@4.借金なんて気にせずに!

「…『チェンジ』ッ!!! 『チェンジ』ッ!!」

「……ふあぁ〜っ…」


ローヤンは自身の能力、『触れた物を自由自在に操るスキル』でアテネを戦闘不能にすべく腕を振るうが、アテネには全くと言っていい程当たっておらず、そして当人は欠伸をかますという余裕まで見せている。

何だか物凄く可哀想になってきたんだが。


「フハハハハハハハハッ!!! お前の本気はそんな物か? はっ、大言壮語も甚だしいな!」

「黙れ! あぁ、クソが。何で当たんねぇんだよ!!」


俺達は遠目で彼等の戦いをボーッと気侭に見ていた。


「……お、カズハちゃんも終わったの? 勝負」

「おう。もうバッチし叩き直して教育してやったぜ!」

「教育か…僕も本当のスキルの使い方をちゃ〜んと相手に教えてあげたよ。ほら、こっちずっと見てくる。そんなに僕の教え方上手かったかなぁ〜!」


ラーベルの見ている方向を見てみると、木陰から此方を鬼の形相で見てくる般若の様な顔のナオシャンが見える。

これを褒めに思えるおめでたい頭になりたいぜ…


「………異常者め…」

「何か言った?」

「いえ何も。」


しかし…こう……数分もこの勝負を見てたら飽きてきたな。


「…そろそろ飽きてきたな。おーいアテネー! そろそろ飽きて来たから決着付けてくんね?」

「んぁ?」

「見えたッ!!! 隙ありいいいい!!」

「あ!? アイツ卑怯な手使いやがった?!!」


油断したアテネを見て、勇者とは思えない行動をするローヤン。


しかしアテネは奴隷の紋章を使い、俺の近くへと即時移動し攻撃を避け、ローヤンの渾身の一撃は無惨にも空を切った。


「あぇ?」

「はい終わり」

「うぐっ?!!、?」


俺は呆然とする奴に近づき股間を思いっきり蹴り上げた。



@4.借金なんて気にせずに!


「………そういう事ね。それなら先に言って欲しかったんだけど…」

「いや、何か…面白そうだったから言わないでおいた」


俺は彼にアテネが魔王軍幹部の一員である事以外の事情を一応全て説明した。ローヤンは快く負けを認めてくれ、今は共に木陰で身を休めている。

しかし…あの女の子二人からはとてつもなく嫌われてしまった。


「ローヤン様! 早く帰りましょうよ!! アタシこんな頭のおかしい奴らと一緒い居たくない!!」

「……私も…同意見です…」

「おうおうひでぇ言われようだな」

「あはは〜共に熱く熟し白熱した夜を過ごしたのに〜」

「キモっ?!!」

「…それは俺も知らん」

「まぁまぁ二人共…そんな事言わずにさ、ね?」


勇者の言葉であのギスギスした空気が少し緩和される。今の状況的にはとてもありがたい。


「僕は君達が無事でいてくれるだけで嬉しいよ…ありがとう。僕の大切な仲間達…!」

「ローヤン様…ッ〜〜〜!」

「私ッ……一生ローヤン様に着いていきますッ…!!」

「…おい、ローヤン? と言ったか。貴様、我輩共に負けたのなら負けたなりに何か寄越せ。敗者の鉄則だろ?」

「………」


アテネが急にそう言い放つ。

…こいつ、空気読めなさすぎだろ。


「………コホン。…では、僕は僕なりに敗者の鉄則というのを守ろうか…楽しかったよ。久しぶりに勝てない相手に出会えて自分の弱さが伺えた。これはそれのお礼も込めての品だ」


ローヤンは懐から三枚の紙切れを俺達に渡して来た。


「これは前、とある国のお手伝い…俗に言うモンスター退治をしていたら御礼にと特別にと貰った品なんだ。そして、肝心のこの紙切れは『天空島 セレスティアル』への一泊二日の旅行券! そこは天空から見る絶景な景色を見ながらの温泉が観光として有名な場所だ。興味あるかい?」

