第5話 アッシュ惨状……じゃなかった参上

一斉に襲い掛かってくる信徒たち。

流石に数が多いけど、攻撃はそこまで強力なものはない。


中央で大きな盾を構えているダリウスは十二分に耐えているわね。


ライラとカリナにはそこそこ魔力量の多いものが向かっているけど、問題はないでしょう。


あるとしたら私か。

位置関係的に教主との戦いになる。


「残念ですな、エリーゼ様。せっかくの機会でしたが……」

「良かったですわ。豚との結婚なんて願い下げですわ」

「貴様!?」

とりあえずかかったらいいなと思った安い挑発にあっさり乗ってくる。

これはダメね。

洗脳したとしても使いどころがないわ。


「ダークボム!」

「なっ……ホーリーラップ」

しかし放ってくるのはなかなか強力な魔法。

全く周囲への迷惑を気にしていない爆破系の魔法だったので、私は驚きつつも聖属性の青白く発光する優し気な魔力で包み込んで爆発させ、被害を抑える。


「さすが魔族の主……しかし、魔神の加護を受けた私の攻撃に耐えることができるかな?」

「……魔神の加護があるにしては弱っちいわね。本当に魔神?」

「貴様!?」

またしても信じられないくらいあっさりと挑発に乗り、闇属性魔力を集め出す教主。


思考回路が貧弱すぎじゃないかしら?


それにしては魔力量も多いし、そこそこの魔法を使えるということは、やはり魔神の何らかの支援があるのかもしれない。

 

「ホーリーバリア」

「魔神様を愚弄することは許さん!喰らえ……ダークラッシュ!!!」

「くっ……」

闇属性の小さな魔弾が無数に飛んできた。バリアでその多くを防いだが、いくつかの魔弾がバリアの横を抜けてくる。

しまった。闇属性なのは読めていたので聖属性のバリアを貼っていたけど数が多かったわ……


私は体を捻ってその魔弾を避ける。

後ろには誰もいなかったわよね……。


「くっくっく。逃げろ逃げろ……ダークラッシュ!!!」

仕方ない。いくつかを受けるのは許容して、倒すことにしよう。



って、あっ?




 スパン……





 グシャ……ゴロン……ゴロン



私が反撃を試みるために睨みつけた教主の首が鋭い何かに斬られて床に落ち、ゆっくりと転がっていきました。



 ホワーン……


そして残ったからだから黒い靄ののような何かが抜け出してどこかへ飛んで行った。

え?っと思ったがもう遅いし、やばい……

教主は今のこの瞬間で死んだだろう。

 


私は自らの体を確認しましたが、肩に小さな傷がひとつ……



周りを見渡しましたが、応戦していたはずの相手が次々に首を落とされていくホラーな現象に唖然としている仲間たち。



やってしまった。


これはもう勧誘とか洗脳とか捕縛とか言ってる場合じゃない。



えぇと、たしか今回の指令の内容は”処分"しても良いって書いてあったわよね。

うん。思い出した。書いてあるはず。


前回の盗賊団の捕縛指令で皆殺しにしたら失敗扱いされたのに抗議したからきっと入れてくれたんだと思うわ。

面倒だったけど前回頑張っていてよかった。



ぎゅう……




「なにしてるよの、アッシュ!!!!!!!!」

私は全力で自分の胸のあたりに向けてボディブローを放つ。


「エリー、無事で良かった」

さっきまで何もなかったというか、なんで急に抱きしめられてるんだ私は……。

いや、知ってる。

アッシュがきっと私の怪我に反応して魔法で転移してきて相手を皆殺しにして私にハグしてるのは知ってる。


「アッシュ……」

「あぁ、愛しのエリー。無事で良かった」

なんでこいつは褒めて褒めてみたいな子犬みたいな表情をしてるんだ。


 

「えっと、前回あれほど叱ったのは覚えていないのかしら?」

「ん?存在感知はしてないぞ?」

知らんわ。存在感知ってなに?どんな魔法なの?っていうか、それ魔法なの?

私の存在がどこにいるかわかるってことよね?

もっと根底から分析できるとか言わないよね?


「それに、今回は殲滅してもかまわないって見たから」

「はぁっ?どこで?ねぇ、どこで見たの?」

私、あなたに指令の話はしてないわよね?

このコミュニケーション力皆無の男が屋敷を訪ねてセバスチャンたちから話を聞いているとは思えない。

もしかして夢で見たとか?

それはそれで怖いけど。

 

「えっ、ここに来た時にエリーの記憶を覗いたら、指令書に書いて……」

「なに勝手に記憶を覗いてんだボケーーーーー!!!!!!!!!!!」

繰り出される私の全力のアッパー。

私悪くないわよね?


「エリー、いたい……」

なに叱られた子犬みたいにしょんぼりした目になってるのよ!

泣きたいのはこっちよ!

記憶を覗くってどういうことよ!

個人情報に配慮しなさいよ!

それに私のアッパーあなたの顎で止まってて振り抜けなかったから私の拳が痛いわよ!

 

「エリー、ヒール」

こいつは私の拳が少し赤くなってるのを見てヒールをかけてくる。

ついでに教主の魔法で傷ついたお肌も元通りね……


「って、違う!そうじゃないのよ!なんであなたがここにいて、敵さんたちを皆殺しにしてるのか聞いてるのよ!ほらっ、事前に心の準備ができなかったせいで信徒たちの首に囲まれてカリナが涙目よ!」

「むぅ……すまん……迷惑だったか」

くっ、卑怯な返しを……。


私は理由や思考を聞いてるのよ。

そんな言われ方をしたら『ありがとう。助かった』しか言えないじゃないの!!!!


ありがとう。助かった……けど。

けどなのよ!


やりすぎなのよ!

もぅ……。


「アッシュさん、助かったぜ。さすがに数が多くてどうするか考えてたところだった」

私はまだ怒っているというのに、ダリウスは床に突き立てて固定していた盾を引っこ抜いてアッシュにお礼を言ってるのがまたイラっとするわ。


「アッシュ様、助かりました。助力に感謝を」

ライラも丁寧にお礼を言ってるし……。

こらっ!まんざらでもない、みたいな顔をするな!……まったく……。


ていうか、転がった信徒たちの首を消すんじゃない!

証拠が何も残らな……いや、いらないか。

どうせ魔神を信仰していた者たちだしね。



なんかムカつくのに、綺麗にまとまっててなんなのよ!

 







……終わったものは仕方ないので報告しましょう。

敵は全滅している上に、アッシュが首も体も全部消し去ったから何もすることはないし……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る