第29話 バズ




プルルルル...プルルルル...


深い眠りから俺を覚ましたのは、枕元に置いたスマホの音だった。


まだボンヤリする頭を動かしながらアラームを止めようとして、それがアラームではなく通話の着信だったことに気づく。

級長の黒川からだ。


「ぁいもしもし」


画面をスワイプして、掠れた声で通話に出る。


「おはよう、葵」

「ぉはよう」

「チャンネル見た!?」


挨拶をするやいなや、黒川は興奮した声で本題に入った。


「チャンネル...?いや、見てない。今起きたところだから」


そう言えば、と思って部屋の時計を見ると時刻は8時前。

寝坊では無いが、これから支度をして向心寺から学校まで帰って、9時の始業に間に合おうとしたら少し急がないと行けないかもしれない。


「今すぐあおチャンネル見て!凄いことになってるよ!」


凄いこと...?


イマイチ話が見えてこず首を傾げるが、言われた通りにYourtubeの自分のチャンネルを開く。


「このチャンネルがどうしたの.........え?」

「凄いことになってるでしょ?」


画面を見て思わず固まる。

それに気づいた黒川が得意げに話してくる。ニヤニヤした顔が通話越しにも分かりそうなーーいや、そうじゃない。


「いや、え??」

「そんな反応になるよね。俺らも最初信じられなかったよ」


黒川の話が耳を通り抜ける。

思考が止まり、動きが固まる。


俺の目の前の画面には昨日までとは大きく異なる文字が書かれていた。


チャンネル登録者数:18025人


と。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「おかえり〜」

「ただいま」


俺の帰宅に気づいたクラスメイトが声をかけてくれたので、応える。

それで皆俺に気づいたらしく、こっちを向いた。


寝起きで衝撃の事実を目の当たりにしてから、しばらく経った。

瑠奈と飛鳥達に挨拶をして向心寺を出て、そのまま聖城学園に戻ってきた。


一限が迫っていると思っていたが、都合よく自習ーー自由時間ーーになったようだ。

という事で俺の後ろから。


「こんにちは。初めまして...」


聖城学園の俺たちの教室まで着いてきた彩が顔を出して挨拶する。

「おぉ〜」と小さく教室がざわめいて、注目が集まる。


「初めまして。いつもウチの姫宮がお世話になってます」


一番手前にいた白峰が、冗談っぽく挨拶を返した。


法院女学院は生徒数も避難民も聖城学園より遥かに多いためか、授業の出席はかなり自由らしい。

今回の事件は俺たちの今後の活動にも大きく関わることなので、一緒に話し合いに参加しようとなって、聖城学園まで連れてきたのだ。


ほとんど男子しかいない聖城学園に入ることに抵抗はないのか、と聞いたが大丈夫らしい。「なにかあったらあおくんが守ってくださいね!」と冗談めかして言われたので、俺が責任をもって見守っておくことにしよう。