「温泉…! って事は──────、可愛い女がわんさか居るって事じゃねぇかッ!! 混浴!! よっしゃテンション上がってきたあッ!!!」

「………犯罪だけは犯さないでね…」


ローヤンは俺の事を何とも言えない表情で此方を眺めた。


────


「よーーし。行くか、セレスティアル!! 借金はあるが偶には良いだろ贅沢も!」

「おい我輩の前で借金の話をするな」


俺達は今から馬車に乗り、国と国を移動する。結構ここからの距離は遠い様だ。


「お客様三名? お名前は〜〜…お、あのヘンテコパーティのカズハさん御一行じゃねぇか! 今回の馬車は騒がしくなりそうだな!! 俺の名前はヴリュズ。短い付き合いだが宜しくな!!」

「………はぁ…?」

「………おい、俺ら結構噂になってんぞ。見ず知らずの馬車のおっさんにまで周知されてるって…嫌な意味で最悪だな」

「まぁ、それ程我輩が最強で! ちょー強いと言う事だな!! フハハハハハハハハハハハッ!!! そこの汝も俺を褒め讃えよ! さすれば貴様に幸運の兆し有りとこの我が銘じィ゛ッテ?!!」

「すみません俺の仲間がすみません」


下手な事を喋りかねんアテネに細心の注意を払わねば……


「アテネが変な事言うから〜」

「貴様は黙っとれラーベル。毎日毎日女を貪るような生暖かい目で見ているそこの汝とは我輩は違うのだ」

「おい今なんつった?」

「真実を述べただけだぞ小娘。それ程沸点の低い者だとは思わなかったなぁ〜。成長もしないその体には見合わん程の性の叡智を持っている様で我輩は心配で心配で………ぷっ。」

