第3話
「おはようございます」
「おはよう......なのかしら?」
「うう......眠い.........」
「大丈夫そうですか?」
「だってぇ....まだ僕の活動時間帯に入ってないんだもん........」
尚、時計台が示す時刻は既に21時を回っている為に生活時間が狂っている一部ライバーにとってはまだ午前中である。そして東京からアメリカまで向かう時間と時差を含めると大体日本時間から-6時間となるので、あちらについた時点で私達はまた夕方を味わうことになるのだ。最早生活リズムもへったくれもない。
「だとしてももう夜9時ですよ?!」
「今日ねえ、ちょっと寝る時間が遅くてズレちゃったんだよ」
そして再び目をこすりながら欠伸をかます彼女、月待うたね。
本名を野村日和という彼女は翔真さんと同じく三期生のライバーであり、基本的に目が覚めている様子を日中に見ることがないという程の夜型人間だ。
中の人である彼女の眠たげな表情を鮮明に映し出せるように開発部門が命を削ったモデルには、名前が示すように柔らかな雰囲気を重視したパステルブラウンを基調としたフード付きポンチョが着せられている。
そして深夜に気が向いたら姿を現し、夜が明けるとともに何処かへと姿をくらますという見た目通りの気まぐれさを持つ反面、たまに鋭かったり落ち着いた雰囲気のままダークな話題に突っ込んだりするというスパイスも兼ね備えたライバーである。
「あれだけ前日くらいはちゃんと寝ておけと言ったのに......」
「んにゃ、そういえば昨日フーカにそんなこと言われたような気も」
「やっぱり忘れてたのね」
対してフーカと呼ばれたのは二期生ライバーであるフロンティスカ・ディストルーラー。
本名を文野香月といい、俺君や舞花さん達と同期なので一応このメンバーの中では最も先輩ということになる。
魔術師である彼女は黒を基調としたローブにとんがり帽子という風貌のモデルを持ち、衣装は高い身長とスラリとした身体を隠しきらない程度に上手く仕立て上げられている。しかし情報量が少なくならないようにローブは厚手でかつふわっとした形を維持しており、アクセサリーなどが程よく情報量を追加したことによってのっぺりとした印象を無くしている。
そして魔道具を操る『魔術技師』である私とは違い、『魔術師』である彼女は生身で魔術を発動させることが出来るという設定上の利点はあるものの、どうしても魔術師という広く使われているジャンルのキャラクターであるが故にキャラが薄れやすい......訳もなく。
人々を魅了するその甘めな声が織りなすASMRや歌枠。そして的を得ていながらも人々を肯定して楽な方へと誘い、そして堕落させてゆくという解決性と漂う悪役感、そんな埋もれやすいキャラクターを突き詰めた世界観が高い依存性を持つお悩み相談室も高い人気を誇る。
「だって昨日は届いたゲームがあったから......」
「それを今日の朝方まで進めていたということ?」
「そういうことになります」
「マヤちゃん、判決を」
「
「なっ?!」
仮にも会社の出張前日、というか当日に夜更かしをかましたのは如何なものかと思う。まあ別にそれで遅刻をしたとかそういうわけではないので罪はないのだが、取り敢えずここは有罪判決。
「でもさー、マヤちゃんも今日配信してなかった?」
「まあしてましたけど単なる雑談配信ですよ?」
「何話してたの?」
「幼少期に父の腕枕で爆睡しすぎてハネムーン症候群に陥らせたっていう話です」
肘をついたり腕枕をして寝ているうちに腕を圧迫し、目が覚めたら手が痺れて動かないという症状に陥るものである。うちの父は一週間ほどで自然治癒したが普通に危ないので気を付けよう。
「えぇ.......」
しかし、若干引いたような表情を浮かべたフーカさんを見逃さなかったのはうたねさんである。
「おー、フーカもしかして後輩にビビってる?」
「ビビってるっていうよりもその生意気な後輩をどう料理しようか迷ってるところよ」
「......マヤちゃん、助けて」
「今魔道具がないんでちょっと無理かもしれないですね」
うたねさんは舌なめずりをしたフーカさんを見て私の後ろにのそのそと回り込んだものの、残念ながら単身で魔術を繰り出せる人を相手に対抗できる手段が私にはないのである。
「大体人選したのは運営だし。僕は悪くないもん」
「確かに人選ミス感は否めないわね」
「過眠にヴィラン、闇深ドスケベエンジニアかあ」
「なんか酷くないですか?」
「事実だろ。デバッガ開いてヨガってんだから」
「さて、フーカさん。お願いします♡」
「承知したわ♡」
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