第28話 帰還




パチパチと炎が破裂する音が聞こえる中、床に倒れ伏したリトルドラゴンが起き上がる。


リトルドラゴンが一体。

その傍にウルフが二体。

一番奥にシャーマンが一体。


度重なる高火力魔法によって敵は大きく数を減らし、残りの魔物はこの四体だけだ。


俺はもう【緋炎】を撃つ魔力が残っていないが、魔法は十分すぎるほどに成果を残していった。

遠距離攻撃が脅威のカタパルトが倒せたのが大きいだろう。サムライまで倒せたのは嬉しい誤算だ。


リトルドラゴンは全長2メートルほど。翼を広げれば幅は3メートルを超える巨大生物だ。

ボスのオーガと遜色のない大きさの身体を持つこの魔物はその強さもオーガに匹敵する程で、この迷宮のボス部屋以前では最も危険な魔物となっている。近距離から【緋炎】を二発食らってもなお動けているこの現状がその強さを証明しているだろう。

ただし明確な弱点がある上、【電撃エレクトリック】に非常に弱いため、対単体なら問題なく倒せる。

【緋炎】を撃つ魔力はもう残っていないが、【電撃エレクトリック】ならあと1,2発は撃てるだろう。


ウルフは魔法耐性が高く生き残っているが、今の俺のステータスだと大して怖くない。

後ろにいるシャーマンもこれ以上なく厄介な相手だったが、単体だと戦闘力は大したことない。

油断しなければもう大丈夫だろう。


ーーあ!逃げたっ!!


シャーマンが負けを悟ったのか、他の魔物を置いて後方に逃げていった!

損切りの早いやつだ。


シャーマンから意識を離し、手前の三体に集中する。


普通のドラゴンと違い、リトルドラゴンにブレス攻撃はない。

高速飛行による突進と噛みつき攻撃だけだ。

ウルフも同じく突進と噛みつき攻撃。


身構えるも、相手の方から動き出しそうになかったので俺から動く。

先手を取ってリトルドラゴンへ魔法を飛ばす。


「【電撃エレクトリック】」


電撃がリトルドラゴンに飛んでいき、その動きを止める。


「彩バリア頼む!」


彩に指示を出して飛び出す。

動きを止めたリトルドラゴンへ肉薄し、身を屈める。


「【防殼プロテクト】ッ【防殼プロテクト】ッ!」


動き出した俺にウルフが突進してくるが、彩が魔法で食い止める。


その隙に俺はリトルドラゴンに頭の下へと潜り込み、剣を振り上げる。

狙うは顎の下。

リトルドラゴンの唯一絶対の弱点。

「逆鱗」である。


下からの攻撃は狙い通り逆鱗に的中し、首元を深く切りつける。

振り上げた剣を再び振り下ろし、もう一度。

今度は更に深く傷が開き、リトルドラゴンの血が頭上から降ってくる。


直後にウルフが俺の元へと突進してくるが、一体目の噛みつきは俺に付与されていた【防殼プロテクト】が防ぐ。

すぐに剣を構えて、2体目の突進を受け止め、返す刀でウルフの身体を切り裂く。

一体目のウルフを蹴飛ばして、迷宮の壁に激突させる。


硬直状態が解除されたのか、リトルドラゴンが動き出し、苦悶の悲鳴をあげる。

見た目通り傷が深いのか、動きが随分と緩慢なので、再び動き出される前にトドメを狙う。


剣を振り上げ、少し上がった首目掛けて跳ぶ。

2度の攻撃で深々と切り傷の入った逆鱗付近に向けて、精一杯剣を振り下ろす。


ビュンっと風がなって、気持ちのいい手応えが剣から帰ってくる。

少し遅れて、ゴトンッと巨大な物体が地面に落ちてくる。

首から切り離された、リトルドラゴンの頭体だった。


頭体と胴体が合わせて塵となっていく。


それを側に、壁際に蹴飛ばされた最後のウルフのもとへ行きトドメを刺した。


一応当たりを見渡すが、魔物は残っていない。

全滅だ。


深く息を吐き、肩を下ろす。

俺たちの勝利だ。


「お疲れ様です!」

「あぁ。支援ありがと」


戦闘が終わって駆け寄ってきた彩と、笑いながら声をかけ合う。


まだ残り火と熱気が漂う中、最後の処理として魔石とドロップアイテムを拾いあった。

ドロップアイテムはリトルドラゴンから2つ。竜胆と竜の宝玉だ。


『うぉおおおおお!勝った!』

『お疲れ様!!!』

『ナイス』

『おつかれ〜』

『ビクトリー!!!!!』


「視聴者のみんなも応援ありがと〜」


コメント欄からも労ってくれる。

コメントと視聴で俺に力を与えてくれた視聴者にも感謝の言葉を伝える。


ーーーーーーーーーー

姫宮 葵


Lv.7


攻撃力:26(+11)

