第12話 エクストラステージ

<おめでとうございます。あなた方はエクストラステージを発見しました。あなた方は第一発見者です。これよりこのダンジョンのボスの変更設定が行われます。完了しました。それでは新たに設定されたボスの撃破を目指してください。>


「えっ……?」

私たちにとって、それは死刑宣告のような無慈悲で残忍なアナウンスだった。


あの虫がボス?

あの生理的な嫌悪を呼び起こす黒い虫をそのまま大きくして高質化させたようなアレが?

 

しかも、ちょっと床を開いただけであんなにいるのよ?

この一帯の床、全面にあれがいるかもしれないのよ?

おびただしい数よ?


あんなのを1つずつ倒していくの?


鳥肌がたち、体が震える。


あの見た目にもなにか変な効果があるんじゃないでしょうね?


普通にモンスターを見てもここまで心が冷えることはない。



はっきり言って気持ち悪い。

だってGだもの……。



「なるほど。こういう隠れた要素があることに気付いていたんだね。さすがエリーだ」


別に褒めなくていいのよ。

私は結局対処もなにもできないのよ。


……ここはもうアッシュ頼みよね。


頼っちゃっていいわよね。


「アッシュ、お願いできるかしら♡」


お願い。できるって言って。

もしお願いできるなら、私、あなたのことちょっと許せちゃうから。

頼もしいって思える……打算的にとかじゃないわよ?


アッシュは友人よ?

ね。


お願い。


いや、もう取り繕うのはやめるわ。

打算的よ。

目の前からあの生理的な嫌悪を呼び起こす黒い虫をそのまま大きくして高質化させたようなアレを消し去ってほしいの。



「もちろんだ。キミが頼ってくれるなら、こんなモンスター瞬殺だ」

おぉおおぉぉおおおおお!!!!!!

 

さすがアッシュ。ステキよ!



見た感じ、彼は全くもって緊張も恐怖も不安も感じていないみたい。



ある意味感心するわ。



「たぶん精神系のデバフ効果でも持ってるんだろうな。見るだけで不安とか恐怖を感じて正気を保てなくなるような」


なるほど。そうなんだ。へー。

いいからとっとと倒して♡



「まずは一か所に集めよう。しらみつぶしに潰すのは大変すぎる」


心強いことに彼はそんなことを言いだした。

信じてるわ、アッシュ!

頑張って!

今なら私、あなたを全力で応援できるわ!

なんなら優しく抱きしめてくれてもいいわ♡

でも…… 

 

「そんなことができるの?」

「あぁ。こいつら集合体というか群生とかいうスキルを持ってるみたいだ。ちょっと何匹か洗脳して発動してみる」


そう言うとアッシュは目の前の虫を睨む。


「さすがアッシュさんだよな」

「そうね。今回は凄いと素直に称賛するわ。あれを見て全く動揺してないし、自信満々に倒すって」

「エリーゼ様がいなかったら私でも惚れるかもしれないわ。アッシュ様♡」

「えっ……」


私の後ろではダリウスとライラとエレノアが会話してダリウスが勝手に撃沈している。

何してるのよ!



「えっ?光り出した?」

ライラの声に、私がアッシュに視線を戻すと、凝視していた虫が黒っぽく光り始めていた。


そして床下で蠢いていた虫たちも同じような光を放ち始め、やがてこのボス部屋の全ての床が同じように光を放つまでになった。



これ全部あの虫なのよね……。

もういいわよね?全部任せたわよ、アッシュ。

私は目を閉じていてもいいかしら?



「来い」


ドカーーーーーン!!!!!!!



そしてアッシュが呟くと、あちらこちらで床が崩れ……壁も崩れているわね。


そこからあの虫がうじゃうじゃと出てくる。


私は悲鳴を必死に堪えたわ。


気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。



「なるほど。魔神の力の残滓のせいか」

「え?」

それなのにアッシュは全くの平気な様子で呟いてるけど、その内容は意外なものだった。

魔神の力の残滓って、あの教主の首が落ちたときに体から抜けてどこかへ行ってしまったあの黒い靄のこと?

あれが何か作用してたの?




「おそらくこのモンスターはもっと脆弱だったんだろうな。そもそもダンジョンの出現自体に魔神の力が絡んでるのかもしれん。わからんがな」

もう何を言ってるのか意味不明なのよ。

いいからさっさと倒してほしいわ。

集まってきてるしーーーいやぁあぁぁあああああああ。



「ほれ。こいつがお前らを呼んだ個体だ」

アッシュは憎いほどに平静を保ったまま、手に掴んでいた虫を集まってきた虫の中に投げつける。


すると虫の輝きが増す。

私は目を開けていられなくなって閉じた。



「おぉ、こうなるのか♪」

なんであなたは楽しそうなのよ。

どうなったのよ?

ねぇ?


なんで私持ち上げられてるの?

ちょっと、変なところ触らないでよ!?



「やばいな、崩れるぞ。逃げろ!」

逃げろって言われても目が開かないわよ!それになにか持ち上げられて。



「とりあえず倒しとこう。"激烈なる魔力の奔流メルスマギナ"」


えっと、どうなったのよ!?


なんか凄まじい魔力が放たれて、耳がおかしくなりそうな轟音というか爆音が鳴り響いているけど、どうなったのよ!?


ダリウスたちは?

ねぇ!?

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