軽く自己紹介をし合って親交を深めあったあとで、話し合いを始めようとなった。

中学一年の『原災』以降、家族含め女性と全く関わってこなかった奴らばかりなので、彩さん相手に緊張してる奴も多かったが、概ね会議ができる程度にはなっただろう。


「えーっとまず、今回の登録者の増加の原因に関してだけど、どうやら掲示板で拡散されたらしい」


いつも通り会議を進行する黒川がそう話し始め、パソコンの画面を見せてくれた。


「どうやら昨日の配信中に視聴者が掲示板で共有してくれたらしい。それが偶然見つかって、そこから更に色んな人が色んな所で拡散してくれたみたいだよ」


この短期間で突き止めたらしい原因を教えてくれる。


「まぁ元々姫宮の配信って社会的価値は凄く高いしな。一度世間に見つかれば跳ねるとは思ってたけど...」

「想像通りだね」


説明を聞いてクラスメイトから感想が飛んでくる。

確かに、それは当初から狙っていた路線ではある。ようやく実を結んだと言ったところだろう。


「一度見つかればあとはどんどん伸びていくでしょ」

「うん。今もまだ伸びてるよ」


クラスメイトの言葉に、俺は自分のチャンネルの画面を見ながらそう言った。

朝起きた時よりも更に登録者が増えている。ここからまだ更に増えていくだろう。


「で、ここからが本題なんだけど」


そう区切ってから黒川がこちらを見た。


「姫宮、ステータス画面を見せてくれ。登録者に従ってスキルレベルも上がってるはずだ」


そう要求してくる。

俺は既に確認しているが、クラスメイトたちはまだ見ていない。


「あぁ、めっちゃ上がってたよ」


俺はニヤリと笑ってからステータス画面を開き、みんなに見せる。


ーーーーーーーーーー

姫宮 葵


Lv.7


攻撃力:26

防御力:24

体力:24

速度:21

知力:18

魔力:26


能力

【バズ・エクスプローラ】 分類:配信スキル 付与者:呑天の女神

スキルLv.16

チャンネル登録者人数:18637人

アビリティ:魔法【電撃エレクトリック

      スキル【強攻撃クリティカル

      スキル【防御ガード

      スキル【投擲スロー

      スキル【攻撃力増加】

      魔法【緋炎】

      スキル【飛脚】

      スキル【配信画面設定】

      スキル【自動回復】

      スキル【接射】

      スキル【防御力増加】

      スキル【苦痛耐性】

      スキル【強化支援】

      スキル【撮影力強化】

      スキル【魔力自動回復】

ーーーーーーーーーー


「うぉおおおおお!」

「ヤバw」

「エグい!スキル多すぎ!」

「魔法は一つも覚えなかったかぁ」

「いやでも思ってたよりスキルレベル高くなってないかも」

「スキルレベルの16って結構高いよ」

「傾斜かかってんなぁ」

「レベル上がるほど、レベルアップに必要な登録者数増えるのか......当たり前だな」


ステータス画面を見ながら各々が好きに感想を言い合う。


皆が落ち着いてから、一つずつスキルの確認をして行った。

火力を上げるスキルやステータスを上げるスキルなど、有用そうなスキルが多く手に入ったが、特に気になったのは戦闘と関係の無い2つのスキルだ。

【配信画面設定】と【撮影力強化】だ。


即ち、配信環境の向上スキル。


【配信画面設定】は、配信の待機画面や枠組みを設定したりコメントを映せたりする。

今までのスキルはあくまで、撮影した映像をそのまま配信に垂れ流すことしか出来なかったため、画面を弄ることはできなかったのだ。


【撮影力強化】は、カメラワークが良くなるみたいだ。複数のカメラで撮影されるようになり、その中から自動で選出されたカメラの映像が適宜配信に映るみたいだ。俺が自分でカメラを選ぶことも出来る。


普通のYourtuberで言うと機材環境が整った感じだろうか。

登録者が増えた今、戦闘で使えるスキルだけではなく配信系のスキルも必要なのかもしれない。


「じゃあこれからどうしようか」


一通りスキルの確認が終わったところで、黒川がそう投げかけてきた。


「強力な戦闘スキルが手に入ったし、姫宮の戦闘力も上がっただろう。一方で彩さんは今まで通りでしょ?このまま甲山ダンジョンに潜り続ける?」


と、今後の展望を尋ねてきた。

強くなれば、新しいダンジョンに移るのが探索者だが、今回のようなイレギュラーな強化の仕方ならどうすればいいのか。


黒川の問いに、クラスのみんなと話し合う。


「序盤のダンジョンって潜るメリット少ないから、出来るなら早めに高難易度ダンジョン行って欲しいけどね」


「でも佐枝さんが大変でしょ」

「ヒーラーだからある程度スキルレベル低くても行けるんじゃない?ステータスレベルの方は葵より高いし」


「というか、姫宮も上がったのはスキルレベルだけでステータスレベルは上がってないんだよな」

「ステータス増加系のスキルがあるとはいえ、実際のステータスはまだ初心者相応ってことでしょ?」

「技の幅が広がっただけで強くなったとは言いづらいかな」


「でも姫宮のチャンネルの登録者が増えたってことは、同接とコメント数のバフも大幅に増えるって事でしょ?」

「それはそうだけど...」

「実際どれだけバフ量が増えてるか分からないからなんとも言えないけど」


話題は、俺のステータスの話に映ってきた。

スキルレベルは上がったと言えども、ステータスはレベル7のまま。

しかし、次回から同接が増えればバフ量も増えることが予測される。


普段の同接100人くらいだとバフ量は+3〜4。昨日の配信で半日分のコメントが溜まっても+6くらいだった。ここに俺のスキルや彩の魔法によるバフも上乗せされていたが。

コレが今後はどれくらい伸びるのかが分からない。

同接数とバフ量が比例するのかどうかも分からない。

その状態で今後のことを話し合っても無意味かもしれないな。


「ならさ、一度テスト配信しない?」

「テスト配信?」

「あ、僕も同じこと考えてた」

「何それ」


俺の提案に皆から反応が帰ってくる。


「視聴者がどれくらい増えるかも分からないし、それでバフ量がどれだけ増えるかも分からないから、一度それを確認するだけの配信をすればいいんだよ。あとは【配信画面設定】と【撮影力強化】の効果もその時に確かめればいいし、俺がいきなり大人数の前で緊張しないための練習も兼ねていいかな」


「なるほど。確かにダンジョン探索以外の配信をしても問題ないしな」

「改めて新しい視聴者に能力の説明とかしてもいいし、配信のルールとかも整備した方がいいかもね」

「ならついでに、新しい戦闘スキルの検証もその配信でやればいいんじゃない?」

「確かに」

「テスト配信として、雑談と検証をやる感じかな」

「質問とか事前に受け付けてもいいんじゃない?」

「そうだね。何をするにしても一度テスト配信は挟んだ方がいいかも」


クラスから概ね賛成の反応が帰ってきて、その方針で固まっていく。

その後も細々とした事を話し合って、2限が始まるまでに今後の行動を決めた。


ひとまずは明後日の水曜日の夕方から。向心寺でテスト配信をして、そのまま甲山ダンジョンの浅い階層で新スキルの検証を行うことに決めた。





〇 あおチャンネル@ダンジョン探索配信. @aoao_1mm8

【告知】

現在多くの方にチャンネル登録していただいています。

誠にありがとうございます。

これを受けて‪✕‬/‪✕‬(水)にテスト配信をしたいと思います。

新規の皆さんとの顔合わせと、新しく発現したスキルを試したり検証したりする予定です。

ダンジョン探索の配信を期待して登録してくれた方も多いと思いますが、少しだけお付き合いください。

_.'[_]4 ⇆602 ♡2770 艸42万






第29話 バズ

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