防御力:24(+6)

体力:24(+6)

速度:21(+6)

知力:18

魔力:26


能力

【バズ・エクスプローラ】 分類:配信スキル 付与者:呑天の女神

スキルLv.7

チャンネル登録者人数:493人

アビリティ:魔法【電撃エレクトリック

      スキル【強攻撃クリティカル

      スキル【防御ガード

      スキル【投擲スロー

      スキル【攻撃力増加】

      魔法【緋炎】

ーーーーーーーーーー


レベルも1つ上がり、チャンネル登録者も凄い増えている。この30分で20人くらい増えた。

同接も200人に届きそうな程で、バフの数値は見たことのない値になっている。

コレのおかげで、カタパルトとサムライを倒せたのかもしれないな。


「少し休憩しますか?見張っておきますよ」


魔石を拾い終わって、彩がそう提案してきた。

かなりの激戦だったから、ここで休憩を取れるなら取りたいが...


「いや、大丈夫だ。逃げたシャーマンが別の魔物を連れて戻ってきてもおかしくないからね。早くここから離れよう」


疲労困憊という訳でもないため、迷宮を上昇することを選んだ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


そろそろ地上に着くか、と言ったところで通路の向こうから足音が聞こえた。


咄嗟に足音を潜めて警戒するも、それが魔物ではなく人の足音であることに気づく。

そのまま進むと、見知った2人の顔が現れた。


「お...?」

「彩!葵!良かったわ。無事だったのね!」


俺たちの顔を見るなりそう言ってきたのは桜島瑠奈。後ろには早乙女飛鳥もいる。

向心寺にいるはずの二人だ。


瑠奈は全身を白と赤の鎧でつつみ、人間大の大きさの盾を持っている。

飛鳥は向心寺の時とおなじ、白い袴姿だ。


駆け寄って2人と合流してから尋ねる。


「どうして二人がここへ?」

「心配してきたのよ!配信を見たら二人で遭難していたから!」

「僕らも用事があったから遅くなった!ごめん」


二人がそう説明する。

配信を見て俺たちが遭難していることに気づき、助けに来てくれたそうだ。


「いえ、ありがとうございます。わざわざ助けに来てくれて」

「気にすることないわ!友達だもの!でももう魔物たちは倒したのね」

「おう」

「なら帰りましょう。疲れているだろうからあとは私たちが先導するわ!」


そういって瑠奈がすぐ引き返す。

もう地上まで近いので難敵に会うこともないだろうが、いずれにせよ疲弊がキツい。

ここは言葉に甘えて二人について行くことにしよう。


二人も覚醒者で、俺たちと同じく比較的新人だから梅田には行かなかったみたいだ。

といっても俺たちよりはレベルも高いが。


案の定魔物と会うことも殆どなく、1度だけ遭遇した数体のウルフも、遭遇するなり瑠奈が大盾で殴り殺していた。

涼しい顔をして、疲れの気配すら感じさせなかった。

飛鳥の出番もなかったようだ。


そのまますぐにダンジョンの入口までたどり着く。

地上にあるロープを下ろしてから、それを登って地上へと上がる。


外は真っ暗で月と星が天高く輝く。

深夜も深夜。

ダンジョンから出て使えるようになったスマホを確認すると、日付も変わっていた。

半日以上ダンジョンに籠っていたことになる。まぁその半分はボス部屋で過ごしていただけだが。


「今日はもう遅いからウチに泊まって行きなさい!」


瑠奈がそう提案してくれた。ウチとは向心寺の事だ。

明日は月曜日だが、朝帰れば問題ないだろう。覚醒者はある程度授業の出席を免除されている面もあるしな。


議論することも無く、俺と彩はそれに従って、向心寺へと向かった。


疲労も酷く早く寝たかったが、流石に半日ダンジョンで遭難したママの姿で寝る訳にも行かず、シャワーだけ浴びて新しい服に着替える。

昨日まで俺が寝ていたところに再び布団を敷き、寝っ転がった。


昨日までは聖城学園の他の人らもいた大部屋だから、酷く静かに感じる。


真夜中の静寂と極度の疲労に誘われて、俺は眠りへと沈んで行った。






その夜。


半日にも及ぶダンジョン探索の配信。

それが拡散され、多くの人が俺のチャンネルに訪れる事になるとは、俺は想像すらしていなかった。






第28話 帰還

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る