第3話

 アカリちゃんといっしょにすごす学校生活はたのしかった。

 アカリちゃんはだれにも見えないから、授業をしている先生にイタズラしたり。

 それをみてあたしはふきだしちゃいそうになるけど、いっしょうけんめいがまんした。

 だって、みんなからみたら一人でしゃべってわらってるだけだもん。

 みんな、ユーレイはみえないんだから注意しなくちゃ。

『やっぱり学校はたのしいねー。』

「うん、楽しいよね! アカリちゃんもたのしめてよかった!」

『つれてきてくれてありがとね、アヤナ!』

 お昼休み、人気のない校舎ウラであたしたちが話していると一人の生徒がやってきた。

 同じクラスの男子、内藤悠人(ないとう はると)君だ。

 ととのったかおで長いかみを左側にながしていて、いつも左目のかくれてる子。

 どこかクールにクラスのみんなをみている子で、あんまり多くはしゃべらない。

 そんな彼が、まっすぐにこっちに歩いてくる。

 しかも、なんだかこわいかおをして――。

「ハルト君? こんなところに、どうしたの?」

「山岸、おまえとりつかれているぞ」

「えっ!?」『ええっ!?』

 あたしたちは二人でびっくりしちゃう!

 だって――ハルト君には、アカリちゃんがみえているの?

 そういえば、ハルト君って神社の子ってうわさだった。

 それも、神社できびしい修行をしているって。

「オレがお前にとりついた悪霊をはらってやる。いくぞ!」

「もしかして……」

『わたしってば悪いユーレイだとごかいされちゃってる!?』

 ハルト君がお札をとりだして目の前にかかげる。

 かぜがおきて、ふだんかくれていた左目が見えた。

 つよいかがやきをもった、あたまがすごくよさそうで、カッコイイ目。

 だけどりりしくてカッコイイ目だからこそ、今向けられるのはこわい!

「待って待って! ごかいしてるよー!」

「お前は後ろの女の子のユーレイにあやつられているんだヤマギシ! オレが助けてやる」

『わたしたちともだちなのにー。』

「はらいたまえ! きよめたまえ! はぁ!」

 ものすごいはやさでハルト君の手からお札がとんでくる。

 あたしは全身でだきしめるようにしてアカリちゃんをかばった。

「なぜユーレイをかばう、ヤマギシ!? そううごかされているのか?」

「ちがうのハルト君! あたしとアカリちゃんはホントに友達なの!」

「ユーレイと人間が、ともだち?」

 しんじられない、という目であたしたちをみてくるハルト君。

「アカリちゃんがいつか成仏するまでともだちなの。ううん、成仏してもともだち!」

『アヤナ……。』

「成仏についても知っているのか、ヤマギシ?」

「うん、知ってる! ねぇ、ハルト君。ぜんぶ話すから、まずはおちついてきいて」

「……わかった、きこう」

 ハルト君がお札を下げた。

 あたしはハルト君とならんですわってユーレイアパートのことを話した。

 おばあちゃんはとても強い力をもっていて、ケイスケお兄ちゃんと手伝っていること。

 そこで成仏した無明さんや、今くらしているみんなのこと。

 今日はアカリちゃんのおねがいでこうして学校につれてきたこと――。

 ハルト君はさいしょはうたがった目で見てきた。

 だけど、あたしが成仏についてくわしいことをしるとだんだん見る目がおちついてきた。

「まよったユーレイをすまわせて成仏にみちびくアパート……。そんな場所があるなんて」

「うん、おばあちゃんががんばってつくった場所なの」

『そうそう、わたし悪いユーレイじゃないんだから!』

 うでをくんだハルト君が「うぅむ」と声をもらした。

「……気になるな」

「へっ、どういうこと?」

「そのアパートのそんざいが気になるってことだ。オレも行ってみたい」

「えええっ!?」

「……ダメなのか?」

 ちょっとしょんぼりした目で見てくるハルト君。

 さっきのいんしょうとちがって、そのひょうじょうはなんかカワイイかも!

