【完結】推しているvtuberがガチで神だった件

橘まさと

第1話 【悲報】推しのVtuberにイラストをパクられた件

『みんなー、こんうずめー』


:こんうずめー

:うずめちゃん、今日も来たよー

:今日もダサカワイイ、ハァハァ


『今日はねぇ、後程重大発表があるから楽しみにしていてね』


 推しているVtuber【うずめちゃん】の配信を見ながら、俺――猿渡敏彦さわたりとしひこ――はビールをプシュっと開けた。

 二浪して苦労したが、今年は大阪の芸術大学に合格できた。

 そのお祝いのため、酒を飲みながらタブレットで推しの配信を見ている。

 合格のきっかけはやはり、芸術の神様でもあるアメノウズメを祭る佐地神社に絵馬を奉納したことだろう。

 うずめちゃんにお勧めされたので、やってみたがよかった。

 こんなことなら浪人する前にやっておけばよかったと後悔している。

 絵を描くことが好きなだけで、芸術大学に入ろうと不合格でもあきらめずに頑張ってきてよかった。


「んぐんぐんぐ、ぷはぁー! それでも続けられたのはうずめちゃんのお陰だなぁ」


 ビールを飲んで、一息ついたあとタブレットを操作してコメントを書き込んだ。


サルヒコ:うずめちゃんのお陰で志望校の芸術大学に合格したよ。


『大学合格おめでとー!』


:おめっとー!

:おめおめ

 

 うずめちゃんがサルヒコと名乗る俺のコメントを読んでくれたので、温かい反応が返ってくる。

 このアットホームさが高校を卒業して一人暮らしをしている俺にはたまらなかった。

 浪人時期を耐えきれたのはアットホームなうずめちゃんの配信に他ならない。

 今の時代、日本神話に登場するような黒髪ロングに大和時代の巫女服姿なのが逆に新鮮でダサかわいいのでファンになった。

 毎日配信を行っているうずめちゃんだが、ダサかわいいモデルのせいか5年の活動を経てようやくチャンネル登録者数が1000人にいったらしい。

 その登録者1000人記念の重大発表がこの後なされるそうだ。


「ビールには唐揚げにポテサラだなぁ~」


 バイト先でもある「佐々木弁当」で売っている手作り総菜を食べながら、配信を見続ける。


『じゃあ、重大発表いくね。なんと、うずめちゃんの新しいモデルが完成しました! ぱちぱちぱちー』


:すごい!

:これは確かに重大発表

:チャンネル登録者1000人のお祝いだね!

:8888888


コメント共に投げ銭もとび、ファンがうずめちゃんを祝っていた。


『じゃあ、姿を変えるね』


 画面からうずめちゃんが消え、緊張した空気が漂う。

 すらりとした色白の足が画面の上から現れだした。


:これはエッチ!

:うずめちゃんがダサくない、だと!?

:せくしー!


 コメントの流れが速くなり、俺もうずめちゃんの全身の姿が気になってくる。

 腰まで映るとミニスカートとも言えないものが見え、パンツはどう見ても履いてなさげなほどスリットが深かった。

 動く2Dモデルのため、腰が揺れるも中身は見えそうで見えない。


(あれ、このデザインどっかで見たことあるような……)


:や、やべぇ……

:ピピ―! うずめちゃん、逮捕です!


 コメントの流れがますます加速していった。

 ソシャゲの登場キャラクターのようなデザインを事務所がよく許可をだしたなと俺は思う。

 うずめちゃんの新モデルが胸のあたりまで映った。

 巫女服をベースにしてはいるだろう白い衣装だが、露出が多い。

 大事なところは隠れているものの、脇や腰などがあらわになっていて、コスプレしたら痴女扱いになりそうなくらいだ。


(まてまてまて……どういうことだ)


