甘い亀裂
西野 夏葉
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なんでもいいから破壊したかった。蹂躙したかった。嘲笑いたかった。
だって、私だけがこんな辛い思いをしなきゃいけないなんて不条理だし。私だけが不幸になるんじゃなくて、みんな等しく地獄に堕ちてくれないと納得がいかない。ノーミュージックノーライフ。じゃああんたのSpotifyのサブスク解約してあげるよ。潔く死んでみせなさいよ。偽善者野郎。
「はい、はい質問。イチコはこのあたしすらも地獄に落としたいってことなんですか」
「シオリは別枠なので、そのまま生きていてください」
「だってイチコさっき、みんな等しく……って、うううううー」
「あーもうわかったって、もう言わないからその白々しい泣き真似やめて」
私が白旗を挙げたら、シオリは「うわぁい」と大げさに喜んでみせたかと思うと、そのまま私に飛びついてくる。桜の花みたいに、ふんわりとした甘い香りをまといながら。
本人にはバレないように、ため息をつくふりをしながらもう一度、余分に空気を肺腑へ取り込む。前にどこの香水を使ってるのか訊いたはずなのに、忘れちゃったな。
というか、私はついさっきまでシオリに向かって、如何にして私が付き合っていた彼氏に振られたのか……という悲恋話を披露していたはずなんだけどな。すっかり話題が切り替わっちゃった。
シオリの背中でなんとなく、ぽん、ぽんと小さい子を寝かしつけるみたいなリズムを刻んでみる。彼女の体温を全身で感じながら、私は部屋の中を一瞥する。小綺麗な部屋の壁にピン留めされたポスターは、どこかの街の夜景だ。
考えてみたら、シオリからは男性アイドルが好きとか、そういう話を全くと言っていいほど聞かなかった。別に何に興味を持っていようが本人の自由だし、周囲が休み時間のたびにあのアイドルがどうこうとギャーギャー言っているから、なんとなく気になっただけだけど。
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