け継いだのは妹。


 だから、自分に妹と性交するように迫ったのだ。

 兄妹で身を守る為に。


「く…そ…」


 見ているしかないが、見ていられない。

 妹の実ったばかりの果実が、あんな男に食われようとしている。

 でも、まだダメだ。もどかしい。本当にもどかしい。


 悪魔ボイルは妹ニースを操り、今か今かと待っているだろう。

 理由?そんなの決まっている。両手がないからだ。だから、女を操り、女にさせる。

 見れば分かること。きっと今頃、欲望は欲棒と化してそこに宿っている。


 入った瞬間、グサ‼入った瞬間、グサ‼入った瞬間、グサ‼入った瞬間、グサ‼入った瞬間、グサ‼入った瞬間、グサ‼入った瞬間、グサ‼入った瞬間、グサ‼入った瞬間、グサ‼


 脳内でシミュレーションする。

 その瞬間は必ず訪れる。


 そして


 ニースの体はビクッっと反応した。


 今だ‼三秒以内なら…、入っていないのと…同じだ


 ライツの平民魂が謎理論を展開し、シミュレーション通りの行動に出る。


 妹を助けるために、そのまま妹と抱き合うために、助けたのはお兄ちゃんだよと言うために、そうなったら絶対にニースも俺の為に


 お兄ちゃんは死神を殺しに行く。


 ——ドンッ!


 だが、ライツは見誤った。

 あの男はばっちりと目を開けていて、こちらの剣を手首から先のない腕で受け止めた。

 刃が通らない。それはそうだろう。妹を操れるってことはそういうこと。


「そか…。まだ、入ってなかったのか」


 だとすると妹の貞操は無事だ。

 よかったのか悪かったのか、分からない。

 死神は殺せないが、そこだけは死守した。

 それに、あの男も攻撃手段を見失っている。


「はぁ…はぁ…。え?お兄ちゃん?」


 正気に戻った!今すぐニースを……


「ニース、大丈夫か!」


 悪魔ボイルは呆けている。

 理由だって分かっている。まさか邪魔者が入るとは思わなかったのだ。

 腹上死の危険があると知ったのだ。


 だから俺は妹の体を抱き寄せて


「痛い‼」


 妹を愛した。

 すると妹が叫んだ。

 それはそうだ。

 今まさに死神に襲われていたのだ。

 それは痛いことに決まっている。


「ニース、無事か?」


 妹の衣服は脱がされていた。

 形の良い胸も、こんなにも柔らかい。


「お兄…ちゃん…」


 ニース。最愛の妹。

 本当に気持ち良い。腰が勝手に動く。体が喜んでいる。


 これが生きてるってことだ。


「痛いって!お兄ちゃん、なんで!?なんでなの!?」

「ごめんな、ニース。俺はあいつを殺すために、ニースの貞操を捨てさせようとしたんだ。怖かったよな。痛いよな。それに……、気持ち良いな、ニース」





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