 だが、俺はそれ以上にこの服装が引っ掛かかる。

 なぜならば、この衣装はだからだ。


「どういうことだ? え、なんで奉納した絵馬のデザインの衣装をうずめちゃんがきてるの? パクられた?」


 パニックになるが、それ以上にパニックになることが俺を待ち構えていた。


『じゃーん、どうかな? 名前もうずめちゃん改め、【天野うずめ】で活動していくから、これからもよろしくね!』


 顔が映ると、これまた俺が絵馬に描いた日曜朝の女児向けアニメのようなピンク色のロングヘアに頭の上にリボンのように結んだ髪型をした女の子がヌルヌルと動いて話をしていた。


:うずめちゃん、やべぇ……

:かわいい、かわいいよ

:我が生涯いっぺんの悔いなし(バタッ)


 コメントが流れているが、俺の心はそれどころではなかった。

 心臓がうるさいほど鳴っている。

 何せ俺がアメノウズメとしてイメージして描いたデザインの女の子が画面の中にいてしゃべっているのだ。

 ”俺のデザインだ”とコメントに打とうとしたが、理性がよみがえり踏みとどまる。


「いかん、コメントしたら荒れる!?」


 配信をぶち壊しにするわけにはいかない。

 とりあえず、うずめちゃんに連絡を取ることにした、すぐさまスマホを取り出し、チュイッターに切り替えてDMにメッセージを書き込んだ。

 うずめちゃんの声がリビングのタブレットから流れているが、その姿は俺がデザインしたもので、こそばゆい気分になる。


’うずめちゃんの新しいモデルのデザインですが、俺が佐地神社に奉納した絵馬に描いたものです。無許可でデザインを使われたのでしょうか? 証拠の写真を付けておきます’


 絵馬の写真と共にDMでメッセージを送ると、ピンポーンとチャイムが鳴った。

 

「今はそれどころじゃないのに……はい、どちら様ですか?」


 玄関までいき、ドア越しにのぞき窓から来訪者の存在を俺は確かめる。


「はじめまして、うずめちゃんのマネージャーをしている天原 照代と申します。お話を伺えませんか?」


 黒い腰まで伸びているストレートロングヘアに黒い男物のスーツ姿の女性はそう名乗った。

 部屋の時計を眺めるがDMを送ってから、1分もたっていない。


「えっと……さっきDMを送った分ですよね? それでなんで俺の住所わかったんですか?」


 ドアを開けず、鉄の板一枚を隔てて俺は来訪者と会話を試みた。

 どう考えても怪しすぎるのだから、警戒もする。


「住所については、ほら……私、神様だから?」

「警察呼びますよ? だって、このマンションオートロックなのになんで部屋の前まできてるんです?」

 

 天原と名乗る不審人物が首をかしげた。

 俺はますます怪しいと思い、スマホを操作し110と入力する。


「あああ! 待って、待って! ぴぽぱ……ちょっと、つーちゃん。どうしよう……話聞いてくれないよぉー」


(ピポパと口で言う人はじめてみた)


 俺がそんな感想をいだきながらドアのレンズ越しに外を見ていると天原さんはつーちゃんと呼ばれる人と電話しているようだ。

 初めの挨拶をしたときはしっかりしていそうだったが、今は見る影もないほどうろたえている。


「だからぁー、私はこういうの向いてないんだよー。つーちゃんがやってくれればよかったのー」

「あの、お取込み中なのなら日を改めてきてくれませんか?」

 

 俺はいち早くこの状況を何とかしたいので、帰ってもらうように促す。


「待って! 待って! だから、じゃあこれ名刺! 事務所! 事務所に来て! うずめちゃんのモデルについて話をするからっ!」

 

 慌てた天原さんは名刺を郵便受けに入れてきた。

 郵便受けに入った名刺を見るとうずめちゃんが所属しているVtuber事務所

『Yaoyoro’s』の名前が入っている。


「一方的だったなぁ……何だったんだろう、あの人は……」


 入学式まで時間はあるし、事務所の住所は奈良なので行けなくはなかった。

 Vtuber事務所に堂々といけるチャンスなのだから、乗ってみよう。


 気楽に考えて事務所に行ったことが、俺の人生を大きく変えることになった。


 

  





 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る