第1話 初めての花園

リョウは早朝の花園を歩いていた。彼の胸には重い心の傷が刻まれていた。仕事での大きな失敗に加え、長年付き合っていた恋人との別れが重なり、彼は人生に絶望していた。彼は、心を癒すために静かな場所を探し求め、この花園に辿り着いた。


花園は、町外れに位置し、訪れる人は少なかった。リョウはここで、何も考えずにただ花々を眺め、静かな時間を過ごすことが日課となっていた。朝露に濡れる花びらが、彼の心に少しずつ癒しを与えていた。


一方、マユミもまた、この花園を訪れていた。彼女は親友の裏切りと家族との不和により、心に深い傷を負っていた。誰にも心を開くことができず、孤独を感じていた彼女にとって、この花園は唯一の逃げ場だった。花々の香りに包まれながら、彼女は自分の心を癒すためにここに来ていた。


その日、リョウとマユミは初めて同じベンチに座った。リョウは本を広げ、マユミは遠くを見つめていた。お互いの存在に気づきながらも、話しかけることはなかった。沈黙の中で、二人はそれぞれの痛みを抱え、ただ時間が過ぎていくのを感じていた。


次の日も、その次の日も、二人は同じ時間に花園を訪れた。いつしか、彼らは毎日同じベンチで過ごすようになった。言葉を交わさずとも、二人の間には不思議な一体感が生まれ始めていた。リョウの心の傷は少しずつ癒され、マユミもまた、少しずつ心を開き始めていた。


ある日、リョウがベンチにハンカチを忘れた。マユミがそれに気づき、リョウに手渡す。その瞬間、二人の視線が交わった。「ありがとう」とリョウが言い、マユミは微笑んだ。それが、彼らの初めての会話だった。


その日から、二人は少しずつ話をするようになった。リョウは仕事のこと、マユミは家族のことを話し、お互いに共感し合った。花園は、彼らにとって特別な場所となり、心の癒しを与える場となった。


花園で過ごす時間が、二人の心に少しずつ変化をもたらしていた。お互いの存在が、彼らにとって大きな支えとなっていくことを、二人はまだ知らない。しかし、運命の糸は確かに動き始めていた。


二人の傷ついた心が花園で交わり、新たな希望の光が差し始める。彼らの物語は、まだ始まったばかりだった。

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