第13話 ダンジョンより王宮の方が魔物の巣窟だろ?

<おめでとうございます。エクストラボスであるネクロフォビアが倒されましたので、このダンジョンは間もなく消滅します>


「ネクロフォビアだと?」

「知っているの?ダリウス」

ダンジョンのアナウンスを聞いて驚いた表情を浮かべるダリウスに尋ねたところ、思いのほか凶悪なモンスターだった。


ダンジョンの中で信じられない速度で増えていき、ある日臨界点を迎えると表に出て来てダンジョン外も含めて周辺一帯を壊滅させる正真正銘やばさマックスな魔物。かつて歴史の中で何度か出現し、そのたびに何千何万という人々を都市やダンジョンごと葬り去ってきたという。

 

「あれは放っておくとひたすら増え続け、周囲の魔力を吸って貯めていく特性を持った凶悪なモンスターだな。あの程度で済んでよかった」

モンスターを一か所に集めて洗脳によって合体させ、一撃で消滅させた男がなにやら得意げに褒めて褒めてと言わんばかりの表情で喋っている。


けど、無視ね。

ダンジョンが消滅するらしいからさっさと脱出するわよ。


「さっ、さすがアッシュさんね。そんな魔物を一撃だなんて」

「そうよ。私なんかあの魔物を見ただけで震えちゃって。さすがアッシュ様です♡」

「いいから行くわよ!」

のんびり讃えてる場合じゃないの。

あと、ダリウスは凹んでる場合じゃないのよ。


そうして私たちは拠点まで退避した。

ようやくアッシュは私を降ろしてくれた。


ちなみに目を開けなくなった私のことは、最初からずっとお姫様抱っこしてくれたらしい。

恥ずかしいわよ!

なんでダンジョンを出た後、拠点に辿り着くまでそのままなのよ!

人目につかないように降ろしなさいよ!


こらっ、キスしようとしないの!?

なんでよ。

今はそんな雰囲気じゃないでしょ!!!?


確かに助けてもらったし、戻ってさっきの魔物と戦えとか言われたらブチ切れるわ。

でも、魔物が気持ち悪すぎたせいでそんな気分じゃないのよ!ときめいたりなんかしてないんだからね!


打算でもなんでもお願い信じてるステキをやったのはちょっと焦ったからよ。

うん。焦ったから。


「俺のことキライ?」


だから精神鍛えてきなさいよ!?

あっさり落ち込まないでよ。

なんか私が悪いみたいじゃない。


「そんなことないわ。助かったわよ。カッコよかったわ、アッシュ♡」


ぎゅっ……


いいから離しなさいよ!

こらっ!アッシュ!!

 

ねぇ、なんか言いなさいよダリウスたち。

こっちを見ないようにしながら事務処理してるんじゃないわよ!ねぇ!!!



それから1時間くらい経って、ようやくアッシュは解放してくれた……。

 


 

『では、残念ながらダンジョンは消滅してしまったということですね?』

「そう……よ」

せっかく膨大な利益を生むかもしれなかったダンジョンを壊してしまったのはまずいかしら?

それでも報告しないわけにはいかないから、私は通信の魔道具でセバスチャンと連絡を取った。

 

「でも、あんな魔物がいるところを好き好んで探索する者はいないし、もし後になって出現して探索者の大量死とか、この街が崩壊するようなことになったら目も当てられないわよね。それを防げたことをアピールできないかしら?」

『わかりました。調査ということで通常の探索に加え、違和感を感じる部分についても徹底的に調べたところ、ダンジョンの壁や床の中に奇妙な魔物を発見。それが合体し巨大化して襲ってきたため打倒した結果、ダンジョンごと消滅してしまった。そのように報告をあげておきましょう』


さすがよセバスチャン。

頼りになるわ。


報告を聞いたら絶対に怒るだろうけど大切なのは文句を言われないことだけよ。

どう考えてもあの王太子たちが画策した依頼でしょうけどね。




□王宮にて


「なに~~!!??ダンジョンを消滅させただと???どうしてくれるんだ!?」

せっかく拾った財布を消し飛ばされた王太子は怒りに怒っていた。

見た目だけは端正な顔立ちに恵まれているが、クソな性格が表に出ていて、怒りを露わに暴れまわる姿は醜悪でしかなかった。


「申し訳ございません。しかし危険な兆候は出ておりました。一般開放した後に探索者の大量死や都市崩壊などにつながらなくてよかったと思うしかないでしょう」

「くっ」

誰がどう見ても謝っているとは思えない表情の王宮魔術師長は最悪な未来を語り、それによって王太子を止める。

もしそんな事態が起こっていれば、一般開放した王宮に責任追及の嵐が吹き荒れることだろう。

むしろ多数の騎士や魔術師を投入して、犠牲も厭わずに討伐しなければならなかったかもしれない。

 

そんなことになれば王太子ですら立場が怪しくなるかもしれない。だからこそ彼は黙った。


黙ったが、明らかに怒りの表情でお気に入りの侍女を引っ張って自室へ戻っていった。


 

「しかしネクロフォビアとは……ダンジョン調査の段階で発見できて助かったが、それを倒すとは……倒すほど強くなっているとは……」


王太子がいなくなった後、ぼそぼそと呟きを発し続ける王宮魔術師長であった。


そして彼は気付いていなかった。

王宮の陰から彼の様子を伺っているもののことを……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る