「てめぇ…表出ろよ」

「望む所」

「すみませんあの人達だけ置いてっていいので僕だけ連れてってもらってもいいですか?」

「そこのお客さん達置いていきますよーーーっ!!!!!?」



「………」

「………」

「ねぇ〜、君達そろそろ機嫌直したら? 僕もなんか気まずいからさ。ほら、折角借金の事も考えずに旅行出来るんだしさ! ね?」

「おい借金の話しをするなと言っている」

「その借金も誰のせいで出来たか分からんがな、へっ」

「……糞餓鬼が…」


馬車の中、アテネが此方を仮面越しに睨みつけるが、俺は知らんぷりのポーズをしその場を逃れる。


「…だがまぁ、流石と言うべきか…素晴らしい景色だな。この景色を瓶に入れて保管し、我輩の自室デスクの上に飾りたい程だ…!」


アテネは窓の縁に肘を乗せ、清々しくも美しい笑みを見せる。そして流石は魔界の公爵と言うべきか、その姿はまるで紳士のようであった。


「…お前もそんな顔出来るんだな。いつも薄気味悪い笑み浮かべてるもんだからよ、少しは見直したぜ。アテネ」

「はっ、汝も我輩に謝る事ができたのか。関心極まりりだな。フハハハハハハハハハハハッ!!!」

「…ふふふ、いいじゃん。やっと冒険者って感じするね! …てか今日何処で寝泊まりするのかな? セレスティアルまでの道のりは結構長いからさ〜僕気になっちゃって、」

「……今夜は砂漠近くの野原で他の者と野宿になるとあの馬車の男は申しておったぞ」


俺達は金が無い上に収入の不安定な冒険者、宿等に泊まる事など無に等しい生活を送っている。

いつもはクエストが終わると近くの森やモンスターの少なそうな場所で野宿をしているが…最近はベッドが恋しくなって来た。


「野宿か。俺最近モフモフのベッドが恋しくなってきてるんだよなぁ俺…朝起きたら真隣でモンスターが添い寝してる事もざらにあるし…俺もう宿で寝泊まりしたい」

「いいじゃん野宿の特典だよ」

「こんなプレミアムチケットいらねぇよ」

「だが宿で毎度寝泊まりする借金冒険者が居てたまるか。普通は馬小屋か野宿の二択のみ、異世界から来たチートスキル持ちの冒険者しか楽は出来ん世界なのだよ」

「……お前を除いてな」

「おい一言余計だよクソ悪魔」

「…けどそう言ってるカズハちゃんがこの中で一番寝るの早いの知ってる? 野宿でこんなのなカズハちゃんがホテルのベッドでなんて寝たら…もう溶けちゃうかもね」

「……確かに…」


確かにラーベルの言う通りだ。こんな俺がもしホテルのベッドでなんか寝転んでしまったら…う〜ん、心配だ。物凄く。


「アテネもすぐに寝ちゃうんだから〜僕はアテネも心配だよ」

「お、悪魔のお前も寝んのか」

「我々魔人や悪魔は睡眠や食事を必要としない。正に完璧な存在なのだが、その中にも娯楽として睡眠や食事を楽しむ者も居る。例えるならば、サキュバスも精気を吸って生きては居るが娯楽として食事やらは楽しんでおる」

「我輩も娯楽として食事やら睡眠は楽しんでおるのだ! 普通に我輩は弱々しい人間のように寝なくても食事をしなくとも生きていけるのだよ!! フハハハハハハハハハハハッ!!!」


アテネの荒らげた笑い声が馬車内に響き渡る。しかし、ラーベルの一言でアテネの笑い声は止んでしまった。


「けどアテネけっこー熟睡してるよね?」

「ほら、僕一番最初に起きるから君達の事毎度叩き起すでしょ? その中でも一番寝起きが悪いのが君。前なんて寝惚けて僕に破壊光線ぶち撃ったこと忘れてないからね?」

「………それはすまぬ…」

「…てか、ラーベルお前…寝てんの?」

「それはそ」


「おいお前ら───ッ! 魔鴉が来たぞ──────ッ!!!!?」


俺達の会話はその言葉で遮られた。

そして、続くように馬車の男が声を荒らげる。


「何ッ、! 魔鴉か…お客さんッ!!! すまねぇが荷台に乗ってる右側の木箱全部外へ落としちゃくれねぇか! 中に魔鴉の標的になる『スペルソウル』が入ってる! ソイツを落としちまえばアイツらはもう追って来ねぇ筈だ!! …クソっ、普段は来ねぇ筈なんだが……」

「…魔鴉…ンだそれ?」


俺は石のたらふく入った木箱をほおり投げながらアテネにそう質問を投げ掛ける。一つ一つずっしりとしていて重いが、三人がかりなら直ぐに落とせそうだ。


「魔鴉は太古昔から居る烏の変異体、魔王城でよく見かける口煩い生き物だ。彼奴らは魔力を啜り生きておるからな、あのスペルソウルも魔力を肩代わりする魔道具…当然魔の力もたらふく含まれておる。だから狙われておるのだろう」

