第7話 エリーゼとアッシュの絆の深まり

「良い景色ね」

「あぁ……」

まったく。ちょっとは外を眺めなさいよ。なんでかれこれ2時間も私のことを見つめっぱなしなのよ。



任務も完了したのでルイン領に戻っているところだが、この馬車に乗っているのは私とアッシュだけ。

2人っきり。

どうして私の部下たちはこんな危険人物と敬愛すべき可憐でか弱いあなたたちの主を同じ馬車に乗せるのよ!

しかも他に誰も入ってこないなんて、襲ってくれって言ってるようなものじゃない!

給料減らすわよ!



「……」

「……」

気まずいのよ!何か喋ってよ。私か?私が話さないといけないのか?

これでも私、伯爵なんだよ?

あなたは公爵家の出身とはいえ、廃嫡されていて継承権はない……一応私の方が敬われるべき立場で、しかも……。


無駄なあがきね。

アッシュにそんなことを期待しても無駄なことは分かってるの。

 

えぇ、八つ当たりよ。

"王宮の犬"としての任務は達成したものの、他に何もあることがなかったことへの。


そこそこ魔力の高そうな信徒もいたのに、全部この世界から消されちゃったんだから。もうっ。

ほれぼれするほど素晴らしい魔法技術だったけど、何回考えてもやりすぎよ!

むぅ~


「アッシュはどうやってそんなに高度な魔法を覚えたの?」

「ん?魔法?」

あっ、つい心の声を口に出してしまった。

勢いで手で口元を隠すがもう遅い。


「知っての通り、俺はずっと森にいたから……」

そうよね。


"黒き魔の森"……王国ではそう呼ばれて恐れられている場所にアッシュはずっと閉じ込められていた。


森に閉じ込められるというのは不思議な表現かもしれないけど、そうとしか言えないの。

"黒き魔の森"は今でも活発に魔物が暴れまわる場所なのよ。

だから魔物が外に出てこないように周囲にはおびただしい数の魔法陣が記されていて、中と外を隔てている。


そんな場所にアッシュは10歳にも満たない年齢で放置された。

10年以上に渡って……。


「ずっと戦ってきたから?魔物たちと」

「そうだな。最初は訳も分からず魔力を振り回してたんだけど、倒せば倒すほどわかってくるというか」

うん、この時点で狂人の類だと思うの。

のんびりと穏やかに目を閉じて振り返るような話になってる時点でおかしいの。


例えば王宮魔術師クラスだったとしても単身であの森に入ったら1日と持たないのよ。

実際に罪を犯したものの処罰として入れられていた時代があったくらいよ?


「魔力の使い方が?」

「あぁ。最初に出会ったのが弱い魔物だったのが運が良かったんだと思う。群れてる狼型の魔物だったんだけど、全部魔力放出だけで倒せたから」

……知ってるのかな?あの森には狼型の魔物って一種類しかいないのよ。


そしてその魔物はね、かつてまだ森が封印される前、当時王国最強って言われた探索者のパーティーが全員喰われたっていう"エンシェントウルフ"っていうのよ?

いい?弱くないの。


「そうやって倒しているうちに使い方がわかって来たとか?」

「いや、モンスターの中で魔法を使ってくるやつらがいたんだ。俺と同じように魔力を放ってるのは分かるんだけど、何で俺のと違うんだろうと思って見てたんだ」

「それは、アッシュのはただの魔力放出で、敵の魔物のは魔法になってるのがなんでかってこと?魔力が見える?」

「あぁ、見える……いたっ。なんで?」

私は殴っていいと思うの。なんで私のユニークスキルと同じことができるのよ?おかしいでしょ!?

もちろんそんなことはせずに、軽くアッシュの腕をつねったくらいよ?


「それで使えるようになった?」

「あぁ。やってみたら面白くなってな。火とか水とか風とか雷とか光とか影とか、いろんなことができたんだ」

もう突っ込むのに疲れたの。

普通の人は1属性だけ。魔族や魔術師のエリートでも3属性くらいしか使えないのよ。

しかも雷属性なんかないからね?

それきっと合成魔法で、やってみたらできましたとか頭おかしいわよ!!!?


「アッシュはなんで"黒き魔の森"に入れられたの?」

「……」

あっ、つい心の声を口に出してしまった。

勢いで手で口元を隠すがもう遅い。

 

「あっ、ごめん。答えにくかったら答えなくていいからね」

悲しそうな顔にさせてしまった。ごめんなさいね。

でも、どう考えてもおかしいのよ。


普通ここまで魔力を持っていて、どう考えても天才児なんて言葉で言い表せないくらいの才能の塊なのよ。

ちょっとくらいの事情なんか目を瞑って全力で育てて家のために使うと思うのよ。

なのに死ねと言わんばかりの措置。

"黒き魔の森"に子供を放置するなんて、処刑するのと一緒よ。

 

まぁ、余裕で生き残ったみたいだけども。


私は申し訳なさもあって、アッシュの手を握る。

彼は私を好いてくれているし、落ち込ませたのは私のせいだからね。


「!?」

何をそんなに驚いているの?

そしてせっかく添えた私の手を自分の頬に持って行ってすりすりするのはやめてほしいんだけど。



「……魔力暴走を起こした話はした」

「えぇ、聞いたわ。でもそれだけであの森に?」

ぼそっと呟いたアッシュがどんな心境なのかはわからなかった。

数多くの人の魔力の揺らぎを見て来た私でも……。


「その暴走で、人を殺したんだ……」

「8歳の子供が?」

「あぁ……」

それは辛いわね。

親しい人だったのかしら。


「母と、婚約者を」

「……」

神様……つい心の声を口走った私が愚かだったとは言え、重すぎると思うのよ。

ここで何と言えと?


アッシュのお母さまってことは公爵夫人よね?

そして公爵家の子供の婚約者……地位が低いわけがないわ。


「ごめんなさい、辛い記憶を」

「気にしなくていい。俺には後悔があるけど、それは俺だけのものだ」

「……」


その後は馬車が到着するまで、私はアッシュの手を握っていた。


ずっと寂しい世界に生きてきた人。

母親も婚約者も殺してしまって、地獄のような"黒き魔の森"でたった一人で。


きっと、だからこそ結果的にそこから救い出す形になった私を無意識に求めるのね。

私はどうせ今は誰かと結婚する気はないから、面倒は見てあげよう。





 

ただ、ちょっと疑問というか違和感は残ったわ。

森での話からすると、その時点でアッシュは相当魔力の扱いがうまい。

事故から森に放置されるまで、そんなに時間があったとは思えないのよ。

なのになぜ魔力暴走なんか起きたの?


ごく一部の高位貴族が子供を王宮魔術師長に見てもらって魔力と才能を審査してもらう魔力開通の儀式というのは普通に行われていることで、その儀式の時に暴走したって聞いたと思うけど……。



***

溺愛コンテスト用の作品です。お読みいただきありがとうございます。

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