【海外編】VTuber事務所のスタッフですが、配信をすることになりました
夜桜リコ
第1話
本作品は本編である『VTuber事務所のスタッフですが、配信をすることになりました』のサブストーリー扱いなものになります。3D祭直後にEn設立の為マヤさんが海外出張に行くというお話なのですが、基本的にシリアス感が若干強めなので書き上げた上でボクが没にしたお話になります。個人的には元々予期していた世界ではないので闇に葬ろうかとしていたところ、残しておいてほしいと言ってくださった方がおりました故、残させていただきます。
なので是非本編をお楽しみの上、読んでみて頂ければ幸いです。というか本編切り抜いてきたという欠陥工事なので本編見てないとよくわかんないことになると思います。
本編 : https://kakuyomu.jp/works/16817330665593320102
*
「おい妹子」
「んー?」
妹子は悪びれたような風もなく、なんとなーく聞き流すように返事をする。
「んー?じゃない。何私の配信荒らしてくれてるんだ」
「部屋コードとパスを開示してたのはねーさまでしょ?それに送ってもらっている身で何を言う」
「うぅ......」
現在私は空港に行く為に妹子を召喚、スーツケースを妹子の車に放り込んで送り届けてもらっている次第である。
「だとしても確率的に入れるのはおかしいでしょ」
「だってねーさま適当な四ケタパスワードって絶対"1024"にするんだもん」
つまりこいつはパスワードを予測して既に打ち込んでいたので誰よりも先に入ることが出来たということか。確かに妹のコントローラー操作はかなり精度が高く、その実力は家庭用ゲーム機の純正コントローラーで世界を獲りに行くほどの実力を誇る。
だがそれを以て本職が出てくるのはどうかと思う。
「本職が何イキりに来てるんですか」
「レースゲーの方がよかった?」
「そういう問題じゃない。それにあれは車の挙動と違うからゲームの挙動を読める妹子には勝てない」
「姉妹でRX-7、RX-8の勝負はアツいね」
「よく考えたら妹子そんな知識あったっけ?」
妹は前方を眺めながら笑う。
正直妹は家の車を使う為にマニュアル免許を取り、私が残していったせいでこの車を所有するに至ったわけだが、特に何か車に対する知識も興味もなかったはずだ。なんなら私のRX-8売ってゲーム機材買い替えようとしてたし。
「グラン〇ーリスモ始めた」
「なるほど」
「ちょっと気になったからネットで色々調べてみたんだよね。いや、マジな話すると軽にしようとしてたんだけどもなんだかんだこれが一番操れるという結論に至ってさ」
「お母さんみたいなこと言うね」
「試乗してみたんだけどさ、速度上げた時の安定感が段違いに悪かったんだよね。それに......きょうかくらっち?が入ってるこの車よりもペダル類がものすごく軽くて踏みづらい」
「でも発進時は軽の方が速いよ」
「まあそうなんだけどなんていうかな、正直レースするつもりもないからこれで十分なんだよね。本当に操りやすさで選んでるだけだし」
親が親なら子も子である。恐らく自分が扱う道具は馴染みやすく操りやすい物を、という考えが親子に渡って抜けていないのだろう。まあ私もそうなんだけど。
「ちなみにねーさまはあっちで使う車ってもう手配してるの?」
「基本は社用車だよ。だけど前に知人に貸してもらってた車があるから今回もそれを使うかも」
「ふーん。スポーツカー?」
「そんなところ」
「まあ気を付けてね。それに聞いた話によると中々トンデモな方々が一緒らしいじゃん」
「SNS見たの?」
「伊達に配信者やってるわけじゃないからね。界隈の情報は入ってくるのさ」
どうやらSNSで見たらしい。伊達に配信者やってるわけではないのは知っているが、単純にSNSに依存しまくっているだけなのではなかろうか。
「っていうかねーさまの会社にいる人間な時点で面白い人なのは確定なんだけどね」
「それ場合によっては失礼に当たるんだが?」
「わーってるって。お土産はグロックでいいよ」
「話聞いてた?」
妹は良くも悪くも通常運行であった。
*
「そういえばさ、前に話した私の......っていうか私が前に参加してたチームなんだけどさあ」
「うん」
「潰れたってよ☆」
「潰れたってよ☆じゃねえんだわ、前見なさい」
こちらを向いて満面の笑みで言い放った妹の腕を空になったペットボトルで小突きながら前を向かせる。流石に事故に巻き込まれた開発部門の人員補填で行く出張なのに本人が直前に事故りましたはちょっと笑えないだろう。
「だってー」
「だってじゃない。私は仮にも出張に行く身なの。それにこの車壊したら妹子だって困るでしょ?」
「そしたらお父さんのRX-7強奪するよ」
「お父さん泣くよ?」
「まあまあ。取り敢えずこれで後腐れなく転職活動に励むことが出来るって訳だよ」
そう何かを含んだような笑みを不敵に浮かべる妹子を再びペットボトルで突っつき、ジト目を向ける。
「そもそもまだ大学生でしょうに」
「細かいことは気にしない。そういえば学生でも高額バイト扱いで雇ってくれるVTuber事務所の運営企業さんが何処かにあったような」
実績によって既にある程度の実力が積まれている以上は弊社のノリに合えば入れるかもしれないが、あまりお勧めは出来ないかもしれない。
「そこは自由だけどやっぱ推奨はしない」
「ほう、その心は?」
「うちの会社、ブラックだよ」
「マ?」
「人事がガンガンに選別してるからある程度適正ある人間しか来ないけど、労基に従ってる中ではかなりブラックだよ」
弊社に居る人間が選りすぐりの人材であるということで一見円滑に回っているのだ。
しかしその水面下では労働基準法に反しない限りは仕事を振られ、休日だろうが呼び出されれば対応せざるを得ない。それにある程度の無茶ぶりも存在するが故に些細なことでパワハラだの騒ぐような人間は事前に弾かれ、社風に合う人間のみが入社することの出来るような世界。それが弊社なのである。
しかし内部では利潤を無視したジャンキー共が
そんな残業や休日出勤も弊社社員の人間性によってある人がデートの予定を入れていれば満場一致で送り出し、子供の誕生日に遊園地に連れて行く予定がある父親は如何なる場合であろうと家に帰す。これが利潤を無視して本当にいいコンテンツを作り上げようとした人間たちの情かもしれないが、その分は確実に誰かのタスクとして加算されることとなるのだ。
「人は良いし環境も良いけど仕事量は本当に辛いよ。弊社は完全に感情で回ってる会社だから」
「ねーさまみたいに開発業務を楽しめる人間じゃないと入れないかー」
「そゆこと」
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