13.間一髪
―少し時間は遡り
「なぁ、手出すなって言われたけどよ」
「あぁ、やっぱそそるよな、マルタちゃん」
ペチュニアが出ていってしばらくした頃、見張りの男達はマルタにいやらしい視線を向け、そんなことを言い始めた。
「……いいのですか? ペチュニア様に逆らっても」
「あぁ? いいんだよ。つうかもう何度も逆らってるしぃ?」
「最初は実家をファウフィデル公爵家に援助してもらったから従ってたんだけどよ。あの女、他の女への嫌がらせは手伝わせても「絶対手は出すな」って煩くてよ」
「そうそう。で、その場では従った振りしてちょっと怖がらせるだけだけど……あとで、な。みぃんなペチュニアの嫌がらせの続きだと思って泣き寝入りすんの! 公爵家様々だな」
「なんてことを……!? 貴方達は人の心がないのですか!?」
男達の醜悪な告白にマルタは怒りを顕にする。
しかし、男達はそんなマルタを嘲笑うかのように卑猥な言葉を投げかけた。
「マルタちゃん、騎士見習いの間では結構人気なのよ? 侍女服の天使って」
「“お世話”して欲しー! ギャハハ」
「いつものパターンだと後で拐うんだけどさ。今回はもう色々準備万端だし、もうやっちゃおうぜ」
「それにただ帰しちゃったらあのクロウディアって女に言い付けられちゃうし……あいつ強すぎるわ」
「でもいい女だったよなぁ……」
「よせよせ、流石にアレクセイ皇子の婚約者に手出したら首が飛ぶって」
「マルタちゃん、あの平民野郎とデキてるんだよね? もうやったの?」
「あいつもムカつくよな、平民の癖に」
好き勝手に言い放題して、“下”を脱ぎ捨てた男達がマルタに手を伸ばしてくる。
「(ヴェルナー様……!)」
マルタが固く目を瞑った時だった。
ガンっと扉が蹴破られる音の後、数回の打撃音と衝突音が響いた。
マルタが恐る恐る目を開けると、壁に叩きつけられたのか壁際で呻き声をあげる男達と、心底安心した様子のアレクセイがそこにいた。
「あぁ、なんとか間に合った……間に合ったでいいんだよな」
「アレクセイ殿下!?」
「やぁ、マルタ嬢。無事かい? その、色々と」
「は、はい!」
「よかった……今、縄を解いてあげよう」
▽ ▽
「なるほど……それはまずいかもしれないな」
自由になったマルタがペチュニアの目論見をアレクセイに伝えるとアレクセイはやや顔を強ばらせた。
「はい、いくらお強いとはいえ女性の身。クロウディア様が危険でございます。急ぎヴェルナー様に私の無事を伝えなければ……」
「ん? あぁ、そうか……」
「アレクセイ殿下?」
「あー……多分だがな、危険なのはヴェルナーの方だ」
「えっ?」
「クロウは……なんというか、強いというより恐ろしい女性なんだ。下手したらヴェルナーが殺されかねん」
「えぇ!? では、い、急ぎませんと!」
「あぁ、急ごう! 場所はある程度は見当が付く!」
▽ ▽
「ほんっとにギリギリね……マルタ、無事で良かったわ」
「ありがとうございます、クロウディア様」
アレクセイから顛末を聞いてみれば、本当に間一髪のタイミングだったようだ。
マルタが無事でクロウも安堵の表情を浮かべる。
「ヴェルナー……その、大丈夫ですか? 傷は痛みませんか?」
「はい、マルタさんにも治癒をしていただいたので……俺の早とちりでクロウディア様に刃を向けてしまうなんて、俺は何てことを……」
心底後悔して、いっそ悲痛な顔のヴェルナーにクロウも少々いたたまれなくなる。
傷は塞がっているが、乾いた血があちこちにこびりついているからなおさらだ。
皇子の婚約者に刃を向けるのが重罪であることはクロウでもわかる。
これでヴェルナーが処刑になろうものなら何の為にマルタを無事に救い出したのか……下手をすればマルタはヴェルナーの後を追いかねないだろう。
「アレクセイ様。ヴェルナーは……」
「まぁ待ちたまえ、クロウ」
クロウがヴェルナーのことを取り成す為に話しかけようとするのを手で制し、アレクセイは先ほどから沈黙を保っていたペチュニアに向き直った。
「まずは発端であるペチュニア嬢に話を聞こう……話してくれるな?」
「はい……アレクセイ殿下……包み隠さずお話いたしますわ。何故このようなことをしたのか……」
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