貴公子は略奪をご希望ですっ!?

月兎アリス

*新しい学校生活*

 ──四月某日。


 この日、都内の住宅街の一角にある私立学校・白崎学院の高等部では、新入生の入学式が執り行われていた。


 私は、新しくこの学校に入学する、神城琴音かみしろ/ことね


 まだ着慣れないブレザーはきっちり閉めていて、チェック柄のスカートは膝下まで伸ばしている。


 周りには、出席番号の近い人たちが座っている。


 女の子たちは大体、膝より上のミニスカだから、ロングスカートの私は悪目立ちしていた。それだけが理由じゃないんだけど……。


「ねえ、何あの子?」

「スカートあんな長いのに、髪、水色系の銀色だよ?」

「信じらんなーい。どういうつもり?」


 多分、私の年齢で、膝下までスカートを伸ばしている女の子って、大方、黒髪ロングの眼鏡ちゃんだとみんな考える。(あくまでも私の先入観や偏見。)


 一方の私は、生まれつきの水色のボブヘアーをそのまま。日本人のほとんどが黒髪や黒っぽい茶髪であるため、この髪は遠くからでもよく見えた。


 私は……自分の外見が一番嫌いだ。


 尤も、私がこの世で一番嫌いなのは自分の外見だけではない。弱気で消極的な性格も、この上なく大嫌いだった。


 普通の人と同じような見た目で生まれれば良かったのに、もっと尊敬されるような性格になれたら良かったのに。


 そうやって、幾度となく自分を恨んできた。



 私の席は、一番前の一番端、通路側だ。


 普通、こういう並び順って「名前順」や「名簿順」、「五十音順」だから……今年の入学者には、あ行の苗字の人が少ないのかな?


  私は「かみしろ」だから……。


 そうやって背筋を伸ばして待っていると、右隣の席に、別の人が来た。


 一瞬、女の子かな? と思ったけれども、ネクタイだしスラックスだから、多分男の子だ。


 すみれ色の物凄く長い髪を一つに結っていて、二重瞼の目の色もすみれ色だ。顔は小さくて、背は高い。柔らかくて可憐な顔立ちは、女の子そっくりだ。


「初めまして!」

「……は、初め、まして……」


 その子はニッコリとした笑顔で、私に挨拶をした。そして、わざわざ目礼までして、私の隣のビロード椅子に腰掛ける。


 この子、座高低い……? あ、足が長いんだ!


「君、偏差値いくつ?」


 えっ?


 突然訊ねられて、すぐに反応することができなかった。ただただ、目を真ん丸にして、その子を見上げる。


「偏差値……ですか? ざっと七〇です」


 本当はもっといくはずだったけれども、スポーツ観戦で忙しかったから、結局ここでとまって、あとは伸び悩んでしまった。


「でも今、偏差値が何と関係しているんですか? 私にはピンと来ませ──」

「うわあ、牡丹の一個下」


 今度はその子が、目を真ん丸にした。


「僕ね、松平縁まつだいら/えんっていうの、名前。縁とか、ちょっと女の子っぽくない? おかげでこの外見だよ、草でしょ?」


 松平、縁さん……かわいいけれどもカッコよさもある、いい名前だなぁ……。


 ん? じゃあ、五十音順でいくと「か」の次は「ま」?


 それとも下の名前で……そうしたら「こ」の次は「え」になって、逆走しちゃうか。ん? 私が最初じゃない説は?


「……どした?」

「ハッ!!」


 縁さんの言葉で、ハッと我に返った。……あれ、素っ頓狂な声、出ちゃった?


「……ん? この席、どういう並び順……」

「ああ、そゆこと! 白学……白崎学院は、基本的に偏差値順や成績順で並ぶんだよ。式典の席や定期試験のときも」


 ……そ、そうなの?


 全国の学校は、公私立問わず大体並び順は五十音順だったから、成績順で並ぶなんて、全く思いもしていなかった。


 珍しい学校だなぁ……。


 すると、縁さんの席の右隣に、さらに人が来た。二人組?


「あ、陽向ひゅうが想葉そうよう!」

「縁も同じクラスだったんだな」

「ふふっ、どうせ内部生の首位者は牡丹だろうね」


 一緒に来ているけれども……家族ってわけではなさそうだ。例え二卵性双生児でも、だとしても似ていないし……。


「紹介するね。白橡しろつるばみの髪の方が大森陽向で、漆黒の髪の方が六郷想葉。二人とも知り合いだよ!」

「おい縁、知り合いっていうほど離れた中じゃ、ないだろう」

「でも僕たち、いつもいがみ合ってるじゃん! 友達じゃない。それに僕、BLじゃないから恋愛関係でもないでしょっ?」

「ははっ、いつになく縁がウザい」


 えっと、とにかく白髪はくはつの方が陽向さんで、黒髪の方が想葉さんだってことはわかった。


 陽向さんは白髪で目はグリーン、金ぶちの眼鏡をかけていて、ぱっと見真面目な印象を受けた。制服のネクタイもきっちり締めているし。


 想葉さんは黒髪で目はグレーとレッド、クール系の人かな、と思ったけれど、意外に声は高くて、笑顔が親しみやすいかな。


 それにしても想葉さん、オッドアイ……しかもここまでハッキリと違いが出るんだ。


「縁、奥の席のその女子は?」


 陽向さんの結構低い声に、ビクッと肩を竦める。


 お、奥の席の女子って……ひゃ、百パーセント私のことだよね……? この列には女の子は私しかいないし……。


「……神城琴音ちゃんじゃない? 知らんけど」


 ……え。待って。


 な、なんで……偏差値しか教えていない縁さんが、私の名前(しかもフルネーム!)を知ってるの──……!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

貴公子は略奪をご希望ですっ!? 月兎アリス @gj55gjmd

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画