「……そうか。………てかさ、な〜んかこの鴉共俺とめっちゃ目が合うんだよなぁ〜?」

「よかったな、両思いだぞ」

「嫌だよ」


「………もしかしてさ、俺の魔力狙いだったりする?」


「あ。」


先頭を走っている馬車が俺達で、周りには他の馬車も並んで走行している。

……案の定、魔鴉は俺を標的にしている様で、スペルソウルには見向きもせずに此方に飛んで来た。


「何だコイツらッ?!! 魔力を含む物を落としたのに見向きもしねぇ?! このままじゃバードストライクで俺らの馬車が…!」

「いつもだったら魔道具にしか興味を持ってないのに…! どういう事なのッ!!?」


すみません、すみません。

俺のせいですすみません。本当にすみません。


…そう念じている間も、俺達の馬車に突進できなかった鴉が他の馬車に高速で突撃している。


「やばいやばいやばいやばいっ?!! どうよぉおぉ!!!?」

「ん〜……どうするこの状況」

「……あ。おい貴様。…確か〜…拘束スキルを持っては居なかったか…?」


アテネが笑いながらもラーベルにそう伝える。

何か…嫌な予感がする……




「ぴぎゃあああああああああああっ!!?!」

「騒げふためけ小娘よ! ほぅら、野蛮な鴉共は貴様の体目当ての様だ! 今にもしゃぶりつきそうな勢いで此方に近付いておるぞ!!」


拝啓、お父さん お母さん。

俺は今、馬鹿な仲間の作戦により縄に縛られて馬車から放り出され、引き摺られています。

もういっその事楽に死にたい…


「…! なんて勇敢な魔法使いだ! 多分、魔力を増幅させて自身が囮になったのだろう! なんて素晴らしいんだ!!」


周りの野次馬は俺を英雄よばわり、応援の声がけもされている。

そしてその言葉が俺の心に強く刺さる。

ごめんなさい…俺のせいなんです……

そんなこんなで狙いを定め終わった数匹の鴉が俺目掛けて襲いかかって来た。


「来たぞ!! ラーベルやっちまえッ!!!」

「りょーかいッ!」


俺はラーベルに声を掛ける。すると、俺に襲いかかってきた魔鴉共は、鋭い剣により一瞬にして真っ二つに割れて行く。…こんな感じに一匹ずつ倒していく事にアテネはしたらしい。

攻撃力的にはアテネが断トツだが…奴の能力にはおまけとしてとんでもない能力が含まれている。

地の汚染はまだしも、触れれば爛れるの領域を超え、骨まで溶ける酸性の毒が含まれる物。

吸えば死に至る毒濃霧。そして、広範囲に作用する辺りの者も含める不可避の死の予言。

……まぁ、こんな感じに周りの沢山の馬車、人が居る中で撃てるはずもなく、効率は悪いがラーベルに頼んでいる感じだ。


「あーーッ?!! 待って待って待って痛い痛い痛いッ!! 地面に擦れて痛いぃ゛ーー! 傷口がしゃりじゃりする!!」

「んも〜…それくらい我慢して。僕、集中出来なくなって君の事真っ二つにしちゃうかもよ? 冗談抜きで!」

「それは嫌だけどこの状況も嫌だ!!」

「…なんと贅沢な。良かろう、この我輩が貴様に最上級の回復魔法を」

「お前の能力は信用できん。決してこの俺に掛けるんじゃねーーぞーー!」

「フハハハハハハハハハハハハハハハッ!! 遠慮せずとももう掛けておる! 泣き言が煩く我輩の耳にタコだったのでな! 感謝するが良い!!」

「お前耳ついてんのか!!?」




「うぅううううぅ……痛い…染みるぅうぅ……」

「はいはい、あともう少しですからね」


魔鴉は払い終わり、今は丁度よさそうな場所で焚き火をし野宿の準備をしている途中だ。

そして、偶然居合わせた僧侶が今。傷口の治癒をしくれている。

…案の定、アテネの回復魔法?は逆効果だった様で、傷口の回復が物凄く遅い。

……アイツのスキルには人に害を及ぼすクソスキルしか乗って無いのか???


「…はい終わり! いつもは魔力量のせいでこんな汚染済みの傷は十二分に治せないんだけど…君の魔力を使わせて貰ったから、ほら! バッチシ治ってるよ!」

「ありがとうございます…本当に……」

「お! 僕の仲間を治療してくれてありがとうございます。ほら、アテネも感謝しないと」

「……ありがとう…ございます」

「いえ、全然全然!! ……」


そう言うと、僧侶の彼女はラーベルの方へとソワソワとしながら近付いて行く。

そして、耳元で恥ずかしそうにこう言った。


「……あの、これ…私の手紙用の送り先が書いてあるメモなんですけど…その……気が向いたらで良いので、連絡お願いします……!」



「おっ……面白くねぇ〜〜………」



───



「ここが…天空島、セレスティアルか。しかし綺麗だね〜! 絶景ッ!!」

「そうだな。彼処に人間の住む街があるのだぞ? ……む? 古来から地上に居るモンスターから逃れる為にこの場所へ辿り着いた…? ふっ、馬鹿馬鹿しい言い訳だ。所詮しっぽを巻いて逃げ仰せ、辿り着いたのがこの場所だったのだろうがな。惨め極まりない歴史だ」


アテネは先程貰ったパンフレット的なのを開いてはそう愚痴を零す。

ワチャワチャと騒ぐ中、俺はと言うととある景色に釘付けになっていた。


「………亀…?」


天空島、それは…大きな空飛ぶ"亀"の背中にある街の事だったのだ。


すげぇよ異世界…!



……To be continued

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