第22話 後悔と覚悟
家に帰った俺は自室にこもり、枕で口を覆い隠しながら叫び声をあげていた。
「ぬぉぉぉ!やらかしたぁぁ!なんだよ、王国特務調査官って!俺の事完全に疑ってる目だったぞ、あれ!!」
オルフェさんの目を思い出しながら、やらかしてしまった自分の行動を後悔する。だがその一方で、なぜ彼女達が俺の元へ辿り着いたのか理解出来ないでいる俺がいた。
「というかなんで俺とネムに会いに来たんだ!?デナードの人格が変わったことで影響が出たのは、ネムの件だけじゃないはずだろ!もっとヤバい犯罪とか調査しろよ!」
俺がデナード伯爵に対して行ったのは、『ネムに関する記憶を忘れる』よう記憶を改竄したこと。そして『些細な悪も許せない性格』になるよう、人格の改竄を行っただけ。
ネムに関する記憶を忘れているのであれば、ネムにまで辿り着く筈が無い。そう踏んでいたのだが、調査団の連中はこの街までやってきた。
考えられる理由とすれば一つしかない。
「恐らく、人格が変わった伯爵が自分の過去の行いを王国へ告発したんだろう。その流れで事情聴取が行われていて、ネムの存在を覚えていないことが発覚した。護衛の依頼をしており、自分の手で半年の謹慎処分を下しているのに、それはおかしいって事になったんだな」
そこまでの流れは分からなくもない。だがネムの存在を忘れていたからといって、伯爵が変わった要因に関わっているとまで思うか?たかが護衛の依頼をしていた冒険者だぞ?
もしかして、俺の魔法が効いていなかったヤツが居て、そこから情報が漏れたとかか?……いや、俺の魔法は完璧なはずだ。
「正直に話した方が良かったか?誘拐されたネムを助けるために魔法を使いました。それが誤発動して、伯爵の人格を変えてしまったかもしれないって……」
それならAランク冒険者を助けたとして許してもらえるかもしれない。一瞬そう考えたモノの、俺は即座にその考えを自身で否定した。
「いやダメだな!幾ら何でも貴族相手に魔法使って記憶の改竄とか、投獄どころか極刑までノンストップだわ!」
この世界は前世とは違う。俺の行動が正しかったとしても、相手は伯爵。ローデスト王国を支える貴族なのだ。その貴族に対し魔法を放つなんて、反逆行為でしかない。バレたら極刑まっしぐらである。
「よく考えろ……奴隷とイチャイチャすんだろ?首と胴体が別れたら、それどころか童貞すら捨てられずに終わっちまう!」
俺の夢を叶えるため、こんなところで捕まるわけにはいかない。能力を使って逃げることは容易だが、そんなことをしたら夢を叶えることなんて一生できなくなってしまう。
逃亡生活で人生を終えるなんてそんなの嫌だ。
「多分調査官の連中は、伯爵がネムの存在を忘れていた点しか怪しんでないはずだ!伯爵達の記憶を抹消している以上、連中がネム誘拐の事実を知ることは絶対に不可能だろう!」
誘拐の件が知られていれば、ネムと同居していた俺に対して何か聞いてくるはず。それが無かったということは、誘拐について調査団の奴らは何も知らないということ。
「つまり、調査官の奴らはあくまでも『伯爵の変化について、ネムが関与しているのではないか?』とまでしか考えていないということだ!」
過去の罪について全て吐いた伯爵が、ネムの事だけ忘れていたとなれば怪しむのも仕方が無い。だがそれだけなのであれば、知らぬ存ぜぬで突き通せる。
「そうと決まれば今からナバス平原に行って、奴らより先にネムに会わねぇと!あいつ嘘つくこととか知らねぇから、間違いなく全部話しちまう!」
俺は即座に荷物をまとめて家を飛び出した。ナバス平原に行って、ネムに記憶改竄の魔法をかけなければならない。ネムの頭からも、誘拐の事実を消去する。そうすれば、調査団の連中が誘拐の事実に辿り着くことは100%不可能。晴れて俺は自由の身となれる。
「よしよし、流石俺だ!冷静に考えればこんなもんよ!」
調査団がデナード伯爵の書いた日記を見つけたことなど知らない俺は、自分の推測に穴などないと信じて疑わず、ルンルン気分で街の門へと向かってかけていった。
そしてその十分後──
無事に門へ到着した俺は、外へと向かうことが出来ずにいた。視界の先には外へと続く道がある。それなのに、俺はその場で立ち止まり、苦笑いを浮かべることしかできずにいたのだ。
「ユウキさんではありませんか!今から外へ出かけるのですか?」
「え、ええ!実は今朝依頼を受けまして!これから向かおうと思っていたんですよ!」
何故ここにオルフェさんが居るんだ?さっきまでギルド長室にいた筈なのに。そんな疑問を抱きつつも、何とかこの場を切り抜けようと頭を回転させる。
だがオルフェさんは俺を逃がすまいと、矢継ぎ早に口を開いていく。
「そうでしたか!確かユウキさんはBランク冒険者でしたよね?一体どんな依頼を受けたのです?宜しければ見せて貰えませんか?」
「え!?……す、すいません!一応冒険者にも守秘義務がありますので……」
オルフェさんの問いかけに俺は慌ててポーチを背中に回して隠した。守秘義務が何とか言っているが、普段そんなこと気にした覚えはない。今日は依頼を受けてないから見せられる依頼書が無いだけだ。
だが守秘義務とか言っとけば、オルフェさんは気を遣ってみるのを止めてくれるだろうと思ったのだ。国の調査官であるならば、そう言った事には一層厳しいだろうと。しかしそれが悪手だった。
「それなら問題ありません!我々調査官は、ローデスト王国の治安と秩序を守るために、いついかなる時でも調査をする権利を持っていますから!ですから安心して見せてください!」
そう言いながら右手を差し出してくるオルフェさん。まさかの展開に俺は一歩後ずさりする。手元にない依頼書をどうやって見せればいいのだ。
死ぬ気で思考を巡らせ、脳みそから絞り出すように一つの策を思い付く。思いついたそのまま俺はペラペラと喋り始めた。
「あ、ああそうでした!今朝フルラに引っ張られて慌てたせいで、依頼の受注そのままにしていたの忘れていました!いやぁうっかりうっかり!あはははは!」
「……そうですか!では依頼を受注したらまた来てくださいね!この街の冒険者の方がどんな依頼を受けるのか気になりますから!」
『逃しませんよ』と目で訴えかけてくるオルフェさんを尻目に、俺は逃げるようにその場を後にして冒険者ギルドへ戻っていった。
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