IWAS HERO~異世界帰りの元勇者は三十歳で無職だし昼間から酒飲んで職質されるどうしようもないクズだけど、女の子が泣いていたら助けにいきます~

モンチ02

第1話 こんな主人公は嫌だ

 



「あ~異世界転生して~。チート俺つえ~してギルドの美人受付嬢とか猫耳少女とかクール系女騎士とか巨乳エルフとかにチヤホヤされまくりて~」


 平日の昼間っから、公園のベンチでビールを飲みながらヤバいこと言っている俺は相当人生終わってるだろう。


 もし公園に無垢なガキんちょがいたら、こんな大人にだけはなりたくないと心に固く誓うはずだ。

 幸いなのかどうか知らんが、今はガキんちょたちも学校に通っているのかひとっこ一人いねぇがな。


 ちぇ、折角この俺が反面教師をしてやってんのに間が悪いじゃないの。まあいいや、そしたら学校が休みの日にも来てやるよ。


 なんてったってこちとら毎日休みみたいなもんだからな。がっはっは!


「か~~! ビールうんめぇぇ!!」


「ちょっとすいません、少しよろしいですか?」


「あん?」


 急に声をかけられたと思ったら警察官だった。

 若くてイケイケな感じの二人組。気にいらねぇ、気に入らねぇよ。一度も会ったことがないし、まだ何もされてないけど兎に角気に入らねぇよな。


 特にこっちのスポーツ系の奴はマジでいけ好かねぇ。


「あ~警察官様ですか。何かございましたでしょうか? 事件ですか? 殺人事件ですか?」


「いえ~そういうのではないんですよ。ただね、こちらの公園で不審な男がうろついているとの通報がありましたので様子を見にきました」


「あら~それはご苦労様です~。最近物騒ですからね~」


「ええ~本当に~」


 まあ確実に俺のことだろうな。

 今この場において俺以外の不審者なんかどこにもいねぇし。


「でね~お兄さん、免許証かマイナンバーカードを確認させてもらってもよろしいですか? 別に変な意味じゃなくて、一応ね?」


 やだも~間違いなく職質されてるじゃ~ん。

 はぁ……やってらんねえよな。もし仮に俺がジャ〇プとかな〇う小説の主人公だったとして、一話目から職質される主人公なんて嫌すぎる。


 そんな主人公今までにいたか?


 ないないないない。

 いねぇよ、そんなろくでもねぇ主人公は今までお目にかかったことねぇよ。大体誰がそんなクソ野郎を主人公にするかっての。読者から反感買って炎上しちゃうって。


 今の世の中は何かあればすぐに炎上しちゃからね。あ~怖い怖い。


「あの、よろしいですか?」


「ああすいません、ちょっと考え事を。ええ……まぁ、いいですよ。保険証でいいですか?」


「はぁ、それでいいですよ」


 良い歳こいた大人が免許証もマイナンバーカードも持ってないのやばくない? っていう呆れた目で見てくんのやめてくんないかなぁ。

 こちとら免許証もマイナンバーカードも持ってねぇんだよ。


 あるのは国民保険の保険証だけ。最低限これくらいないと、年齢確認されて酒が買えないからな。


 どこのコンビニも年齢確認してくんのやめてくんないかな。子供じゃないって見りゃわかりますよね。爺さんにだって容赦なく聞いてくる店員いるからな。この国はいったいどうなってんだよ。


 とか頭の中で文句を並べながら、ポケットに突っ込んでいた保険証を取り出して警察官に渡す。


 保険証に書かれた個人情報を確認しながら、警察官が俺のことを“蔑んだ眼差し”で見下ろしてきた。


津積つつみ比呂ひろ、三十歳ね~……ご職業は何を?」


「はっ、これが働いている人間に見えます?」


「はぁ~やれやれ。あのさぁお兄さん、三十歳なんてまだ若いのに人生諦めるのは早いんじゃないんですか~? こんな所で昼間からお酒飲んでないでしっかり働きましょうよ~」


「うるせ~な、余計なお世話だよ」


 働けるもんなら働いてるっつうの。


「はぁ~こっちは親切で言ってるのにそんな言い方ないでしょ。これだからクズの相手をするのは疲れるんだよなぁ」


「あん?」


 なんだこいつ、偉そうにしやがって。

 警察官だからって人様をクズ呼ばわりとか調子に乗ってるんじゃねえぞ。


 ああ、“だから”か。

 最初から気に入らねえ奴だとは思ってたけどよ、本能で嗅ぎ分けてたんだな。こいつは警察官の皮を被ったクソ野郎だってことをよ。


「やめとけ、言い過ぎだぞ」


「い~や、言わせてもらうね。こっちは毎日必死に働いてんのに、こんな奴の通報を受けてわざわざ来させられるこっちの身にもなって欲しいっての。ただでさえ毎日クズの相手をして疲れてんだからさ、勘弁して欲しいよ全く」


「うるせぇんだよ! さっきからクズクズって人を見下しやがってよぉ! 警察官がそんなに偉いってのかよ、ああん!?」


「あっおい! 警察官の胸倉を掴むとは何てことだ!? 公務執行妨害で逮捕するぞ!?」


「上等だこらぁ! 捕まえられるもんなら捕まえてみろやアホんだらぁ!!」






























 ――ガシャン。



 そして俺は捕まった。


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