「アパートのみんなにお札を投げたりしない?」

「ああ、しない。悪いユーレイじゃないかぎり、そんなことはしない」

「ほんとに?」

「ほんとうだ!」

 アカリちゃんがじぃ~っとハルト君を見て言う。

『ほんとのほんとに~?』

「ほんとうにほんとーだっ!」

 いっつも冷静に見えるハルト君がちょっとムキになっているのがかわいい。

 しょうがないなぁ。

 きっとおばあちゃんたちにあえ、ばハルト君もユーレイにもっとやさしくせっすることができるようになるよね。

「じゃあ、放課後いっしょにアパートにいきましょ、ハルト君」

「いいのか? ありがとう、ヤマギシ。それとアカリだったか、さっきは早とちりしてすまなかったな」

 ハルト君が、ペコリと頭を下げてアカリちゃんにあやまる。

『気にしないで、わかってもらえて安心したから!』

 悪いことしたら、きちんとごめんなさいできるんだな。

 ハルト君、見た目どおりにやっぱり大人? でもさっきはムキになってみたり。

 ハルト君はとってもいろんなかおをもっている、ステキな人なのかもしれない。


 学校がおわったあとあたしとアカリちゃん、それにハルト君はならんで学校を出た。

 あたしの案内でアパートにつくと、すぐにアカリちゃんが中に入っていく。

『ただいまー、ケイスケ君、たつのさん。』

「アカリちゃん、どこにいっていたのかと思えばアヤナと学校にいっていたのか。あまりアパートからとおくにいってはいけないよ」

『うっかりおはらいされちゃうもんね!』

「そうよぉ……ってあら? アヤナ、そちらの子は?」

 おばあちゃんのといかけに、あたしではなくハルト君がおじぎをした。

「はじめまして。ヤマギシのクラスメイトで内藤悠人ともうします。うちは神社の家系で、オレもユーレイとか見えるんです。それで今日、アカリさんをつれるヤマギシがとりつかれているのかとかんちがいしてしまい――」

 ハルト君は、今日のできごとをていねいにおばあちゃんとお兄ちゃんに話した。

 うなずいたおばあちゃんが、管理人室の中にハルト君をさそう。

「神社の子じゃ、ユーレイアパートなんて不気味でしょうけど、ゆっくりしていってね」

「いえ、ヤマギシから話はききましたので。悪霊になることをみぜんにふせげるのなら、それにこしたことはないと思います」

「そうか、ハルト君はずいぶんと大人な考え方をしているんだな」

 ハルト君の言葉に、お兄ちゃんがうなずいた。

「ふつう、悪霊はらいなどをしているとユーレイはそのそんざいすべてを悪と思ったりするものだが、君はちがうんだねハルト君」

「最初はユーレイは悪って思ったところもありますけど……オレはまだまだ修行中です、ユーレイにもいろいろいるとヤマギシにまなばされました」

 やっぱりハルト君は、しっかりした考えをもっている。

 お兄ちゃんとならんでいてもみおとりしないというか――。

 大人だなぁ。

 あたしも、ハルト君みたいにもっとしっかりしなくちゃ!

「アヤナ、ハルト君にきちんとこのアパートのことを話せたんだな、たいしたものだ」

 そんなことを考えていたら、お兄ちゃんに頭をなでられた!

 うれしいけど、ハルト君の前だとなんかテレる!

 ハルト君もおどろいたようなかおをしてボソっと「いがいと子供なんだな」なんてつぶやいているし! もう!

 管理人室のなかでユーレイの話がひとしきり終わったとき、ハルト君が着ていたシャツのえりをぴっと正しておばあちゃんにいった。

「ヤマギシのおばあさん。オレもこのユーレイアパートに通ってもよいでしょうか?」

「あら、あなたがこのアパートに?」

「はい。オレは今、いろいろなことを知らないといけない時期だと思っています。このユーレイアパートも、オレにとってはしんじられないところです。もっとそのそんざいのいぎを学びたいと思いまして。両親には、オレから話しますので」

 ハルト君は、自分がまったくわからないものを前にして、学ぼうとしているんだ。

 すごいな。

 あたしなんて、最初はとまどってばっかりだったのに。

「ハルト君、あなたがここに通うのはまったくかまわないわ。ただ、最初はびっくりするかもしれないけど、ユーレイのみんなとなかよくしてね」

「はい! ありがとうございます」

 口元をひきしめたハルト君をみて、おばあちゃんはうなずいた。

「ご両親へのお話は、わたしも一緒にうかがうわ。それでいい?」

「ですが、それは……」

「アパートのことで帰りが遅くなったり、修行にもえいきょうがでるでしょう。ここはちゃんと大人もまじえてお話したいから」

 おばあちゃんのことばに、ハルト君は頭を下げた。

「ごはいりょ、ありがとうございます。そうしていただけましたら」

「じゃあ今日帰るときに、一緒に行きましょう。それまでは、ここのみんなのことやお仕事を覚えてね。アヤナ、ケイスケに教わったこと、ハルト君に教えてあげて」

「は、はい!」

 ど、どうしよう!?

 お仕事はなれてきたけど、みんなに紹介とかせつめいとか上手にできるかな。

「そういうわけで、よろしくたのむぞヤマギシ」

「う、うん。それじゃあ、まずはみんなに紹介しないとね」

 ちょっとテレたようなかおをしたハルト君をつれて、あたしはアパートをまわった。

 ユーレイアパートに、新しいなかまがふえた!

 とまどうことはいろいろあるけれど、それがとってもうれしい! 

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